《廃棄野菜がクレヨンに!?》青森のシングルマザーが生み出した奇跡。1500人のバイヤーが唸った「着眼点」
「娘が口に入れても、安全なものを」。青森でシングルマザーとして奮闘していた木村尚子さん。デザイナーとして「小1の壁」にぶつかり、会社員を辞めて踏み出した一歩が、廃棄野菜を色に変える「おやさいクレヨン」の誕生でした。コネも資金もないなか、1軒の工房にかけた電話から始まった挑戦。日本中の企業が注目する今も変わらない、ひとりの母親としての切実な着眼点とは。
【写真】「こんな文具に出合いたかった!」色味が綺麗な「おやさいクレヨン」(全14枚)
キッチンにあった、野菜の切れ端に目が留まった
──「ガイアの夜明け」などTV番組にたびたび取り上げられ、2022年度には日本政府から科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞を受賞している「おやさいクレヨン」。廃棄される野菜等を再利用し、「にんじん」「ほうれんそう」と野菜の名前が色になった安心、安全なクレヨンは、企業からのコラボオファー依頼も多いそうですね。
木村さん:ありがとうございます。廃棄野菜等をパウダー加工し、同じく廃棄される米ぬかから抽出したライスワックスや米油で固めたのが「おやさいクレヨン」です。企業や自治体のサステナブル意識の高まりにより、OEM(委託製造)の依頼も増えています。たとえば食品ロスの削減と食育を目的とした飲食店のキャンペーン用におやさいクレヨンが使われたり、抽出後のコーヒーかすを使った珈琲クレヨンを開発したりしました。
── 木村さんはデザイナーとして働くなか、33歳のときに「おやさいクレヨン」の会社を立ち上げられました。野菜でクレヨンを作る…何がきっかけだったのでしょうか?
木村さん:学生の頃から「ものづくり」がしたくて、ハンドメイドでも何でもいいから形あるプロダクト(製品)をつくろうと思っていました。大学卒業後は情報誌の制作プロダクションに会社員として勤務。24歳で娘を授かりましたが、早々にシングルになりました。残業が多い業界だったので「小1の壁」にぶつかって。会社員を辞めフリーのデザイナーになったころから、ものづくりへの気持ちが再燃しました。いまから14年前、2012年の冬のことでした。
── 起業したいというより、何かを作りたい気持ちが先だったと。
木村さん:はい。「親子で使えるものを」と考えていた矢先、私の地元・青森県産の藍を使った藍染展示会に行き、天然の藍色の美しさに衝撃を受けました。「私も地元の産物で…」とアイデアを練っているなかで、キッチンにあった野菜の切れ端が目に留まって。これで藍染と同じように、色を表現するものが作れないかと思ったんです。
「色が再現できない」天然の原料ゆえの苦労
── それがクレヨンという発想になったんですか?
木村さん:最初は「インク」を考えました。でも液体は、天然の原料を使うと、カビが生える可能性があり、「クレヨン」に切り替えたんです。クレヨンなら野菜を乾燥させることで水分が蒸発でき、その粉末を固めて作れます。子どもが最初に使う文房具にもなるので、親子で使える野菜のクレヨンを作ろう!と決めました。
まず自分たちで試作しようと、野菜を細かく刻んで乾燥させ、市販のろうに混ぜてみたんです。でも、思うような色が再現できないばかりか、ベタついて少し柔らかくなってしまいました。その後、発色は薄いですがクレヨンの原型が完成。「製品化のためにプロに相談が必要」と、そこからクレヨン工房を探しました。
── クレヨン工房は何のつてもなく、ゼロから探したのですか?
木村さん:そうです。当時はまだ法人ではなかったので、「青森から見ず知らずの女性がいきなり電話をかけても断られるだろう」と覚悟していました。でも幸い、1社目の老舗工房が「ちょうど新しい商品を作りたいと思っていた」と興味を示してくださって、試作できることになったんです。結果的にその工房とは長いお付き合いになり、現在もクレヨン製造をお願いしています。
ヨーロッパ規格の検査をクリアした「安全なクレヨン」
── 原料の野菜はどのように調達したのですか?
