八千草薫、吉永小百合、大原麗子…映画雑誌『映画の友』『映画ファン』の専属カメラマン・早田雄二氏が収めた「昭和の銀幕スタア女優たち」
『映画の友』や『映画ファン』の専属カメラマンとして活躍した早田雄二(1916〜1995)は、銀幕のシーンでは見られない俳優の素顔をフィルムに残してきた。「早田に撮られたら一流」と言われたように、新人女優たちは、早田の写真を介して国民の羨望を一身に浴びる存在に引き上げられた。
【写真】八千草薫、岡田茉莉子、若尾文子…ほか、早田雄二氏が収めた「昭和の銀幕スタア女優たち」
【〜1950年代】戦後の国民が恋した新しい女性像
宝塚出身の八千草薫は妖精のような可憐さと称され、戦後復興期の観客が憧れた清純の象徴である。大映の若尾文子は、男性を翻弄する近代的な女性像を体現した。岡田茉莉子は、成瀬巳喜男監督などの巨匠の下で、クールで都会的な役から人情味あふれる泥臭い役まで演じ切り、自立した女優の範たる存在になった。
戦後、「娯楽の王様」と言われた映画の黄金期を語るうえで、早田が撮影したポートレートの存在を無視することはできない。
【1960年代】国民的女優が続々誕生
1950年代から続く映画黄金期はあっけなく翳りを見せる。テレビがお茶の間に浸透することで、映画館に足を運んでいた子どもや女性層が無料の娯楽へ移行したのだ。
そうしたなか、1960年代初期にはカラーフィルムの安定供給が実現し、引き続き早田は次世代の銀幕スタアたちにシャッターを切った。
日活の吉永小百合は『キューポラのある街』(1962年)で「国民的女優」の名声を確立。観客を映画館に繋ぎ止めた。同じく日活の浅丘ルリ子は、ファッションアイコンとして旋風を巻き起こし、松竹の岩下志麻は小津安二郎監督に「10年に1人の逸材」と評され、演技派として確固たる地位を確立した。
国民的女優たちの存在感が日本映画界を支えたのだ。
【1970年代】「洋高邦低」の逆風下でも活躍の場を広げた
1971年、俳優の引き抜きやテレビ出演を禁止する五社協定が消滅した。俳優独占のシステムが崩れ、各社は生き残りをかけた独自路線へと舵を切った。東映は実録ヤクザ映画に注力し、東宝は映画製作部門を分離。角川映画はメディアミックス戦略で大作興行の新形態を確立した。
専属制から解き放たれた女優たちも、活躍の場を広げることになった。大映最後の看板スタア・関根恵子は倒産の激震を経て、テレビや舞台などにも露出を増やした。大原麗子や酒井和歌子は、ベストセラー小説の映画化やテレビ連動企画に多数出演。洋画が邦画の興行を上回る「洋高邦低」の逆風下で、邦画ファンを惹きつけた。
没後30年を迎えた現在も、早田が収めたスタア女優の肖像の数々は永久の輝きを放っている。
●八千草薫
1931年1月6日生まれ。宝塚娘役として絶大な人気を博し、『源氏物語』(1952年)で清純派スタアの地位を確立した。主演作『蝶々夫人』(1955年)など、気品ある美貌で日本中を魅了し続けた。
●岡田茉莉子
1933年1月11日生まれ。1950年代の映画黄金期を代表するトップスタア。『秋津温泉』(1962年)など文芸大作から現代劇まで幅広く活躍。高い演技力で映画界を牽引した。
●若尾文子
1933年11月8日生まれ。大映の看板女優。『十代の性典』(1953年)で脚光を浴び、溝口健二や増村保造らの名作を経て実力派へと脱皮。色気と芯の強さを併せ持つ「近代的な女性像」を銀幕に刻んだ。
●浅丘ルリ子
1940年7月2日生まれ。『緑はるかに』(1955年)で銀幕デビュー。日活黄金期の看板として数々の名作に出演した。リリー役を演じた『男はつらいよ』など、唯一無二の存在感で映画史を彩った。
●岩下志麻
1941年1月3日生まれ。松竹の看板女優として小津安二郎らに見出され、『秋刀魚の味』(1962年)で躍進した。清純派から悪女まで演じ分け、『極道の妻たち』で圧巻の演技の振り幅を見せつけた。
●加賀まりこ
1943年12月11日生まれ。『涙を、獅子のたて髪に』(1962年)でデビュー。主演作『月曜日のユカ』(1964年)で見せた小悪魔的な魅力に若者が熱狂した。テレビドラマにも多数出演し人気を博す 。
●松原智恵子
1945年1月6日生まれ。デビュー作は『夜の挑戦者』(1961年)。日活黄金期を代表する一人で、石原裕次郎らの映画に華を添えた。清純な魅力を武器に一世を風靡し、戦後を象徴する存在となった。
●吉永小百合
1945年3月13日生まれ。『朝を呼ぶ口笛』(1959年)で銀幕デビュー。『キューポラのある街』(1962年)の演技が絶賛され、国民的女優の座を射止めた。原爆詩の朗読など、今も多彩な挑戦を続ける。
●大原麗子
1946年11月13日生まれ。1964年にデビューすると、東映の看板女優として『網走番外地 北海篇』(1965年)などで話題を呼び、後にテレビ界へ進出。端正な和服美人の佇まいと甘い声で幅広い世代を魅了した。
●酒井和歌子
1949年4月15日生まれ。『今日もわれ大空にあり』(1964年)で銀幕デビュー。清純な女子高生役で注目を集め、「青春のヒロイン」として脚光を浴びた。70年代以降も激動の映画界を支え続けた。
●関根恵子
1955年1月22日生まれ。『高校生ブルース』(1970年)で主演デビュー後、7作連続主演を務めた大映の看板女優。五社協定崩壊後はテレビや他社映画に活動を広げ、現代的なスタア像を確立した。
●由美かおる
1950年11月12日生まれ。『夜のバラを消せ』(1966年)で銀幕デビュー。バレエで鍛えた健康美が喝采を浴び、時代劇『水戸黄門』のお銀役で国民的アイコンとなった。
文/小野雅彦 (文中敬称略)
※週刊ポスト2026年4月17・24日号
