トランプが突いた米マスコミの急所! 「メガメディア化」が招いたジャーナリズムの機能不全を読み解く

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2008年の連載開始以来、硬派な読者を熱狂させてきた岩波書店『世界』の看板連載「メディア批評」が、戦いの場を現代ビジネスに移し、奇跡の復活を遂げた!今回のテーマは、権力への「忖度」に染まったメディアの構造的問題。この危機的な潮流は、トランプ政権下のアメリカでも顕著に表れている。

ベネズエラの大統領を拉致したドナルド・トランプ米大統領は、ニューヨーク・タイムズのインタビューに「私には国際法は必要ない。私を止められるのは私の道徳心、私の意向だけだ」と言い放った。イランを奇襲して最高指導者らを殺害した後の演説でも、さらなる攻撃でイランを「石器時代に戻す」と豪語した。世界の専制君主であるかのような傍若無人の言動の矛先は、マスメディアにも向けられてきた。

非公開情報を報じたメディアの報道許可証を取り消し

2月末にイランを攻撃し始めてから、トランプ政権は報道への圧力を一段と強めている。

トランプ氏は3月、自身が設立したSNSトゥルース・ソーシャルで、ウォール・ストリート・ジャーナルの名前を挙げ、「腐敗した反愛国的な報道機関」が軍事作戦について嘘を伝えており、「反逆罪で訴追されるべきだ」とぶち上げた。

4月6日の記者会見では、イランで撃墜された米軍機の乗員が行方不明になったと報じたメディアを批判し、取材源を明らかにするよう求め、応じなければ「刑務所行きだ」と脅した。

こうした記事内容への批判に留まらず、メディアの取材活動を制限する動きも見せている。国防総省は昨年9月、非公開情報を同省の承認を得ずに報道したメディアの取材許可証を取り消す指針を示した。多くのメディアが許可証を返上、提訴して抵抗し、連邦地裁は今年3月、「言論の自由を保障した合衆国憲法に違反する」との判断を示した。

すると、同省は新たな規制を導入。記者が省内に入る際は、取材許可証があっても、職員の付き添いが必要とした。連邦地裁は4月9日、この規制も違憲だと断じた。

このようなトランプ政権の強硬な態度は、メディア側の忖度も招いている。

米・大手メディアが次々とトランプ政権に忖度

たとえば、メディア大手パラマウント・グローバルは、映画会社スカイダンス・メディアによる買収に合意し、政権の承認を求めていた。

その最中の昨年7月、パラマウント社は、トランプ氏との間で続いていた訴訟に終止符を打った。傘下のテレビネットワークCBSの人気報道番組『60ミニッツ』が’24年の大統領選の際、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領へのインタビューをハリス氏に有利になるよう編集したとして、共和党候補だったトランプ氏が提訴していたものだ。

パラマウント社は勝訴が予想されていたのに、トランプ氏に1600万ドル(約25億円)を支払うことで和解した。

その後、政権の承認を得て新会社パラマウント・スカイダンスが誕生。会長のデービッド・エリソン氏と、父でソフトウエア大手オラクル会長のラリー・エリソン氏はトランプ氏に近く、CBS報道局長に保守派を起用した。この報道局長は、政権による移民の国外追放を扱った『60ミニッツ』の一部を放送直前に差し止めるなど、物議を醸している。

パラマウント・スカイダンスはさらに、メディア大手ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの買収に動き、動画配信のネットフリックスに競り勝った。政権が承認し買収が完了すれば、ワーナー傘下のニュース専門チャンネルCNNはCBS報道局と統合される可能性もあり、トランプ氏に厳しかったニュースが変質するのでは、と取りざたされている。

また、ワシントン・ポストは今年2月、約800人の記者・編集者をほぼ半減させるリストラ案を発表した。

同紙を’17年に買収したネット通販大手アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は’24年、大統領選でトランプ氏の対抗馬となるハリス氏を社説で支持する方針を取り消した。アマゾンにとって政府機関はクラウド事業などのお得意様で、大統領に復帰するかもしれないトランプ氏への配慮とみられる。だが、これに反発してポスト購読を打ち切る読者が相次ぎ、経営が悪化していった。

政権への忖度は、巨大化したメディア企業の生存戦略となっているかのようだ。

メディアの扱い方を熟知しているトランプ大統領

そもそも、トランプ氏が専門家の予想を覆して’16年の大統領選に勝利したのは、メディアの扱い方を熟知していたからだ。

1980年代から、不動産開発の富豪としてタブロイド紙のゴシップ欄をにぎわせた。’04年から’15年まで、テレビネットワークNBCのリアリティーショー「アプレンティス(実習生)」で、自社に就職を希望する出演者を次々に失格させて人気を博した。

‘17年に第1次政権が発足する前から、トランプ氏は自らに批判的な既存メディアに敵対的な姿勢を取った。自身が虚偽の主張を重ねているにもかかわらず、指弾する新聞社やテレビ局を逆に「フェイクニュース」と決め付け、「ポスト・トゥルース(真実後)」時代の到来と称される。

‘25年1月、トランプ氏は2回目の大統領就任演説で「政府による全ての検閲をやめ、米国に言論の自由を取り戻す」と宣言した。バイデン前政権がSNS企業に圧力を掛け、保守的な言論を制限させたとみていたからだ。

実際、ツイッター(現X)やフェイスブック、ユーチューブは’21年の連邦議会占拠事件の後、事件をあおったトランプ氏のアカウントを停止していた(その後、3社はアカウントを復活させ、提訴していたトランプ氏に巨額の和解金を支払う)。