木村さん:青森県内の農家や食品加工工場、流通業者さんから規格外の野菜や廃棄する野菜くず、過剰在庫の野菜を集めて買い取りました。ほかにも店舗ではキャベツの外側の葉など、廃棄する部分が出てくるので、回収してクレヨンにできないか試していきました。
──「おやさいクレヨン」は、安心・安全なクレヨンというコンセプトです。世界で一番厳しいといわれる欧州規格の玩具の安全性検査も2014年にクリアしているんですよね。
木村さん:通常のクレヨンは石油系のワックスが主原料ですが、せっかく野菜を使うのだから、できるだけ自然由来の材料で作りたいと思ったんです。蜜蝋やなたね油などいろいろ試した結果、米ぬかから抽出した米油とライスワックスにたどり着きました。
── 野菜の香りは残るんでしょうか?
木村さん:ねぎなど、香りが強い野菜は、クレヨンでもほんの少しねぎの香りがするので、自分の娘のような野菜嫌いの子も、遊びを通じて野菜に親しめるのではないかと感じました。試作したクレヨンは野菜そのものの色が見事に生かされていたので、「オレンジ」や「緑」ではなく、「にんじん」や「ほうれんそう」など、野菜や果実の名前をクレヨンに記しました。
「野菜でクレヨン?」展示会にバイヤーが殺到
──「おやさいクレヨン」の完成ですね!販路はどのように確保したのですか?
木村さん:東京ビッグサイトで毎年開催されるギフトショーに試作品を展示しました。展示できる商品はひとつだけ。展示ブースには壁に「おやさいクレヨン」と商品名が書かれているだけでしたが、逆にそれが全国から集まったバイヤーさんの目に留まったようで。「野菜とクレヨンってどういう組み合わせ?」と。説明すると「?」が「!」になるような変化が次々と起こり、思いがけない反響があったんです。
── 初めて参加した展示会で、いきなり注目を集めたのですね。
木村さん:はい。初日にテレビ東京の『ワールド・ビジネス・サテライト』、2日目にNHKの『おはよう日本』の取材が入り、それから立て続けに取材を受けました。最終的には1500名以上のバイヤーさんの名刺が手元に残り、注文が殺到したんです。
野菜を、食べるもの以外に使うのが当時は珍しかったですし、まだSDGsやサステナブルという言葉が一般的ではないなか、その先駆けのような印象を持ってもらえたんだと思います。用意していた在庫の何倍もの注文が入り、追加生産することにしたのですが、最初にクレヨンをつくったのが冬、展示会が終わる頃には春だったので、手に入らない野菜が出てきたんです。
── 天然の材料だから季節が関係してくると。
木村さん:そこで急きょ「おやさいクレヨン season2」と打ち出して、色を変えて発売したらそれがまた好評で。「ふきのとう」など、春野菜の色も入って日本の四季を感じていただけるようなクレヨンになりました。以降、「おやさいクレヨン」はリニューアルを続けながら、12年間で約20万セットを出荷しています。
企業オファーが続々。時代が追いついた今
── 実際に「おやさいクレヨン」を使った方からの反響はどうでしたか?
木村さん:やはり「子どもが何でも口に入れてしまうので、安心して使えます」という声が一番です。お孫さんへのプレゼントや出産祝い、卒入園祝いなどギフト利用が圧倒的に多く、廃棄する野菜を使っている背景を評価して買ってくださっているようです。
野菜嫌いだった私の娘も、「おやさいクレヨン」を使うようになってから野菜に親しみを持つようになり、今ではまったく好き嫌いがありません。
── 少子化の時代なので、売り上げが落ち込んだ時期などもあるのでしょうか?
木村さん:最初は自社製品だけでしたが、その後、企業や自治体のサステナブル意識の高まりにより、OEM(委託製造)の依頼も増えました。たとえば、カレールーの廃棄材料からつくるスパイシーなクレヨン、木の粉から生まれたクレヨン、廃棄茶葉を材料にしたお茶のクレヨンなど、企業やメーカーの要望に応じてこれまで数十種類のクレヨンを作ってきました。これからも100年続く製品として、世代を超えて受け継がれる商品として育てて行きたいです。
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地元青森県の産物を使ってものづくりがしたいという気持ちから、捨てる予定の野菜をクレヨンにする、という発想に行き着いた木村さん。小さな思いつきから最初の一歩を踏み出すことが、結果的に大きなプロジェクトへとつながっていきました。
頭の片隅にあるアイデア、前々からやりたいと思っていたことがあるなら、あなたもいま一歩、踏み出してみませんか?
取材・文:富田夏子 写真:木村尚子

