(左から)志田未来、松嶋菜々子、戸田恵梨香

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俳優の持ち味が生かされる役柄

 冬ドラマが最終盤に差し掛かりつつある。ヒットした5作品には共通点がある。主演、あるいはヒロイン役の女優の演技力が高く、しかも役にハマっている。あらためて演技力とハマリ役とは何か?【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 そもそも、どんな演技がうまいのか。TBS「課長サンの厄年」(1993年)などを手掛けた元同局プロデューサー・市川哲夫氏や都民劇場委員などを歴任した演劇評論家の木村隆氏ら多くのプロの意見は一致している。「役柄が実在する人物にしか見えない演技」である。

 次にハマリ役とは何かというと、その俳優の持ち味が生かされる役柄。文化勲章を受章した故・高倉健さんは亡くなるまで三枚目役や日なたぼっこをするような老人役を決してやらなかった。80歳を過ぎてもタフでストイックな男を演じた。それが自分のハマリ役だと自覚していたからだ。

(左から)志田未来、松嶋菜々子、戸田恵梨香

 冬ドラマのヒット作品には主演女優やヒロイン役の女優に力があり、ハマリ役を演じているという共通点がある。まず家族とは何かを考えさせるTBS「未来のムスコ」(火曜午後10時)で主人公・汐川未来を演じている志田未来(32)である。

 志田が演技をしているときの表情はややオーバーだ。驚けば過剰なくらいに目を見開き、気落ちすると大きめに肩を下げる。もっとも、だから役柄の心情がよく伝わってくる。

「自然な演技」という言葉があるが、人間が本当に普段通りの動作をしたら、役柄の内面は伝わらない。もしも演技が自然に振る舞うだけでいいのであるなら、誰だって俳優になれてしまう。

 実在する人物のように見せつつ、心情を伝えるためには、普段の動作を変えなくてはならない。志田の場合、よく目を大きくする。しかし、その目は状況によって異なる。

 たとえば汐川未来は同じ劇団だった新山桜子(藤原さくら)が退団するとき、白目まではっきり見えるほど目を大きくした。衝撃の大きさが表された。演技でなかったら、ここまで目は大きくならない。初回だった。

 直後、汐川は桜子から「自分の未来、想像できている?」と現実を突き付けられると、言葉に詰まり、やはり目を大きく見開いた。もっとも、目の黒い部分が僅かに動いていた。白目の下側の部分は隠し、見せなかった。衝撃を受けたときとは違った。困惑が表されていた。

 ほかにも汐川はアパートの自室にいるときには必ず肩を猫のように丸めている。志田がオンタイムとオフタイムの区別を表そうとしているからである。

 第5回、富山から上京した母親・直美(神野三鈴)から自室内で説教を受けているときには体育座りをして、右手で右足をコンコンと叩いた。面倒臭いという心情を表した。

 こんな細かい演技をわざわざ指示する演出家はいない。志田のプランにほかならない。ほかの場面でも志田は指先まで心情を表すために使う。

 汐川はスター女優を目指しながら、2036年から訪ねてきた自分の息子を大切にする。志田には真面目で一生懸命という印象があるが、硬い雰囲気はないから、ハマリ役だ。自分のイメージに合う役柄を選ぶのは大切なこと。前出・高倉さんのみならず、故・渥美清さんや故・渡瀬恒彦さんたちがそうだった。

 志田の演技力の高さは誰もが認めるところだが、地上波プライム帯(午後7〜同11時)での主演連ドラは実に9年ぶりである。起用した制作陣は英断を下した。主演女優のキャスティングはどうしても最近のドラマで高視聴率を得ている人が優先される。

 志田の主演を受け入れた営業も好判断だった。志田はCMが1本しかないからだ。しかも経済産業省のもので、あまり流れていない。

 CM契約数の多い女優のほうが主演に起用されやすい。ドラマの放送枠内にあるPTスポット枠(提供スポンサーのCM枠とは別枠)にCMが入りやすいからだ。女優とCM契約する企業がドラマを応援するため、CM枠を買ってくれる。

制作陣の英断

 視聴率がドラマの中で常に3位以内に入る大ヒット作になったのがテレビ朝日「おコメの女−国税局資料調査課・雑国室−」(木曜午後9時)。成功の立役者は主演の松嶋菜々子(52)に違いない。松嶋の主演連ドラは約9年半ぶり。やはり制作陣の英断だった。

 松嶋の役柄は米田正子。東京国税局内にある「複雑国税事案処理室(ザッコク)」のリ
ーダーだ。4人の個性派メンバーを率い、次々と脱税を摘発する。怖い物知らずの女性である。

