『国宝』にも出演の下川恭平は“記憶”に残る俳優 『ばけばけ』小谷役で飛躍の時へ
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』で、ヘブン(トミー・バストウ)の教え子である小谷を演じている下川恭平。ドラマの中では、仲間である正木(日高由起刀)、錦織の弟の丈(杉田雷麟)と共に、和気あいあいと穏やかな表情を浮かべている姿が印象的だ。
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けれども机に向かい、授業を受ける時の眼差しは鋭く、さっきまでの「あどけなさ」がまるで嘘のようだ。小谷がふと鋭い目をした瞬間、演じている下川が映画『国宝』で、任侠時代から立花喜久雄(吉沢亮/黒川想矢)の親友・早川徳次を演じていた役者であることに、ようやく気づく。映画では、父を殺され復讐に燃える喜久雄に静かに寄り添い、支える徳次を好演していた。
映像作品においては、ほんの一瞬の場面が「後の展開」を支える柱となることがある。下川恭平が演じる役は、『国宝』では冒頭の青年期のみ、『ばけばけ』では生徒役としてまだわずかに映る程度だ。短い瞬間の登場ではあるものの、下川が演じる役の声・表情・動きは「記憶」に残る確かなものだった。だからこそ、私自身も『ばけばけ』の中でその鋭い眼差しを見た時に、「国宝の徳次だ」と気づけたのだろう。
本記事では、下川が「僅かな時間に存在感を刻み込める稀有な役者」である理由を紐解いていきたい。
北海道出身の下川恭平は、3歳から芝居とダンスを身につけてきた。幼い頃から積み重ねてきた確かな基盤があるからこそ、彼の演技には揺るぎない安定感を覚えるのだろう。下川は抜群の運動神経を誇り、自身のInstagram(2023年7月9日投稿)ではアクロバティックなトリッキングを披露している。勢いよく床を蹴り上げ、宙へ舞う姿はまさに圧巻の一言である。(※1、※2)
身体能力や体幹の良さは、映画『国宝』の劇中劇『関の扉』でも表れていた。下川は、映画の導入部となるこの演目で、関兵衛に扮する徳次を演じている。微動すらせず、目を閉じてじっと佇む徳次の姿は、まるで本物の人形のようだ。
どっしりと構える立ち姿は、隣で艶やかに体をしならせる女形・喜久雄の色気を際立たせていく。その後、徳次から発せられる第一声には迫力があり、一気に映画の世界へと引き込まれた。『国宝』が紡ぐ厳しい歌舞伎の世界が、ここから始まるのを感じさせたのだ。
『関の扉』での演技は、少年期を演じた役者のものとは信じがたいほどに本格的で、観る者の心を一瞬で掴むクオリティを放っていた。冒頭から「一切の妥協を許さぬ覚悟」が刻まれた演舞が披露されたことにより、この作品が「歌舞伎」という難解な世界から逃げることなく、真正面から徹底的に向き合った映画であることが、ひしひしと伝わってくる。
音楽活動も行う下川の魅力は、その声にも宿っている。映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』ではテーマソングを担当し、全編英語詞で構成された「letters」を披露。歌声は軽やかでありながら、低音から高音まで音域が広く、必要な箇所で確実に音を伸ばす表現力は見事だ。
器用に何でもこなしてしまう下川は、「できない」演技も実に上手い。『ばけばけ』第40話では、こっそりスキップを練習していた錦織(吉沢亮)の姿を、ヘブン、正木、丈と共に目撃するシーンがあった。下川はお互いの動きをチラ見しつつも、仲間たちと楽しそうにスキップをする姿を披露している。できることを「できない」ように見せるのは難しい。できる人が「できない動き」を演じると、どうしても不自然さが残ってしまうからだ。
華麗なステップを難なくこなせる下川にとって、「スキップができない」という表現はむしろ難題だったはずだ。だがドラマで小谷が見せる初々しいスキップには、「初めてできたことへの喜び」が溢れていた。
声の良さ・体幹の良さは、舞台『鬼滅の刃 其ノ参 無限夢列車』の煉獄千寿郎を演じた際にも存分に発揮されていた。「煉獄さん」といえば、弁当を高速で口にかきこみながら、バッキバキの目で「うまいっ! うまいっ!」と威勢よく声を上げるシーンが有名だが、下川もまた、歌舞伎役者のような張りのいい声で観客を魅了した。殺陣シーンもアクロバティックな動きが得意なだけに、刀裁きも華麗だ。
下川は、さり気ない瞬間の演技も巧みである。11月27日放送の『ばけばけ』第44回では、ヘブンが授業中にリヨとのランデブーの約束を自ら暴露してしまう。なんとしてもリヨとの関係を阻止したい錦織は、授業中に「あっ」とひらめいたことを大声で口にする。その様子に眉をひそめ、きょろきょろと目を右往左往させる小谷の姿は、画面の左端に数秒残るのみ。ただ、その一瞬があることで、錦織の慌てぶりが一層際立つのだ。
第10週からは、小谷がトキに恋をするという展開が描かれる。公式Xで11月22日に公開された「1分新スポット」(第9週以降の本編映像まとめ)では、はにかみながら「覚えていますか……。よかった」と声をかける小谷の姿が映し出された。その言葉に、トキは「好きなの? どこに惚れたかね」と応じる。白い歯をのぞかせ、照れくさそうに笑う小谷は、これまで見せたことのない表情だ。
ところが、第10週の予告「トオリ、スガリ」では、小谷とサワがお互いに照れを交えつつ、仲睦まじく語り合う姿が映されている。公式サイトの「第10週あらすじ」によれば、サワ(円井わん)や家族がいち早く小谷の想いに気づき、彼の恋を応援するという。果たして、今後どのような展開が訪れるのか。
小谷の想いはトキに届くのか。その時、ヘブンはどんな動きを見せるのか。それとも、サワと共に新しい幸せを選ぶのか。小谷の揺れる心の行方に、今後も目が離せない。
参照※1. https://gaga.ne.jp/FutatsunoSekai/about.html※2. https://www.instagram.com/reel/Cuep4u7BzqO/?igsh=MWIwcHg4NGdiYzV6eA%3D%3D(文=みくまゆたん)
