「アメリカの黄金時代が今、始まる」…トランプを権力の頂に押し上げた、内陸部で広がる「深刻すぎる経済格差」の正体

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ロシアによるウクライナ侵攻、世界的な移民排斥運動、権威主義的国家の台頭、トランプ2.0、そして民主主義制度基盤の崩壊……。

「なぜ世界はここまで急に揺らぎはじめたのか?」。

発売からたちまち重版が決定した話題書、『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』(川北省吾 著)では、共同通信社の国際ジャーナリストが、混迷する国際政治の謎を解き明かすために、国際政治学者や評論家、政治家や現場を知る実務家へのインタビューを敢行。辿り着いた答とは?

本記事では、〈なぜアメリカ人はトランプという「救世主」を求めたのか?…労働者や農民ら「非エリート」による、傲慢な都市部「エリート」への反乱〉に引き続き、トランプが掲げる「黄金時代」の真意などについて詳しくみていく。

※本記事は、川北省吾『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』より抜粋・編集したものです。

「黄金時代が始まる」

25年1月20日正午前、アメリカの首都ワシントン。小高い丘に立つ白亜の連邦議会議事堂は、要人たちでごった返していた。議事堂ドームの下に広がる円形広間。2度目となるトランプの大統領就任式が始まろうとしていた。

議事堂内の就任式は、1985年の第40代ロナルド・レーガン以来40年ぶり。氷点下に冷え込んだ外気温を考慮した。ドーム天井に描かれた初代大統領ジョージ・ワシントンのフレスコ画の真下で、トランプは2期目の大統領に就任した。

「皆さん、どうもありがとう」

就任宣誓を終えたトランプは、晴れやかな面持ちで口を開いた。バイデンに敗れ、再選を果たすことなくオーバルオフィス(大統領執務室)を去って4年。雌伏の時を経て、今、権力の頂に返り咲いたのだ。

万感の思いを抑え、トランプは淡々と各位に敬意を表す。副大統領、下院議長、上院院内総務、最高裁の長官と判事、歴代大統領、そして国民の皆さん──。演説に入ると、最初にこう切り出した。

「アメリカの黄金時代が今、始まる」

拍手と歓声が広間に響く。鳴り止むと、続けて決意表明した。「任期中は毎日、『アメリカ・ファースト(米国第一)』を旨とする」。それから30分ほど所信を述べると、こう言って演説を締めくくった。

「われわれの黄金時代は始まったばかりだ」

トランプは2017年1月の最初の就任演説で、衰退する祖国の窮状を並べ立て、「アメリカの殺戮は今、ここで終わる」と宣言した。4年後の演説では、冒頭と結語に「アメリカの黄金時代」というフレーズを持ち出した。

陰惨な「殺戮」から、輝ける「黄金時代」への大転回。トランプは26年の建国250周年を見据え、中国の「盛世」を思わせる未来志向のメッセージを打ち出そうと試みたように見える。どんな意図を込め、「黄金時代」に言及したのか。

失われた夢

「決定的に重要なことは、グローバル化によって格差が広がり、『親の代より暮らし向きが良くなる』という希望を持てない若い世代が現れたことだ。『アメリカの夢』が失われたのだ」

そう指摘するのはエール大教授のジョン・ルイス・ギャディス。冷戦の起源に関する研究でバンクロフト賞、外交家ジョージ・ケナンの伝記でピュリツァー賞を受賞したアメリカを代表する外交史家である。

ギャディスにインタビューしたのは25年3月。トランプの就任から2ヵ月後だった。当時、83歳だったが、研究意欲は旺盛そのもの。第一線は退いていたが、自宅から近いエール大でなお教えていた。

「夢の喪失」には伏線がある。

ギャディスによると、1989年に「ベルリンの壁」が崩れ、91年にソ連が消滅したことで、「リベラルな民主主義が最終勝利したと錯覚し、米国には世界を統べる責任があると考える一群のエリート」が現れた。

代表格は日系3世の政治学者フランシス・フクヤマ。第1章でも述べたように、フクヤマの立論はアメリカの外交政策に多大な影響を与え、中東や旧ソ連圏における「自由の拡大」を後押しした。

その結果、アメリカは莫大なコストをかけて軍を世界に展開し、アフガニスタンやイラクへ攻め入り、テロ掃討や民主化に邁進する。「『超大国の責任』に熱を上げるあまり、国内問題への対応がおろそかになった」とギャディスは話した。

最たる例が経済格差だ。グローバル化はエリート層を潤し、中国をはじめとする外国の経済発展に寄与したが、アメリカ国内の製造拠点は人件費の安い国々に移り、多くの白人労働者が仕事を失った。

リベラルな東部や西部の沿岸部と、保守的な内陸部の亀裂も広がっていた。「私は1941年に南部テキサス州で生まれ、州内の小さな町で育ち、中西部オハイオ州の大学でも教えていたから、(肌感覚で)分かっている」

広がる経済格差と深まる政治的分断が相まって、未来への楽観は遠のき、「アメリカの夢」は急速にしぼんでいく。「わが国の歴史上、初めてのことだ」とギャディスは諭す。「夢の喪失」は国民意識を大きく転回させた。

「自由貿易が自分たちに恩恵を与えていないと気付いたとき、戦後秩序への信頼は急速に色あせていった。自由で開かれた秩序を是とする総意が、外国より先にアメリカ国内で崩れ始めたのだ」

さらに〈トランプ復権は単なる「先祖返り」だった…建国250年を前に暴かれるアメリカの「力こそ正義」という気質〉では、トランプ政権が掲げる「アメリカ・ファースト」の歴史的根源などについて詳しく見ていく。

【つづきを読む】トランプ復権は単なる「先祖返り」だった…建国250年を前に暴かれるアメリカの「力こそ正義」という気質