「喪主」はある日、突然やってくる。義母の死で煩雑な手続きに直面した財前直見さんは、50歳で終活ライフケアプランナーの資格を取得しました。「終活とは、死への備えではなく、今をどう生きるかという問い」だと語る財前さん。身の回りの整理は、大切な人への思いやりであり、自分自身が軽やかに生きるためのライフプランでもありました。墓石に刻みたい言葉「See you」に込めた願いとは。

【写真】「俳優とは印象ガラリ」麦わら帽子につなぎ姿、田植えに勤しむ財前直見さん(7枚目/全10枚)

「喪主」はある日、突然やってくる

41歳で自然豊かな地元・大分にUターンした財前さん。木登りで杏を収穫

── 財前さんは女優業と並行して、終活に関する活動も精力的にされています。資格を取ろうと思ったきっかけを教えてください。

財前さん:50歳のときに、メンタル心理カウンセラーなど6つの資格を取ったんです。きっかけは息子の中学受験でした。机に向かう息子の横で、私も一緒に勉強する姿を見せようと、資格試験の勉強を始めました。そのひとつに選んだのが「終活ライフケアプランナー」でした。

── 数多くある資格のなかで、なぜ終活アドバイザーを?

財前さん:年齢を重ねるにつれ、周囲から葬儀などの手続きで困っている話をよく聞くようになっていたんです。実際、私自身も義理の母親が亡くなった際、途方に暮れた経験がありました。義理の母親は口座番号や暗証番号をメモしてくれていたものの、保管場所が点在していて。確認しながら整理する大変さを痛感したんです。

誰もがいつか「喪主」になる可能性があるのに、いざそのときにどうすべきか、事前に誰もやり方を教えてはくれません。大切な人を失った悲しみのなかで、葬儀の手配をするだけでも大変なのに、その進め方や地域のしきたりなど、知らないことが次々に出てきます。

子どもが慌てて葬儀の手配をして費用を払った後に、実は亡くなった両親が葬儀会社の会員になっていて、生前にすでに支払いを済ませていたとわかり、時間もお金も余分にかかってしまった話もよく聞きます。

そうした状況から、「終活を通して、自分が大切にしてきたものを残された人たちにきちんと渡したい」という気持ちと、「遺された人に苦労をかけたくない」という思いが強くなったのが、「終活」の活動を始めた原点です。

終活はいつから始めても早すぎることはない

財前さんが収穫した春の山菜。SNSでは地元・大分の魅力を発信している

── 終活というと「定年退職して人生がひと段落ついてから」というイメージがあり、働き盛りの世代にとってはまだ早いと感じる方もいると思いますが。

財前さん:いえ、30・40代の方こそ、今の自分の状況を見直すために活用して欲しいです。エンディングノートには、死後の手続きだけでなく、自分や家族の現状・これからの希望を書き込むこともあるんです。たとえば自分が40歳のとき、子どもは6歳で、親は70歳になっていると、家族の年齢も書き出してみる。すると「両親も高齢だし、40歳までに家族みんなで海外に行きたいな」とか、「5年後に教育費が一気にかかるな」といった、今後のライフプランへの具体的な見通しが立つようになります。

── なるほど。

財前さん:そうすると、今やらなければいけないこと、近い将来に向けて準備することが自然と見えてきて、お金の使い方もおのずと変わってくる。「終活」とは、「死」を考えるネガティブなものではなく、「今を、これからをどう生きるか」を考えるもの。見通しが経てば、漠然とした不安が消えるのではないでしょうか。

「ノート」ではなく「ファイル」。心理的ハードルを下げる

── その思いから、ご自身でも終活アイテムを作られたんですね。

財前さん:はい。『ありがとうファイル』という終活ファイルを考えました。終活というとノートに書き込むのが一般的ですが、それだと変更や更新がしづらい。「今、書いた内容で決まってしまう」と思うと、「終活」に対する心理的ハードルも高くなってしまいます。なので、『ありがとうファイル』はバインダー形式で必要な情報だけを書き留めておく形に。データも無料で公開しています。

── 財前さんの経験と知識に基づいた仕様になっているんですね。

財前さん:そうです。終活は「よし、やるぞ」と気合いを入れて取り組む方が多いと思うのですが、そうではなくて。「大事なものをひとつの場所にまとめておく」くらいの気楽な感覚でいいと思うんです。終活のためだけではなく、何か困ったときにこのファイルを見れば必要な情報が家族もわかる、というイメージで。もう少しハードルを下げて、みなさんに終活を始めて欲しいんです。

「See you」の墓石に込めたい思い

── 財前さんは終活を通して、気づいたことはありますか?

財前さん:私が作ったファイルの最後に、「もし墓石に文字を残すとしたら?」という質問に対する答えを書く欄があり、私は「See you」と書きました。「また会おうね」という気軽な言葉です。

単なる別れではなく、「ここで終わりではない」という思いを込めています。「さようなら」ではなく、「またどこかで」「またいつか」という希望を含んだ言葉。残される人にも、自分自身にも、「つながりは途切れない」というメッセージを手渡すようなひと言です。

── そうだったんですね。

財前さん:「終活」と向き合って、「生きている今」の大切さが改めて実感できました。だからこそ、まずは今を精一杯楽しみたい。あとのことはその後。だからこその「また会いましょう」という気持ちです。

また、「終活」を通して人との繋がり、血縁を超えたご縁や絆の大切さに改めて気づきました。いろいろな人と繋がって、今の自分がいる。そう思えるだけでこれからの人生がもっと自由で、温かいものに見えてくるはずです。

取材・文:大夏えい 写真:財前直見