「風俗楽しかった。でも…」女性用風俗に100万円使い、男性用風俗でも働いた女性が抱いた“モヤモヤ”の核心
女性用風俗の店舗数が徐々に増えている。風俗情報サイト「Kaikan」に登録されているその数は現在、全国約400店舗ともいわれている。そんな注目の産業に発展しつつある「女風」について書かれた新刊『人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと』(中央公論新社)が話題となっている。
【画像】新刊『人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと』
離婚とマッチングアプリ挫折の末、女性用風俗へ
近年、女性用風俗「女風」が、漫画やドラマなどのフィクション、あるいはルポなどで取り上げられる機会が増えた。そこに出てくるのは多くの場合、何かしらの理由を抱えて女風を利用する女性たちの姿だ。
「夫とセックスレスで」「性経験がないのがコンプレックスで」「仕事のストレスを解消したくて」……そしてセラピスト(女風業界ではキャストの男性をこう呼ぶことが多い)たちはその痛みや悩みに寄り添って、彼女たちを癒す。女風に興味がある人なら、そうした“物語”を見聞きしたことがあるのではないだろうか。
『人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと』の著者である藤谷千明さんに「なぜ女性用風俗を利用しようと思ったのですか?」と問うと、さっぱりした口調で「マッチングアプリがうまくいかなかったからです」という答えが返ってきた。
「離婚をきっかけに、『結婚していたらできないことをやろう』と思ってTinderに登録しました。でも、どうも独身じゃなさそうな人ばかりから連絡が来たりして、自分が望むような関係は作れなさそうだな、って。後腐れなく遊びたかったので、『じゃあ、お金を払ってプロのサービスを受けてみよう』と考えました。女性用風俗の存在は、漫画などを通じてなんとなく知っていたので」
そして大手女風店のサイトを検索し、ひとりのセラピストを選ぶ。
「モザイクがかかっていて目しか見えないけど顔写真が載っていて、その雰囲気がなんとなく良かった。それこそマッチングアプリみたいな感覚ですね。それと、セラピストの方たちはSNSやいわゆる写メ日記をやっているので、そこから人となりを想像して『この人は嫌なことはしてこなさそうだな』と思ったのが決め手でした」
当然ながら、女風では挿入は厳禁だ。施術の基本はオイルなどを使った通常のマッサージと性感マッサージ。店舗型はほぼ存在せず、ホテルや自宅にセラピストを呼ぶ形になるので、自分が頼んだこととはいえ密室で見知らぬ男性と二人きりになる以上、性被害などのリスクはどうしても存在する。
「ただ、事前にいろいろ調べたとき、“ユーザー”を名乗るアカウントがSNSに一定数存在していて、一種の“クラスタ”ができていることが見て取れたんです。中にはサクラもいるかもしれないけど、これだけ盛り上がっているのはビジネスとして成立しているからで、つまり無法地帯ではないんだろうな、と」
初めて“施術”を受けた感想は「プロってすごい」。そしてそこから、彼が退職するまで同じセラピストを約1年にわたって指名し続けた。
なぜ女性だけ“理由”を問われるのか、女風をめぐる違和感
「マッサージや性感がうまかったし、性格的な部分も自分には合っていて。最初の頃は毎週のように利用して『大丈夫?』とちょっと引かれました(笑)。そこからだんだん落ち着いて、月に1回ぐらいのペースになりましたね。基本料金は2時間コースで2万円、指名料が2000円。
平日のお昼だとホテル代は5000~1万円程度なので、1回あたり合計3万円ぐらいでしょうか。一度だけお泊りコースを利用して、そのときは全部で10万円ぐらいかかりました。食事をしたりクリスマスプレゼントをあげたりしたこともあったので、100万円前後は使ったと思います」
だが一方で、初回の利用時から「これは性的搾取なのではないか」という後ろめたさが脳裏にあった。
「性売買に関する議論はメディアやSNSなどでずっと目にしてきました。昨今は『買う側』を処罰の対象に加える法改正についての議論が注目されていますよね。
