トランプ復権は単なる「先祖返り」だった…建国250年を前に暴かれるアメリカの「力こそ正義」という気質

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ロシアによるウクライナ侵攻、世界的な移民排斥運動、権威主義的国家の台頭、トランプ2.0、そして民主主義制度基盤の崩壊……。

「なぜ世界はここまで急に揺らぎはじめたのか?」。

発売からたちまち重版が決定した話題書、『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』(川北省吾 著)では、共同通信社の国際ジャーナリストが、混迷する国際政治の謎を解き明かすために、国際政治学者や評論家、政治家や現場を知る実務家へのインタビューを敢行。辿り着いた答とは?

本記事では、〈「アメリカの黄金時代が今、始まる」…トランプを権力の頂に押し上げた、内陸部で広がる「深刻すぎる経済格差」の正体〉に引き続き、トランプ政権が掲げる「アメリカ・ファースト」の歴史的根源などについて詳しく見ていく。

※本記事は、川北省吾『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』より抜粋・編集したものです。

核心思想

こうした気分をよく表しているのが、2025年1月15日のマルコ・ルビオの議会証言だ。当時、上院議員だったルビオは第2次トランプ政権の国務長官に指名され、人事承認を得るため外交委員会の公聴会に臨んだ。

次期国務長官候補に世界の注目が集まる中で、ルビオはこう証言する。

▼「第2次大戦後の国際秩序は時代遅れであるだけでなく、今やアメリカに対する武器として使われている」

▼「伝道師のように自由貿易を推進した結果、(国内産業が海外に移転して空洞化を招き)中間層が縮小し、労働者が危機に陥り、産業基盤が崩壊した」

▼「最大限の移動の自由を実現しようとする理不尽な熱狂は、移民危機を引き起こし、アメリカだけでなく世界中で社会と政府の安定を脅かしている」

むき出しの被害者意識である。ギャディスが指摘する通り、戦後の秩序を「是とする総意」が崩れ去ったことを物語る。「夢の喪失」後に燃え上がった「アメリカ・ファースト(米国第一)」の炎は、自由で開かれた戦後秩序を火あぶりにした。

トランプに言わせれば、アメリカの衰退を招いたのは、権力の上座でグローバル化の恩恵を受けてきたエスタブリッシュメント(体制エリート)であり、左派が巣くう「ディープステート(闇の政府)」である。

だからこそ、トランプは17年1月20日の最初の就任演説で、「ワシントンから権力を取り戻し、あなたたち人民にお返しする」と約束した。「首都の一握りの連中」が独占してきた恩恵を「国民」に行き渡らせると宣言したのである。

それは「米国を再び豊かに」することにほかならない。国民生活を底上げし、未来への希望を与え、「親の代より暮らし向きが良くなる」という夢を取り戻す──。それこそが「黄金時代」に込められた思いに違いない。

関税はそのための武器である。トランプは25年1月20日の2度目の就任演説で、「外国を潤すためにアメリカ国民に課税するのではなく、アメリカ国民を潤すために外国に課税する」と公言している。

「夢の回復」は、トランプの「レコンキスタ」だ。「都市」に対する「農村」の、「エリート」に対する「大衆」の、「ウォーク」に対する「常識」の、自由陣営の「店子(同盟国)」に対する「大家(盟主)」の失地回復である。

グレン・カールやマイケル・キメジが指摘したように、それを伝統主義や修正主義への回帰と見ることもできるだろう。光(近代)に対する影(伝統)の逆襲である。ギャディスもトランプの復権について「先祖返り」との見方を示した。

影のアメリカ

「トランプは突然変異ではない。彼はアメリカの歴史と国民の気質に深く根差している」。ギャディスはそう言うと、26年に建国250周年を控えたアメリカの「歴史と国民の気質」を説明した。

彼によれば、アメリカは自由や規範などの「原理・原則」を重んじる人々と、「力こそ正義」と考える人々のせめぎ合いの上に成り立ってきた。リベラルと非リベラルの両派が併存し、トランプは後者の流れをくむ。

「非リベラルのアメリカ」は、日本人にはなじみが薄い。第2次大戦後のアメリカは「原理・原則」を重んじ、学校の授業でも民主主義の「先駆け」として「リベラルのアメリカ」に光が当てられることが多いからだ。

その象徴が、「人は生まれながらにして平等」とうたい上げた独立宣言(1776年7月4日採択)だろう。その11年後に制定され、三権分立を国家制度に組み込んだ合衆国憲法も「世界のお手本」として強調される。

アメリカが先住民を追放、殺戮し、入植地を広げていったことは事実だが、人民の意志と努力により、民主主義に基づく「近代初の共和国」を打ち立てたという世界史的意義が失われることはない。

しかし、ギャディスによれば、アメリカは建国当初から帝国思想も内包していた。トランプのように、グリーンランドからカナダ、パナマに至る北アメリカ全体を支配する野望を抱いていたというのだ。

それを象徴するのが「自由の帝国(Empire of Liberty)」という言葉だ。提唱したのは「建国の父」の一人で、第3代大統領のトーマス・ジェファソン。「自由」と「帝国」という相矛盾する言葉に、アメリカの二面性が潜んでいると指摘する。

「『自由』は束縛からの解放を意味するが、『帝国』は力による抑圧だ。アメリカは当初からこの二つを併せ持っている。繰り返すが、トランプは突然変異ではない。映画『スター・ウォーズ』に登場する悪役ダース・ベイダーのように、『影のアメリカ』を体現しているのだ」

さらに〈「世界の警察官」の座を降りたアメリカの「ギブアップ宣言」がもたらしたもの…なぜアメリカは「唯一の超大国」ではなくなったのか〉では、アメリカが「世界の警察官」を辞めることになった経緯や、それによる国際秩序の混乱について詳しく見ていく。

【つづきを読む】「世界の警察官」の座を降りたアメリカの「ギブアップ宣言」がもたらしたもの…なぜアメリカは「唯一の超大国」ではなくなったのか