ところが、トランプ氏が自由を保障したのは、自分に有利な言論だけで、批判的言論には弾圧を強化していく。

’25年2月、メキシコ湾を「アメリカ湾」と言い換える大統領令に従うことをAP通信が拒否すると、同社を大統領執務室などでの代表取材から締め出した。代わりに、トランプ路線を支持する新興インターネットメディアを入れた。

5月には、公共テレビPBSと公共ラジオNPRを「われわれの国をひどく傷つけた革新左翼の怪物」と非難し、公共放送への補助金を禁じた。各局は寄付金集めに追われる。

7月、少女買春などで起訴された実業家の故ジェフリー・エプスタイン氏にトランプ氏が手紙を送ったとのウォール・ストリート・ジャーナルの記事は虚偽だとして、ジャーナルを発行するニューズ社のルパート・マードック名誉会長らを提訴。連邦地裁は26年4月13日、100億ドル(1兆6千億円)の請求を棄却した。トランプ氏は25年10月にはニューヨーク・タイムズも名誉棄損で訴え、150億ドル(約2兆4千億円)を請求している。

同じ10月、トランプ氏の有力支持者だったチャーリー・カーク氏の暗殺事件について、テレビネットワークABCのトーク番組司会者が、トランプ派が事件を「政治的に利用している」とコメント。トランプ氏に任命された連邦通信委員会の委員長は、放送免許の剥奪を示唆した。

メディアにとって「ニュースは一部門に過ぎない」

トランプ氏のメディア攻撃の背景には、第一に米社会の分断がある。会田弘継著『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』によれば、サービス産業化やグローバル化が進む中、製造業の労働者層が没落し、経済格差が拡大した。

もともと富裕層から支持されていた共和党はもちろん、労働者の政党だった民主党もクリントン政権以降、IT企業を優遇して市場任せのネオリベラリズム政策を取り、格差是正に動かなかった。

リーマン・ショックでも大打撃を受けたラスト・ベルト(米東部のさびれた工業地帯)の白人らは、共和党ながら「エリート層打破」を唱えるトランプ氏を支持した。

これらの人々は既存メディアを、エリートが操る「ディープ・ステート(闇の政府)」の一部だと敵視し、トランプ氏によるメディア攻撃に喝采を送る。

第二に、ネットの発達も大きい。ネットは、利用者が興味のある情報だけに接するよう促し、社会の分断を助長した。他方で、権力者が既存メディアを介さずに直接、有権者に訴えることを可能にした。

テレビ・新聞離れで弱体化した既存メディアは、社会の分断とともに、トランプ氏を支持する保守派と、対峙するリベラル派に割れ、メディアへの不信と社会の分断を加速させていく。

ギャラップ社の’25年の世論調査によれば、既存メディアを信頼するとの回答は28%に低下し、特に共和党支持層では8%まで落ち込んでいる。ちなみに、民主党支持層では51%だった。

第三の要因として、メガメディア化を挙げられる。NBCの親会社コムキャスト、ABCを擁するウォルト・ディズニーをはじめ、米テレビは今や巨大なメディア複合企業の傘下にあり、その経営者にとってニュースは小さな一部門に過ぎない。他の部門のビジネスに悪影響が出かねない報道は、自粛する力学が働きやすい。

新聞社の多くも、利益最優先の投資会社などに買収され、同様の傾向がうかがえる。

トランプ氏を厳しく監視し続けるメディアの存在

しかし、トランプ氏を厳しく監視し続けるメディアも少なくない。イランの小学校爆破を巡り、トランプ氏は当初、イランのミサイルによるものと主張したが、ニューヨーク・タイムズなどは調査報道で米軍による誤爆だと指摘した。

同紙は社説で「トランプ大統領は戦争について虚偽を連発している」と批判した。ウォール・ストリート・ジャーナルも、イラン戦争は過去のイラク戦争などと同様に、「不明確な目的への疑問、不測の事態に対する不十分な計画、過度に楽観的な想定といった落とし穴にはまっている」と報じた。

イラク戦争の時、米主要メディアが戦争支持の愛国的報道一色に染まったのとは大違いで、政権と戦う姿勢を崩していないのだ。その主な理由は、裸の王様のようなトランプ氏の態度と、それを受けた民意の変化だろう。

イラン攻撃の真っ最中でも、トランプ氏は週末になるとゴルフに興じた。戦死した米兵の遺体を迎える際も、野球帽をかぶったままで敬意を欠いていた。世論調査では、イラン攻撃を支持しない人が増加傾向にあり、大統領支持率は低下の一途をたどっている。

3月末、全米3000ヵ所以上に広がった「No Kings(王は要らない)」デモには、数百万人が参加した。「MAGA(アメリカを再び偉大に)」と呼ばれるトランプ氏の岩盤支持層からも、イラン攻撃は「アメリカ・ファースト」「新たな戦争はしない」との公約に反していると憤りの声が上がる。

こうした状況は、日本も無縁ではない。米国と同じく、社会の分断は深刻化している。ネットには、既存メディア批判があふれる。

トランプ氏を応援する改憲派の高市早苗首相は高支持率を維持しているものの、4月8日には、戦争反対と平和憲法維持を訴える市民が国会前を埋め尽くした。日本のメディアも、日米両国の政権とどう向き合うのか、改めて問われている。

後編記事『47都道府県165ヵ所で「反高市デモ」が勃発!大手メディアも報じざるを得なかった現場で起きていたこと』へ続く。

【つづきを読む】47都道府県165ヵ所で「反高市デモ」が勃発!大手メディアも報じざるを得なかった現場で起きていたこと