「ニセ警察官詐欺」のリーダーが証言…!「被害者」からカネを騙し取る「マインドコントロールの方法」
現役詐欺グループ「リーダー」が明かす手口
2026年2月に警察庁が発表した「犯罪情勢」で明らかになったのは、詐欺大国・ニッポンの実情だった。
2025年の特殊詐欺の被害件数は2万7758件で、前年比31%増。被害金額は2024年の倍に当たる1414億円まで急増している。いずれも統計史上、ワーストの数字である。
なかでも顕著なのが「ニセ警察官詐欺」だ。警察官や検事を騙る人物が電話をかけ、逮捕などをちらつかせて金銭を騙し取る手口で、2025年の被害金は985億4000万円。特殊詐欺全体の約7割に及んだ。
2026年4月には愛媛県内に住む80代の女性が警察官を名乗る人物ら現金12億円を騙し取られる事件が発生。同手口の被害金としては過去最大だ。さらに、大阪府内の自営業の70代女性が3億円相当の仮想通貨が盗まれるなど被害は深刻さを増している。
「事態を重く見た警察庁は3月に全国の警察幹部を招集。手口に利用された携帯電話や銀行口座の洗い出し、さらに国際電話を遮断する警察庁推奨アプリの導入の働きかけなど『国民運動』として展開してほしいなどの指示を出しました」(全国紙社会部記者)
これらの詐欺電話のほとんどが東南アジアを拠点とするグループたちからの架電だと見られている。東南アジアに巣食う詐欺組織はどのような暮らしを送り、いかにして被害者からカネを騙し取っているのか。「現代ビジネス」はカンボジア国内で犯行を行うグループの現役の現場責任者と接触。「サエキ」と名乗る男性が取材に応じた。男は詐欺師として20年以上のキャリアを持つ人物で、現在はカンボジアの日本人グループのまとめ役を担い、現地では「リーダー」という名称で呼ばれているという。
サエキ氏の口から語られたのは、被害者に触れぬままに動揺、孤立させ、電話一つでマインドコントロールしていく巧妙な手口だった。サエキ氏は詐欺グループを「会社」と呼び、被害者を「お客さん」と呼びながら、その生々しい手法を明かした(以下、鍵カッコはサエキ氏)
「電話は絶対に切らせない」
「我々の会社が主に行っているのはニセ警察官詐欺です。オレオレ詐欺から派生した手法で、中国語では『86商材』と呼ばれています。
工程は大きく分けて3つ。まずは1線と呼ばれる最初のかけ子が被害者の携帯や自宅に生活安全課名義で電話をかけ、『どこかで身分証や運転免許証を紛失していませんか』と尋ねます。続けて『あなたの口座が犯罪に使われていた。●●銀行の●●支店に口座を作っていませんか』と具体的な銀行名を挙げて、『お客さん(被害者)』に伝えます。もちろんお客さんは寝耳に水。身に覚えがないという返答があれば、『今、刑事二課の要請を受けて、電話しています。もし知らない話であれば、刑事さんに詳しく話をしてください』と待機している2線へとバトンタッチします」
二の矢となるのはニセ刑事だ。同時にここから詐欺師による被害者の囲い込みが始まる。
「1線から2線に通話を転送させ、ビデオ通話に切り替えます。電話は絶対に切らせません。私たちの業界では『目が覚める』という用語がありますが、これはお客さんが詐欺だと気付いたという意味で使用します。通話の断線はまさに『目が覚める』チャンスを与えることになりますから、速やかに電話を転送し、次の段階へと移ります」
通話を引き継いだ2線のメンバーは詐欺拠点内にあるテレビ電話専用ルームへと移動。ニセ刑事はAI加工を用いて、別人に顔を変えた状態で被害者と対面する。
「表情を変えるAI機器は安いもので300万円ほど。安価なものほど仕様は雑で、顔を左右上下に振ると加工が剥がれてしまう。そのため、かけ子は常にカメラ正面を向いたまま説明を続けます。最近ではどんなに体を動かしても画像処理が乱れない機械も登場しているとも聞きます。価格は約1000万円。AI室には警察手帳はもちろん、制服も用意しています」
画面上に現れたニセ刑事は「身分を開示する」と説明し、被害者に警察手帳を提示。そして、こんな言葉を使って動揺を誘っていく。
被害者を「隔離」する詐欺グループ
「2線のニセ刑事は『あなた名義の口座がマネーロンダリングに使われている。あなたも犯罪収益を受け取っているのではないか』と揺さぶりをかけます。当然、お客さんは『知らない』と答えます。それに対し、『無関係であるなら金融調査票を作成しますが、どうされますか』と畳みかける。ここで言う金融調査票は被害者本人が作成した口座か、なりすましで作られた口座かと区別する手法。もちろん真っ赤な嘘です」
詐欺グループは調査を口実に、被害者の持つすべての口座情報と最終残高を教えるよう要求する。この際、『申告が漏れた口座については強制凍結を行う』という脅し文句も付け加えておくという。