 デビュー34年のベテランだけあって、松嶋は正子の役作りから抜かりなかった。まず初回の登場時からパンツのポケットに両手を入れていた。正子の強さが表された。

 その後も外出時はポケットが両手の定位置。第2回で元国会議員秘書の父親・田次(寺尾聰)と久しぶりに会ったときには屋内にもかかわらず両手はやっぱりポケットの中だった。

 猫背になることは決してない。背筋は常にピンと張っている。もともと姿勢の良い人だが、背を丸めると弱々しく見えてしまう。 

 うるさい上司や脱税者に責め立てられても顔色ひとつ変えない。それどころか、相手を見据えながら眼鏡の位置をずらし、威嚇する。地の顔つきが穏やかだから、強さを出すために眼鏡を活用したのだろう。

 一方で大地真央(70)が扮する飯島作久子らメンバーがミスなどを詫びると、優しく微笑み、ときには手も握る。決して声を荒らげない。松嶋は強くて温かいリーダーを体現することに成功した。大地をメンバーに配役したのはうまかった。18歳年下の松嶋の現役感が増す。

 松嶋は自分の持つ型の1つをうまく使った。フジテレビ「救命病棟24時シリーズ」(1999〜2013年)における小島楓である。使命感と正義感の強い医師、医局長だった。曲がったことを嫌い、仲間を大切にするリーダーだった。正子と通じる。

 自分の型を生かすことは少しも恥ではない。故・太地喜和子さん、故・大原麗子さん、吉永小百合(80)、天海祐希(58)、ら主演級の女優には自分の型を大事にする人が多い。

 三浦友和(74)にインタビューをさせてもらった際、「1つの型でお客さんに喜んでもらえたら、役者として最高ですよ」と教えられた。どんな役柄でも演じられる俳優だけが名優という考え方は誤りなのだ。

 視聴率ナンバーワンのTBS「日曜劇場 リブート」(日曜午後9時)でヒロインである謎の女・幸後一香を演じているのは戸田恵梨香(37)。3月1日に第6回の放送を終了しながら、いまだ善人か悪党かが分からない。

 同回で一香は全事件の黒幕であることを主人公・早瀬陸(鈴木亮平)に告白したが、当初は陰鬱な表情を見せ、やや間を置いたあと、挑発的な笑顔を浮かべた。やむなくウソを吐く前の顔にも見えた。

 物語が終盤に入ろうとしているのに善か悪かをはっきりさせない。演技力が高い上、善人役も悪党役も経験済みの戸田ならではのハマリ役である。

 戸田はNHK連続テレビ小説「スカーレット」(2019年度後期)ではヒロイン・喜美子の15歳から50代までを1人でこなすという離れ業を演じた。今回は一香が早瀬の死んだ妻・夏海(山口紗弥加)のリブート(成りすまし)であっても不思議ではない。含みのある演技をしているからである。

出るべくして出てきた「鳴海唯」

 井上真央(39)は本格ミステリーであるテレ朝「再会〜Silent Truth〜」(火曜午後9時)で、ヒロインの岩本万季子に扮している。バツイチで子持ちの美容院店主だ。

 元夫の清原圭介(瀬戸康史)を含む3人の小学校時代の同級生に気を持たせている。勝手なところもあるから、ネット上では「希代の悪女」と言われている。一方で万季子を応援する声もある。

 井上の勝ちだ。架空の人物に過ぎない万季子に強い実在性を持たせたのだから。井上には力強いというイメージもあるから、自立している万季子はハマリ役だった。

 主演映画「八日目の蝉」(2011年)では幼いころに誘拐された過去を引きずり続け、成人してから不倫に救いを求めるという魔性性のある女性を演じ切っている。

 法廷を舞台にしたヒューマンドラマであるNHK「テミスの不確かな法廷」(火曜午後9時)のヒロインは鳴海唯(27)が演じる弁護士・小野崎乃亜。法廷劇は重苦しくなりがちだが、小野崎の屈託のない表情や小動物のような動きが作品に明るさをもたらしている。鳴海の存在は大きい。

 小野崎は外交官の娘という設定で、どこか品を感じさせ、知的な雰囲気を漂わせている。一方で連続テレビ小説「あんぱん」(2025年度前期)では高知新報の大酒飲み社員・小田琴子を演じた。随分と役柄が違うが、違和感はない。演技力が高いからだ。

 鳴海は笑顔が爽やかで理知的だから、小野崎役はハマった。ここ数年、鳴海の名前は映画・ドラマ制作者の間で期待の人としてよく挙がっていた。デビュー8年目。出るべくして出てきた人である。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部