「母さん、僕はもう一生帰りません」…教育費1,500万円超・自分は質素でも“息子のため”と奔走した56歳母を待ち受けていた「まさかの現実」
「すべてはこの子のため」――愛情とお金をかけて息子を育て上げた母に、ある日突きつけられたのは、まさかのひと言でした。子どもの将来を思い、教育に力を注ぐ。それは多くの親にとって自然なことです。しかし、その裏で子どもがどのように感じているのか、親子の距離がどう変化しているのかは、意外と本人には見えにくいものです。事例とともに見ていきましょう。
ひとり息子の教育に熱中した母
「私の何が悪かったのか、今でもきちんと受け止めきれていません」
そう肩を落とす万里子さん(仮名・56歳)は、会社員の夫と一人息子・悠くんと3人で暮らしてきました。
夫は年収800万円。安定はしていましたが、家庭には無関心でした。平日は帰宅が遅く、休日も自室で過ごすことがほとんど。悠くんの教育や進路について話す機会はほとんどなかったといいます。
その結果、万里子さんは「自分がしっかり息子を導かなければならない」という意識を強めていきました。
悠くんが小学生低学年のときから塾に通わせ、中学受験に挑戦させ、私立中高一貫に進学。大学受験でも、万里子さんは担任と積極的に話し合い、最終的に都内の有名私立大学に入学しました。
教育費は、私立中高一貫校から私立大学までの入学金や授業料、塾や予備校、習い事なども含めると、1,500万円は確実に超えていたといいます。
文部科学省の「令和3年度子供の学習費用調査」などを基にした日本政策金融公庫のシミュレーションでは、幼稚園から大学まですべて公立の場合で約822.5万円。すべて私立の場合は約2,307万円。中学から私立に入った悠くんの教育費としては妥当ですが、決して小さな負担ではありません。
万里子さんは自分自身にお金をかけることはなく、生活は実に質素。時にはアルバイトやパートで収入を得て家計を支えていました。
学生時代、悠くんが目立って反発することはなく、家庭内での会話は決して多くはありませんでしたが、万里子さんは深刻には捉えていませんでした。
「男の子はそういうものだと思っていたんです」
ところが、悠くんの就職を期に、その関係性は思わぬ方向へ進みました。
「自分の人生を生きて」…息子のひと言に唖然
大学卒業後、悠くんは大手企業に就職。就職活動の際にも、万里子さんは熱心に助言をしたといいます。
そして、就職をきっかけに、悠くんは都内で一人暮らしをスタート。自宅から通えない距離ではありませんでしたが、「家賃補助が出るから」と、自ら引っ越ししていきました。
すると、万里子さんの生活は一変しました。当たり前だった息子の食事の準備や洗濯、生活のサポート。試験前には夜食を用意し、体調にも気を配る……そうした日常が、突然なくなったのです。
子どもが進学や就職を機に家を離れ、親としての役割が一段落したと感じたときに生じる「空の巣症候群」。万里子さんも、まさにその状態にありました。
その後は、何度LINEをしてもなかなか既読は付かず、実家に顔を見せるように言っても「忙しい」のひとこと。
数ヵ月後、ついに万里子さんは事前連絡をせずに悠くんの住むマンションを訪れました。すると、明らかに困惑した表情を見せたといいます。
室内に入ると、あれこれと口を出してしまいます。
「自炊してないの? 洗濯は毎日するのよ。やっぱり一人暮らしは大変なんじゃないかしら。戻ってきたらいいのに」
さらに、明らかに女性ものの洋服を見つけると、その関係をしつこく追及しました。
「ちゃんとした家庭の子なの? 紹介しなさい。私がちゃんと見てあげる」
ついに、悠くんは大きなため息をつき、こう言ったのです。
「母さん、僕はもう一生帰りません。子離れして、ほかのことに興味を持って、自分の人生を生きてください」
万里子さんは衝撃に言葉を失ったと言います。
「私がいなかったら、今の会社に就職できたかもわからないのに。たくさんお金もかけました。それなのに、あまりに酷いんじゃないでしょうか。私、何のために生きていけばいいかわかりません」
「愛情を注いだ」「お金をかけた」が負担になることも
子どもの将来を考え、教育に力を入れることは決しておかしなことではありません。一方で、進路や人間関係に対する過剰な介入をすれば、たとえ親子でもその関係にひずみが生じる可能性があります。
「普通の親よりも、ずっと愛情を注いであげたのに」「自分のことは二の次にして、お金もかけたのに」――そう思っていても、その思いが子どもにとっては大きな負担になる場合もあります。
実際、万里子さんは「これまでずっと期待に応えようとして疲弊していた」 「進学も就職も、自分で決められなかった」 「これ以上、生活や人間関係に踏み込まれたくない」 といったことを告げられたといいます。
子どもは、いずれ親のもとを離れ、自分の人生を歩んでいく存在です。夫婦関係を見直したり、自分自身のために生きることを考えたりする。そうすることで、子どもが巣立った後の喪失感も小さくなるはずです。
親子関係においては、「育てること」と同時に、「手放すこと」もまた重要な役割だといえるでしょう。