「ここで初めてお客さんの口座と資産を把握します。預金額が少ないお客さんがいれば『あなたは資金を持っていないということなので、在宅起訴になるかどうか追ってご連絡します』と手放すこともあります。
ただ、最近は銀行の目も厳しくなっており、板(飛ばしの口座)を入手するのも昔よりは難しくなっている。それゆえ取引価格は高騰。別の組織では金融調査で聞き出した口座を詐欺の受け取り口座に使うケースも増えています。電話の最中、同時進行で騙しをかけている別のお客さんに手に入れたばかりの口座情報を伝達し、実際に入金までさせる。お客さんは自分の口座にお金が入ったことに驚き、こちらが持つ板に慌てて返金してきます。本当にマネーロンダリングに使用し、被害者を容疑者にしてしまう場合もある」
詐欺師は電話の最中、被害者の周囲から隔離することも忘れていない。テレビ電話では「この通話はすべて録画・録音しており、電話中に別の電子機器を触ったり、怪しい動きをすると、不正を行っていた疑いが強くなる」と伝え、外部との連絡を絶たせる。
ターゲットの資産を把握した2線は仕上げとなる3線への橋渡しを開始する。
「2線は無実の証明しようとするお客さんに対して『無実であれば、一緒に証明しましょう』と寄り添うように会話を続けます。信頼させるために通話時間も2〜3時間ほどを費やし、『捜査に協力します』という言葉を引き出していく。
信頼関係が構築できれば、今度は『紙幣調査を行います』と告げ、3線へと繋いでいく。紙幣調査とは、お客さんが持つ紙幣番号をすべて照会し、マネーロンダリングされた犯罪収益かを調べるというもの。もちろん我々が用意した嘘です。その際、ニセ刑事は『番号はすべて金融庁によって登録されており、省庁に協力を仰ぐ。紙幣調査は検事にしかできないので、そちらに回します』と再び電話を変えます」
ここでついに仕上げの工程を担う3線が登場し、本格的なカネの吐き出し作業を進めていく。だが、ここでも詐欺グループは被害者に対してある罠を仕掛ける。
リーダーが語る「マインドコントロール」の手法
「2線のニセ刑事はお客さんに寄り添うような口調でしたが、3線ではあえて緊張感を持たせるように振舞います。ニセ検事は電話に出るなり『あなたの口座が物的証拠になっている』『今回の事件の犯人の供述書であなたの氏名が出ている。被害者も10人以上出ている』と冷たく釘を差す。そうすることで、ようやく無実を証明できると思っていたお客さんは再び不安に陥ります」
この方法こそグループが詐欺を遂行するために最も重要視するポイントだという。
「私たちは嘘の話を現実にするのが仕事です。そのために必要なのは、お客さんが正常な判断ができない世界を作る必要があります。最初からカネを奪おうとしても上手くはいきません。とにかく動揺を誘い、感情を高ぶらせて、冷静さを奪い取る。そうすると、人間は不思議と信じがたい話を事実として受け止めていく。ある種のマインドコントロールです」
3線ではパニックになる被害者に対し、「あなたは知らないと言いますが、現にこうやって被害が出ている。セキュリティの甘さからこのような事態になっている」と追い打ちをかける。極度の緊張状態となっているのを見て、ニセ検事は再度、紙幣調査実施の提案を行う。
「お客さんには『これらの証拠を覆すには紙幣調査を行うしかない』と告げます。以前までは飛ばしの銀行口座への振り込みへ誘導していましたが、最近は銀行口座も額の大きな取引があれば警察に通報するシステムを導入するなど監視も厳しく、仮想通貨が主流。お客さんには『振り込みを求める場合もありますが、あれはすべて詐欺です。こちらは仮想通貨に換金してもらうだけで送金はしません。資産はあなたが持っているだけで大丈夫です』との触れ込みで誘い込みます」
その手口はこうだ。まずアプリで被害者の携帯の画面共有を行ったうえで正規の仮想通貨取引所で本人名義のウォレット(口座)を作成。その際、ニセ検事は口座へログインするために必要なリカバリーフレーズ(パスワード)と呼ばれるマスターキーをスクリーンショットでこっそりと記録する。
「仮想通貨に換金した資産をウォレットに入金させ、あとは『調査は1週間程度で終わります。このまま置いていてください』と伝えるのみ。通話が終われば、入手したマスターキーを使って、本人認証なしでお客さんのウォレットに侵入し、組織が持つ口座へ送金を行い、こちらの仕事は完了となります」
もちろん、待てど暮らせどニセ検事からの連絡はなく、ウォレットの残金は0。被害者は知らぬ間に金銭を騙し取られるというのが詐欺グループの手口だ。
巧妙な手法で被害者から現金を奪い取るメンバーたち。彼らはいかにしてカンボジアで組織運営を行っているのか。
つづく中編記事『青龍刀で腕を切り落とされたメンバーも…!東南アジア「詐欺パーク」、中華系グループの恐怖の暴力支配』では現役の日本人ボスが明かすカンボジアでの詐欺拠点「園区」の内情、そして企業化されたグループの実態について詳しく報じる。
