「ネットが地上波よりも自由」な時代はもう終わった…「ABEMA」開局10周年に思う“お色気”や“下ネタ”が消えたコンプラよりも大きな理由
ネットTV局・ABEMAが今年の4月11日で開局10年を迎えた。私はこの10年間、ABEMA、およびその周囲で仕事をし続けてきた一人である。「ネットで見るテレビ」という新たなジャンルの黎明期と、そのあり様の変遷について振り返ってみたい。【中川淳一郎・ネットニュース編集者】
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ネットだったら自由である
Abema TVは2016年4月11日の開局に先行する形で、同年1月21日から「Ameba FRESH!」というプラットフォームにて、様々な演者がチャンネルを持つ形で様々な企画を展開していた。

そこでは、今では信じられないが、いわゆる「お色気番組」が存在したのである。藤森慎吾と中村昌也がセクシー女優とともに、成人男性向け動画を嗜む人の間では誰もが知る「例のプール」と呼ばれる場所に行き、水着姿ではしゃいだり、千鳥の大悟がセクシー女優とともに最新鋭ラブホテルを探訪する番組などが当たり前のように放送されていた。
その様相はまるで、1980年代の23時台の民放お色気番組のようだった。が、当時のネットの世界における空気感は、現在とはまったく異なり、それが許されていたのだ。夜のニュース・討論番組「ABEMA Prime」に10年間出演していた気象予報士の穂川果音さんによると、2016年の開局当初、韓国のセクシーお天気お姉さんのような恰好を求められたり、「Iカップ気象予報士」などと紹介されていたという。しかし、「2018年以降コンプラ意識が高まり、お色気路線からの脱却があったと感じられます」と振り返った。
まさに、ABEMAの10年の変遷を知る“生き字引”による実感のこもった証言だが、確かにこの通りなのである。当時は「ネットだったら自由である」といった雰囲気がまだ残っており、ABEMAの制作陣と話をした時に「地上波テレビは規制が多過ぎて窮屈だ。ネットは自由にできるのでいい」などと言っていたのを思い出す。
しかし、その「自由にできる」の路線がとかくお色気路線だったり、昔のバラエティ番組さながらの悪ふざけのノリだったりした面もある。それこそ食べ物を粗末にしたり、芸人さんに無茶振りしたり、などである。穂川さんによるとそのノリはガラリと変わったとのことだが、開局してしばらくして、お色気・悪ふざけが必ずしもウケないことに番組制作者も気付いたのではなかろうか。
こんなに下ネタがしたかったのか
それらは確かに「地上波ではできないこと」なのだが、すぐにABEMAもメジャーになったこともあり、社会のコンプラ意識の高まりを察知し、軌道修正させたということだ。
思い起こせば2010年代前半、「コンプラを意識するあまりテレビがつまらなくなった」と、民放テレビの制作スタッフからは不満の声があがっていた。さらには、出演者からも「昔のテレビは楽しかった」といった嘆きが聞かれた。そんな時に誕生したのがネットTVなのだ。当然、民放ではできなくなったアダルト系をやりたくなるのも、そうしたものを本当は視聴者もネット民も欲しているのだと信じてしまうのも、理解できる。
しかし、それは誤解だと、私自身が気づいたのは、2010年11月14日にニコニコ生放送で配信したお笑い番組「日本エイサーpresents ザ・エンタのニコニコカーペット」に関わった時だ。この番組コンセプトは「お笑い番組 − テレビで観られないならネットで観よう! ネットで観るならエイサーのPCで観よう!」であった。
当時相次いで「エンタの神様」(日本テレビ系)、「ザ・イロモネア」(TBS系)、「爆笑レッドカーペット」(フジテレビ系)のレギュラー放送が休止し、お笑い番組が減少した。芸人さんたちの露出の機会が減ったため、ニコ動で、同番組をPCメーカーの日本エイサーの提供により放送したのだ。
賞金100万円をかけ、多数の芸人がオーディションに参加したのだが、驚いたのが、下ネタを披露する組が想像以上に多かったことだ。私は審査員をしていたのだが、取り憑かれたかのように下ネタを次々に繰り出す芸人さんたちの姿に「あぁ、彼らはこんなに下ネタをしたかったのか……」と妙な感銘を受けた。そしてこうした下ネタは、ある程度人気を取るだろうと思っていた。
ネットTVもコンプラ意識は高まるばかり
その感覚がおかしかったのに気付くのは本戦に入ってのこと。この番組では、審査員と、視聴者の投票により順位がつくのだが、下ネタを披露した組は軒並み低位だったのである。コメントを見ても「下品過ぎる」「下ネタすればウケると思うな」などと厳しい書き込みが多数あった。優勝は正統派漫才の名手・アメリカザリガニで、上位には同じく正統派漫才で勝負したタイムマシーン3号と少年少女が入った。以来、「ネットだから卑猥なものがウケる」という考え方は安易だし、封印すべきだと感じたのである。
さて、ネットTVの立ち位置だが、10年前と比べ、随分とプレゼンスは高まっただろう。NetflixがWBCの独占中継をしたのがその象徴である。ABEMAも同様だ。看板番組「ABEMA Prime」は常に新しい論客が登場するが、知名度が向上するにつれ、若手論客が「アベプラに出たい」と公言するようになったのだ。そう公言した結果コメンテーターに抜擢され、今では番組MCにまで上り詰めた岸谷蘭丸さんなどその最たる存在だ。ABEMAは最初期の頃は「テレビ朝日の異端部署」的な見られ方をされることもあったが、この10年ですっかり「格」が上がった。
FIFAワールドカップも2022年カタール大会でABEMAが無料中継し、2026年は「ABEMA de DAZN」として放送される。それだけの存在になったわけで、そりゃ当然コンプラ意識も高めねばならないだろう、という感慨を今は抱いている。さて、次の10年でネットTVはどう変わるのだろうか。
ネットニュース編集者・中川淳一郎
デイリー新潮編集部
