Pixel 6/Pixel 6 Proに詰め込まれたGoogleの野望 – 憧れ追いかけたのはAppleの背中だった

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●リファレンス端末から始まったGoogleのスマートフォンシリーズ
2021年11月、Googleのスマートフォン「Pixel(ピクセル)」シリーズの新型機種である「Pixel 6」および「Pixel 6 Pro」が発売されました。
すでに購入されている方も多いかと思いますが、この2機種はGoogleが自社ブランドとして発売するスマートフォンの中でも、これまでとは若干違った戦略を持ったスマートフォンです。

Googleのスマートフォンと言えば、古くは「Nexus(ネクサス)」シリーズに起源を持ちます。

2010年に発売された「Nexus One」は、台湾HTCによって開発され、Googleのブランドとして発売されました。

当時のNexusシリーズは、
「Androidスマートフォンのリファレンス端末」としての側面があり、Androidスマートフォンとして必要な機能を一通り揃えた、設計基準となるような端末に仕上がっていました。

その設計思想から価格も比較的安価に抑えられることが多く、タブレットシリーズとともに展開されながら、2015年発売の「Nexus 6P」までその役割を担いました。


Nexus Oneはその後のAndroidスマートフォンの在り方を示した(https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=29099537


そして2016年に登場したのが、Googleの新たなスマートフォンブランド「Pixel」シリーズです。

それまでのNexusシリーズはOEMによる製造でしたが、PixelシリーズからはGoogle自身がハードウェアの開発・製造も行う一貫生産となりました。

これによってGoogleは、ハードウェアとソフトウェアの両方を自社開発可能となり、より自由で独自技術を詰め込んだ機種も作れるようになりました。

とはいえ当初のPixelシリーズは、
Nexusシリーズのように、シンプルかつほどほどの機能を持ちながらも低廉な価格というコストパフォーマンスの良さを武器にしており、いわゆるハイエンドやハイスペックと呼ばれるスマートフォンとは距離を置く戦略を取っていました。

しかし、その戦略を大きく転換し、超高性能を武器としたハイスペック戦略を取ったのが、今回の「Pixel 6」シリーズなのです。


シンプルなスタンダード路線から、一気にハイエンド路線へと舵を切った



●スマートフォン戦略を大きく変えたSoCの自社開発
その象徴とも言えるのが、Pixel 6およびPixel 6 Proに搭載されたチップセット(SoC)「Google Tensor(グーグル・テンサー)」です。

このSoCはGoogleが自社開発したもので、その性能は一般的なAndroidスマートフォンが採用するクアルコム製SoC「Snapdragon」シリーズのハイエンドSoCと同等、もしくはそれ以上と言われています。


Google初の独自開発SoC「Google Tensor」


Googleはなぜ多額の開発コストをかけてまでSoCを自社開発したのでしょうか。

その理由は至ってシンプルです。
自社が追い求める機能や性能を、より効率的かつ自由にスマートフォンへ搭載することができるようになるからです。

Googleは現在、スマートフォンでのAIの活用を積極的に進めようとしています。

Pixel 6では、
・写真の不要な部分を消してしまう高度な画像処理技術「Magic Eraser」
・音声認識による自動翻訳機能「Live Translate」
こういった機能が特徴となっていますが、これらの実現にはAIが活用されており、そのAI技術のために自社開発のSoCが必須だったのです。

GoogleがPixel 6で目指したことは、汎用的なSoCでも可能だったでしょう。
しかし、バッテリー消費が大きくなってしまったり、処理に時間がかかってしまったりなど、問題が起こりかねません。
また、他社製のSoCを採用の場合、仕様の変更などがアプリ開発やハードウェア開発に影響を与えることも多々あります。

開発期間の視点で見ても、自社でSoCを開発していればどのような機能と性能を盛り込むのかを先んじて戦略として組み込めるため、アプリの開発スピードが格段に向上します。


Magic Eraserは、一瞬で背景の不要な人物などを消してしまう



●Pixel 6はGoogleが目指す未来への第一歩だった
Pixel 6およびPixel 6 Proは、Googleがリファレンス・スマートフォンメーカーから脱却するための最初の一歩だったのです。

そして、その目指す先にはAppleがいます。
AppleはiPhoneシリーズでハードウェアからソフトウェア(OS)まで、すべてを一貫生産することで独自進化を続け、現在の地位とブランドを確立しました。

GoogleはAndroid OSの汎用性を武器に世界展開を成功させ、今や世界でのOSシェアではAppleのiOSを圧倒しています。
ですが一方で、スマートフォンメーカーとしてのブランド強化には苦戦してきた経緯があります。

スマートフォンは、OSやハードウェアの性能と機能が成熟期に入り、アプリの使いやすさや快適さで独自進化が必要な時代に突入しました。
今、GoogleがSoCを自社開発し、そこにアプリを最適化してきたことは必然だったと言えるでしょう。


Live Translateによって、人々は言葉の壁を超えて自由にコミュニケーションが取れるようになる



これによってPixel 6およびPixel 6 Proは過去のシリーズ機種よりも価格が高くなった点については賛否両論がありますが、Googleが目指す未来への戦略はより明確になったとも考えられます。

これまでのNexusシリーズのようなリファレンス路線ではなく、
真に人々にとって便利で生活スタイルを進化・拡張していくようなスマートフォンへ。

そのおしゃれなデザインからは計り知れない、Googleの野望にも似た高い志も見え隠れします。




執筆 秋吉 健