大抵の場合、買う側や管理する店舗が加害者であり売る側が被害者であるという構図、かつ、買う側が男性という前提で話が進んでいる。でも、男女の立ち位置が変わっても、その構図は変わらないと思います。そう考えると、自分がやっていることは対等な取引とはいえないのではないか。そこにずっと引っかかっていました」
女風を使うのは楽しい。でもこれは正しくない行為なんじゃないか――答えを求めて女風に関する書籍や記事を読み漁ったが、ヒントはなかった。そしてさらに、もうひとつの疑問が頭をもたげてくる。
「女性用風俗について語る人たちの間では、『女性が風俗を利用するのは、男性と違って性欲だけじゃない』という語り口が自明のものとして存在していたんです。それがベースにあるから、男性用風俗の語られ方とはトーンがまるで違う。そこに違和感を覚えました」
その差異は、本稿の冒頭で筆者が投げかけた「なぜ女風を利用したのか」という質問にも表れている。
「女性が風俗に行ったと言うと、『何かあったのか』と内面的な理由を問われがちです。でも風俗に行く男性には問わないですよね。働く側に対しても同じで、性風俗で働く女性の内面は注目されるけど、男性に『なぜセラピストになったのか』と内面的要因を聞いている例は少ない。なぜなんだろう? とシンプルに不思議だったんです」
男性用風俗で働いて見えた、「客は大差ない」という実感
本を執筆すると決め、女風店の経営者や人気セラピスト、元スタッフなどへの取材を重ねて考えを巡らせる中で、その疑問は避けて通れないものになっていった。そして藤谷さんは、ある選択をする。
「私は女性用風俗の客だったことはありますが、男性用風俗の現場を見たことはなかった。もちろんサービス内容や価格帯などが違うことは調べればわかるけど、それ以外で女性用風俗と何がどう違うのか、本当に違いがあるのかはわかりません。現場を見ること=知ることではないけれど、自分の中で“実感”が持てなければ、それについて書くことに踏み込めないと思ったんです」
編集者の反対を押し切り、藤谷さんは男性用風俗で働き始める。そこで得たのは「女性用風俗の客としての自分も、自分が接客する男性たちも、大差ない」という結論だった。
「男性のお客さんも、性欲が先走ってはいるけれど、大抵はそれなりに“配慮”がある。こちらの身体を心配するような素振りを見せる人もいます。むしろそっちのほうが負担に感じることもあったり。あくまで私個人の体感ですが、客としての自分とあまり変わらないように感じました。それなりに気持ち悪いけど100%悪ではないという意味です」
本書の中で、この見解を聞かされたセラピストの男性は「オレもそう思う。女も男も、風俗に行く人って『寂しいから』が一番大きいんじゃないかな。でも男は、それを認めるのがむずかしい」と語っている。
「私がSNSやメディアで『男性はどうして風俗に行くんですか』と問いかけると、男性と思しきアカウントから『そんなの当たり前だ!』ってキレ気味のコメントが結構付くかもしれません。当たり前なら怒らなくていいじゃないですか。もしかしたらこの記事にもそういうコメントが付くかもしれないですが、タップして送信する前に『あれ? なんでムカついてるんだろう?』って、ちょっと考えてみてほしいですね」
最後に、「また女風を使おうと思いますか」と尋ねた。
「今はたまたま使っていないですが、また使うこともあると思います。『行かなければよかった』とは思っていない。ただ、楽しかった記憶と、これは搾取じゃないのかという問いがずっと同居しているんです。お金を介してケアを受けることの心地よさと後ろめたさは、どちらか片方だけにはならなかった。その両方を抱えたまま書いたのがこの本です」
取材・文/斎藤岬
◾️藤谷千明(ふじたに ちあき)
1981年山口県生まれ。主にサブカルチャー分野で執筆を行う。著書に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎文庫)、『推し問答! あなたにとって「推し活」ってなんですか?』(東京ニュース通信社)、共著に『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミ ュージック・エンタテイメント)、『水玉自伝 アーバンギャルド・クロニクル』(ロフトブックス)、『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(ホーム社)などがある。

