ついにW杯初出場を果たしたヨルダン。本大会のGSではアルゼンチン、オーストリア、アルジェリアと対戦する。(C)Getty Images

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 北中米大会で初のワールドカップ出場を果たすヨルダン代表は、アジアの中でも着実な成長曲線を描いてきたチームだ。アジア予選には1986年のメキシコ大会から参加。これまで本大会の舞台には届かなかったが、近年は世代交代と戦術的成熟が噛み合い、出場枠が拡大された今回、ついにその壁を突破した。

 アジア最終予選ではB組に入り、首位の韓国に続く2位でフィニッシュ。イラクやオマーンといった実力国を上回り、プレーオフを経ることなくストレートで本大会の出場権を獲得した。この結果は決して偶然ではなく、組織力と勝負強さを兼ね備えたチームとしての完成度を証明するものだった。

 その流れを決定づけたのが、2023年のアジアカップでの躍進だ。ヨルダンは大会を通して堅守速攻を徹底し、決勝まで進出。最終的には完全アウェーの環境で開催国カタールに敗れ準優勝に終わったが、アジアのトップクラスと互角以上に渡り合えることを示した。この経験はチームにとって大きな自信となり、W杯予選での安定感にも直結している。

 2024年からチームを率いるのは、モロッコ人指揮官のジャマル・セラミ。モロッコ国内で実績を積んだ彼は、守備組織の整備とトランジションの速さを重視し、前任者のフセイン・ムラータから引き継いだチームの特性を最大限に引き出している。

 特に守備時のブロック形成と、ボール奪取後の一気の縦への展開はチームの明確な武器となっており、戦い方の軸は非常に明快だ。
 
 その戦術を体現するのが、前線のタレント陣である。エースとして攻撃を牽引するのは、フランスのリーグ・アンで戦うムサ・タマリ(レンヌ)。スピードとドリブル突破に優れ、カウンターでは単独で局面を打開できる存在だ。

 彼に加え、フィニッシャーとしての決定力を持つヤザン・アル・ナイマト(アル・アラビ)、運動量と献身性で攻撃を支えるアリ・オルワン(アル・スィーリーヤ)、そして精神的支柱でもあるマフムード・アル・マルディ(アル・フセイン)と、個性の異なるアタッカーが揃う。この前線の多様性が、少ないチャンスを得点に結びつける精度を高めている。

 中盤ではニザル・アル・ラシュダン(カタールSC)の存在が大きい。対人の強さと危機察知能力に優れ、守備ブロックの前でフィルターとして機能することで、チーム全体のバランスを保っている。彼の存在によって守備から攻撃への切り替えがスムーズになり、速攻の起点としても重要な役割を担う。

 最終ラインは3バックを基本とし、その中心に立つのがヤザン・アル・アラブ(FCソウル)。韓国のKリーグで奮闘する経験値を活かし、対人守備と統率力でディフェンスラインをまとめ上げる。

 高さと強さを兼ね備えた守備陣は、中央を締めつつ相手に外回りを強いることで、カウンターの起点を生み出している。
 
 本大会でヨルダンが入るJ組は、前回王者アルゼンチンをはじめ、アフリカ屈指のタレント軍団であるアルジェリア、ラルフ・ラングニック監督が洗練された戦術を植え付けるオーストリアと、いずれも実力と経験を兼ね備えた強豪が揃う。

 ボール保持力や個の質では分が悪い試合も想定されるが、ヨルダンにとっては自らのスタイルを徹底しやすい環境とも言える。

 すなわち全員守備によってスペースを消し、ボール奪取から一気に前線へと運ぶ速攻だ。限られたチャンスを確実に仕留める決定力。このシンプルかつ再現性の高い戦い方こそが、格上相手にも対抗し得る最大の武器となる。
 
 実際、アジアカップでの戦いぶりが示したように、試合の流れを読み、ワンチャンスをモノにする勝負強さはすでに証明済みだ。

 初出場という立場からすれば、ヨルダンは明確なチャレンジャーだ。しかし、組織的な守備と鋭いカウンターという確立された武器、そして国際舞台で結果を残し始めた自信を背景に、グループステージにおいて波乱を起こす可能性は十分にある。

 派手さこそないが、隙の少ない戦いを続けるこのチームは、対戦国にとって決して軽視できない存在となるだろう。

文●河治良幸

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