自然環境や生態系は一見するとまったくかけ離れたもの同士に思えても、実は相互に密接な影響を与え合っている場合があります。新たな研究により、土壌に生息する真菌の一種が「雨を降らせるのに役立つタンパク質」を作り出し、雨を降らせている可能性があることが明らかになりました。

A previously unrecognized class of fungal ice-nucleating proteins with bacterial ancestry | Science Advances

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aed9652

How hidden soil fungi ‘steal’ bacterial DNA to control the rain

https://theconversation.com/how-hidden-soil-fungi-steal-bacterial-dna-to-control-the-rain-279618

アイルランドのリムリック大学で博士研究員を務めるダイアナ・アンドラーデ=リナレス氏は、微生物が雨に影響を及ぼすという事例について説明するに当たり、まずは雲が雨になる仕組みを知る必要があるとしています。

一般的に水は0度になると凍り始めますが、大気圏上層部では0度よりはるかに気温が低くなっても必ずしも水が凍るわけではなく、-40度という極低温でも水の状態を保ったままの場合があります。こうした状態の水は「過冷却水」と呼ばれ、振動が与えられたりゴミなどの「種」に付着したりすると氷になりますが、こうした不純物が少ない大気圏上層部ではなかなか氷ができず、水の状態で存在し続けるとのこと。

雲が雨や雪に変わるためには、これらの過冷却水を氷に変える「種」となるものが必要です。これらに水分子が付着して氷の結晶になると、やがて上昇気流で支えきれない重さになって落下してそのまま雪として降ったり、途中で解けて雨として降ったりするというわけです。

雨をもたらす「種」として機能するものには、風によって雲まで運ばれるチリやすす、塩などが挙げられます。しかし、これらの粒子が作用し始めるには気温が非常に低くなる必要があり、その効果はそれほど高くはないとアンドラーデ=リナレス氏は語っています。



科学者らは数十年前から、シュードモナス・シリンガエをはじめとする一部の細菌がice-nucleating proteins(氷核活性タンパク質)というタンパク質を産生することを知っていました。

氷核活性タンパク質は、それ自身が氷を作る「種」となって氷の形成を促進し、過冷却水を通常より高い温度で氷に変えます。シュードモナス・シリンガエは付近の過冷却水を氷に変えることで霜害を引き起こし、周囲の植物を損傷させることで植物組織中の栄養を利用しているとのこと。

新たに学術誌のScience Advancesに掲載された論文では、細菌ではなくフザリウムやクサレケカビといった真菌が、氷核活性タンパク質を周辺の土壌に放出していることが明らかにされました。これらの真菌が作り出す氷核活性タンパク質は水溶性で、細菌が作り出すものより小さいことに加え、より効果的に雲の水を氷に変える働きを持つとアンドラーデ=リナレス氏は説明しています。

真菌が作り出す氷核活性タンパク質は土壌に放出された後、風などに吹かれて雲まで運ばれると協力な「種」として機能します。これらの氷核活性タンパク質は-5度以上の比較的温かい雲の中でも、過冷却水を強制的に氷に変えて雨を降らせることができます。つまり、真菌による氷核活性タンパク質の産生は、以下のようなフィードバックをもたらすというわけです。

1:真菌が森林の湿った土壌で生育する。

2:真菌が作り出した氷核活性タンパク質が空に舞い上がる。

3:氷核活性タンパク質によって雨が降り、森林の土壌に水が供給される。

4:雨によってさらに多くの真菌が繁殖し、サイクル「1」に戻る。



シュードモナス・シリンガエが氷を利用して周囲の植物を攻撃するのに対し、真菌が放出する氷核活性タンパク質は過酷な環境から植物を守るのに役立ち、雨を降らせてともに繁栄できる栄養豊富な環境を作り出します。アンドラーデ=リナレス氏は「これは、生命と地球規模の気候が互いにどのように影響し合っているのかというパズルの欠けていたピースです。この氷を作る能力は、おそらく菌類に生存上の優位性を与えているのでしょう」と述べています。

今回の研究では、クサレケカビが氷核活性タンパク質を生み出す能力を独自に進化させたのではなく、数百万年前に遺伝子の水平伝播によって獲得したこともわかりました。遺伝子の水平伝播とは生物学的なコピー&ペーストのようなものであり、微生物が隣接する微生物と遺伝子コードの断片を交換し、新たな形質を瞬時に身につけることを指します。真菌はすでに氷核活性タンパク質を作り出す能力を持っていた細菌の遺伝子を手に入れ、自らも氷核活性タンパク質を生み出すようになったというわけです。

土壌中の真菌が氷核活性タンパク質を生み出し、それが雨を降らせるのに役立っているという今回の発見は、研究者らの自然保護に対する考え方を変える可能性があります。森林を伐採すると木が失われるだけでなく、土壌中に生息するこれらの真菌および氷核活性タンパク質も失われ、結果としてその地域に雨を降らせる生物学的メカニズムが破壊されてしまうかもしれません。

アンドラーデ=リナレス氏は、「気候変動が進んで干ばつがより頻繁に発生するようになる中で、これらの真菌由来の氷核活性タンパク質を理解することは極めて重要でしょう。将来、これらの天然由来の生分解性タンパク質を『人工降雨』に利用して、雨を降らせることが可能になるかもしれません」と述べました。