アメリカが主導する有人月探査計画「Artemis(アルテミス)」で初めての有人ミッションとなる「Artemis II(アルテミスII)」。4名のクルーが搭乗した「Orion(オリオン、オライオン)」宇宙船を月へ向かう軌道に乗せるためのエンジン噴射が完了したことを、NASA(アメリカ航空宇宙局)が報告しています。


【▲ Artemis IIミッション最初の中継イベントで記者の質問に答えるクルー。左から:CSAのJeremy Hansen宇宙飛行士、NASAのReid Wiseman宇宙飛行士、NASAのChristina Koch宇宙飛行士、NASAのVictor Glover宇宙飛行士(Credit: NASA)】

人類が53年ぶりに地球周回軌道を離脱

NASAによると、日本時間2026年4月2日7時35分にケネディ宇宙センターから打ち上げに成功したArtemis IIミッションのOrion宇宙船は、翌日となる日本時間2026年4月3日8時49分(アメリカ東部夏時間2日19時49分)から5分50秒間にわたり、主エンジンを噴射する月遷移軌道投入(TLI: Trans-Lunar Injection)を予定通り実施しました。


この結果、Orion宇宙船は月の重力を利用して地球へ戻る自由帰還軌道に乗ることに成功。NASAのReid Wiseman宇宙飛行士ら4名のクルーは、1972年12月の「Apollo 17(アポロ17号)」以来53年ぶりに、地球周回軌道を離れて月周辺へ向かう人間となりました。


【▲ Orion宇宙船を搭載してケネディ宇宙センター39B射点から打ち上げられたArtemis IIミッションのSLSロケット(Credit: NASA/Michael DeMocker)】

Orion宇宙船は地球から最大約21万9639海里(約40万6771キロメートル)の距離に達すると予想されており、1970年4月の「Apollo 13(アポロ13号)」における人類が地球から最も遠く離れた記録(約21万6000海里=約40万171キロメートル)を更新する見込みです。


なお、アポロ17号以降の最高高度到達は、2024年9月に実施されたJared Isaacman氏(現・NASA長官)らによる民間の有人宇宙飛行ミッション「Polaris Dawn(ポラリス・ドーン)」にて記録された、SpaceX(スペースX)の宇宙船「Crew Dragon(クルードラゴン)」による高度1408.1kmでした。Artemis IIのOrion宇宙船は地球を周回する楕円軌道に投入された初日の時点ですでにこの高度を突破しており、今この瞬間も記録を更新し続けています。


【▲ Orion宇宙船のカメラが捉えた地球の様子。NASAのライブ配信から引用(Credit: NASA)】

スペースシャトルから受け継がれた主エンジン

Orion宇宙船は主に、宇宙飛行士が搭乗する円錐形の「クルーモジュール(CM: Crew Module)」と、エンジンやソーラーパネルなどを備えた「サービスモジュール(SM: Service Module)」から構成されています。サービスモジュールはESA(ヨーロッパ宇宙機関)が製造を担当していて、「ESM(European Service Module=欧州サービスモジュール)」と呼ばれています。


実はESAによると、Orion宇宙船の最初の5機で使われるESMの主エンジンには、かつてNASAのスペースシャトルで使われていた軌道制御システム(OMS: Orbital Maneuvering System)のエンジンが検査と改修を行った上で転用されています。


そして今回のArtemis IIで使用されているESMには、かつてスペースシャトル「Atlantis(アトランティス)」に搭載され、2000年から2002年にかけて合計6回のミッションを経験した実績を持つエンジンが使用されているのです。ミッションの中にはISS(国際宇宙ステーション)のアメリカ実験棟「Destiny(デスティニー)」を運んだSTS-98や、エアロック「Quest(クエスト)」を運んだSTS-104が含まれます。


ISSの建設などで活躍したこの歴戦のエンジンは、今回はOrion宇宙船を月へ向かう軌道へ投入するという重要な役割を果たしたことになります。


【▲ Orion宇宙船のカメラが捉えたサービスモジュールの後端部分。複数並んだノズルのうち、最大のものがスペースシャトルから転用された主エンジンのノズル。NASAのライブ配信から引用(Credit: NASA)】

宇宙船の近傍運用テストを完了

TLIに先立ち、飛行1日目には打ち上げに用いられた大型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」の上段(2段目)をターゲットにした近傍運用の実証テストが行われました。


パイロットを務めるNASAのVictor Glover宇宙飛行士の手動操縦により、Orion宇宙船はSLS上段に対して約400フィート(約122メートル)から約33〜40フィート(約10〜12メートル)まで接近。テストは予定よりも早い65分間で全ての目標を達成し、宇宙船の応答性と操作性は予想以上に優れていたと報告されています。


Orion宇宙船が離れた後のSLS上段からは、相乗りしていた4機のCubeSat(超小型衛星)が放出。その後、上段を太平洋へ制御落下するためのエンジン噴射も無事に完了したということです。


テスト飛行ならでは?の小さなトラブルも

NASAによれば、Orion宇宙船では飛行の序盤にいくつかの小さなトラブルが発生しましたが、いずれも適切に対処されています。


たとえば、船内のトイレは初期設定時にポンプを潤すための水が不足したことで自動停止していましたが、水を追加することで現在は正常に稼働しています。また、SLS上段を分離する前に発生した一時的な通信障害は地上局のソフトウェアのバグが原因だったことが判明し、こちらもすでに解決しています。


ミッションスペシャリストを務めるNASAのChristina Koch宇宙飛行士のタブレット端末では、画面が真っ暗になって充電もできないトラブルが発生しており、2日目前半の時点でトラブルシューティングが行われています。


さらに、宇宙からの景色があまりに素晴らしく、クルーが外を見過ぎて窓が汚れてしまったため、地上に「窓の掃除手順」を尋ねたという微笑ましいエピソードもNASAは明らかにしています。


飛行3日目の主なスケジュール

月周辺への旅を続けるArtemis IIミッションの飛行3日目には、軌道を微調整するための最初の軌道修正噴射が予定されています。


また、宇宙空間における心肺蘇生法のデモンストレーションや医療キットの確認作業なども行われる他に、月へ最接近する飛行6日目に向けた観測の予行演習もスケジュールに組み込まれています。これには、月面にあるクレーターや古代の溶岩流の跡などを記録するための観測の準備が含まれており、引き続き忙しい一日となりそうです。


【▲ 日本時間2026年4月3日13時半頃のOrion宇宙船の速度などを示したCG映像。NASAのライブ配信から引用(Credit: NASA)】

 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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