楽天のゴールデンルーキー・松井裕樹は、オープン戦で4試合(16回)に登板して、被安打10、奪三振17、与四球3、防御率1.13という好成績を残し、開幕ローテーションの座を勝ち取った。しかしデビュー戦から黒星が続き、4試合(19回1/3)で被安打18、奪三振23、与四球23、防御率6.05で二軍行きを告げられた。投手コーチである佐藤義則は松井のピッチングをどのように見ていたのか。そして、松井の可能性についても語ってもらった。

 キャンプで松井を最初に見た時の印象は、とにかく強いボールを投げられる投手だなということでした。ダルビッシュ有(レンジャース)や田中将大(ヤンキース)と同じぐらいの強さがありました。ただ、フォームは踏み出す右足が突っ張り、投げ終わったあと左足が三塁の方向に流れてしまう。つまり、バランスの悪いフォームということなのですが、これだけ悪いフォームなのにあれだけのボールを投げられるのは、体の強さ、腕の振りの速さがあるからこそ。だから、星野(仙一)監督とも相談して、しばらくはフォームをいじらないで投げさせてみようということになりました。

 そしてオープン戦の松井はこちらの期待以上の結果を出してくれました。とにかく、彼の場合はストライクゾーンにさえ入ればそう打たれることはありません。オープン戦での好投はその一点につきます。松井自身も、ストライクさえ取れればある程度通用すると思ったと思いますよ。

 ただ、プロの世界は甘くない(笑)。オープン戦ではミーティングはありませんが、公式戦になると各チームが松井対策を立ててきます。オープン戦で振ってくれていたボールが見逃され、空振りを取れていた球がファウルになってしまう。おそらく、ストライクゾーンがものすごく狭く感じたと思いますよ。それにシーズンに入ると打たれたくない気持ちが働いて、より厳しいところを狙おうとする。その結果、ボールが先行して、オープン戦ではできていた自分のピッチングができなくなってしまった。松井が四球を連発した理由はそこにあります。

 田中のように修正する能力があればいいのですが、今の松井にそこまでの力はありません。何より、フォームがばらついているうちは、一度コントロールを乱してしまうと、なかなか元に戻れません。とにかく今の松井に必要なことは、いいフォームで投げて、再現性を高めることです。そのためにも今は、踏み出した右足が突っ張らないことを最優先に取り組んでいます。

 左投手の松井なら、左足(軸足)でプレートを踏み、右足を上げてから前に踏み出し、体重移動によって加速度を上げ、その力を腕に伝えて投げるのですが、この時、踏み出した右足が突っ張ってしまうと、ブレーキがかかり、体重移動がスムーズにいかない。そうなると腕の振りも弱くなってしまい、リリースポイントが安定しなくなるため、コントロールも悪くなってしまう。

 かつて田中も踏み出す足(田中の場合は左足)のヒザが割れるため、力をロスしてしまい、ボールに力が伝わりにくい時期がありました。それぐらい踏み出す足は重要で、松井もこれがうまくできるようになれば、コントロールも安定し、より強いボールが投げられるはずです。

 これから取り組んでいかなければならないことはたくさんありますが、松井は一軍で通用しなかったわけではありません。言ってみれば、ただの自滅です(笑)。ボール自体は一軍で十分通用するレベルにあります。

 それに彼の特長である真上から投げ込んでくる腕の振りについては、左投手であそこまで上から投げられるピッチャーというのはほとんどいません。真上から投げられると、バッターは遠近感が取りづらく、タイミングを取るのが難しいんです。バッターというのは横の動きには反応しやすいのですが、上下の動きには弱い。松井は上下の揺さぶりで勝負できるタイプで、これはダルビッシュや田中にも真似できない、彼の立派な武器なんです。それだけでもいかに松井が貴重なピッチャーであるかわかると思います。

 何度も言いますが、松井の能力はダルビッシュや田中と比べてもまったく引けを取らないぐらい高いものです。課題はストライクを取れるかどうか、それだけです。高校を卒業したばかりの投手が、プロの、それも一軍で投げること自体すごいことなんです。だからこそ、絶対に焦らず、しっかりと課題と向き合ってほしいと思います。

スポルティーバ●構成 text by Sportiva