2度の離婚をし、3度目の結婚をした漫画家が経験して分かった「自分のことを後まわしにしたツケ」
2025年に公開されたドキュメンタリー映画『女性の休日』をきっかけに、「女性の休日PROJECT」が誕生。3月8日の国際女性デーの前後には、全国各地で自主的なイベントが開催された。
FRaUでは、3月5日、ジャーナリストの浜田敬子さんの呼びかけのもと、NewsPicks for WEと共同で、「女性の休日WEEK」の幕開けを飾るイベント「浜田敬子さん、鳥飼茜さん、能條桃子さんと『女性の休日』しませんか?日本をアイスランドに近づけるための大ブレスト会議」を実施した。浜田さん、漫画家の鳥飼さん、アクティビストの能條さんの3名をスピーカーに迎えた同イベントは、4つのセッションで構成。セッション1では、浜田さんが、「『女性の休日』ってなに?そこからなにが変わったの?」を解説。セッション2では、漫画家の鳥飼さんが、3度目の結婚を前に体験した名字変更に関する“今世紀最大の理不尽”を例に、多くの女性が抱えている日常の「もやもや」について語った。
セッション3では、「私たちは男性を愛してる。でもちょっと変わってほしいだけ〜みんなで考える『こうなったらいいな』妄想セッション」と題したクロストークを実施。セッション4では、政治分野のジェンダーギャップ解消のために「FIFTY PROJECT」を立ち上げた能條さんが、「バトンをつなぐ」ために必要なことを解説した。
この記事では、鳥飼さんが登壇した、セッション2をレポートする。
鳥飼さんは、2026年2月、著書『今世紀最大の理不尽 それでも、結婚がしたかった』(文藝春秋)を上梓。2度の結婚と離婚で知らず知らずのうちに振り回された経験、そして、3度目の結婚の準備段階で起こった名字にまつわる「理不尽」を、赤裸々かつユーモアたっぷりにつづっている。同書の発売に際し、FRaUでも鳥飼さんにインタビューを実施。出版の経緯や過去の結婚で感じた不平等感について語ってもらった。
2度の離婚を経て、3度目の結婚へ
鳥飼さんは、同書で選択的夫婦別姓にまつわる「釈然としない感情」や、男女のパートナーシップの非対称性などについて、自身の経験から記しているが、「女性が、自分自身で自分を大切にしない状況に置いてしまいがち」なことについても警鐘を鳴らしている。
イベントを前に参加者から募ったアンケートでも、日常的に「譲る」「我慢する」を強いられていることに “もやもや”した感情を抱いているという声が散見された。そんな漠然とした、しかし、確かに存在する“もやもや”を、鳥飼さんはどう捉えているのだろうか。
詳細は鳥飼さんの著作を確認していただきたいが、簡単に鳥飼さんの現状を整理しておく。
一人目の夫との間に子どもが一人。2度目の結婚相手は、「知っている人は知っている」、その世界では名の知られている人だった。その2度の結婚、そして離婚を経て、今年、3度目の結婚をしたことを発表。会場が温かい拍手で包まれると、鳥飼さんは少し照れくさそうな笑みを浮かべた。性の不平等を描いた『先生の白い嘘』(講談社)など、社会が抱える問題に鋭く切り込んでいく作風で知られる鳥飼さんだが、実際の彼女から醸し出される雰囲気はほんわかとしている。失礼を覚悟でいえば、かわいらしい。
3度目の結婚前に起こった名字に関するトラブル
その鳥飼さんが今回『今世紀最大の理不尽 それでも、結婚がしたかった』を記したのは、名字変更をめぐるトラブルがきっかけだった。
3度目の結婚を控え、2度目の結婚時から変えていなかった(2度目の夫の)名字を変更しようと、準備していた書類を持って区役所に行くが、書類を受け付けてもらえなかったの。鳥飼さんが区役所に行ったその日に法律が変わったのだ。著作に詳細に記されているのでぜひ読んでみてほしい。
「(2度目の)離婚時に名字を変えていなかったんです。離婚届を提出する際、当時の夫が区役所までついてきたのですが、彼の目の前ですぐに名字を戻すことが気まずくて。私の勝手な配慮です」
しかし、時間が経つにつれて、「ふつふつと悔しさがこみ上げてきた」という。
「なんで私はあれほど我慢していたんだろう、押さえつけられなければいけなかったのかと、悔しくて」
そんな折、医師から、「安全な状況になって初めて以前受けた抑圧が表出することがある」と言われ、すとんと腑に落ちた。
「もともと名字にこだわりはなかった」が、「もう名字だけでも結婚の影響を受けるのは嫌だ」と、最初の夫の名字に戻すことを決める。「鳥飼茜」というのはペンネームだ。小中高の先生が初見で誰も正確に読めなかったという。「持って生まれた」名字に戻すという選択肢はなかった(このあたりも著作にくわしい)。
「家裁に申請し、無事許可が下りたのですが、みなさんご存知のように、その瞬間に、クレジットカードやパスポートなどの名字が一斉に変更になるわけではありません。個々に手続きが必要です。それが面倒だったのと、書類を手にした爽快感から、2年間、放ったらかしてしまっていたんです。
その後、3度目の結婚の話が立ち上がり、「ようやく重い腰をあげて(笑)」区役所に行ったその日が、2025年5月26日、戸籍に氏名のフリガナが記載される「改正戸籍法」が施行された当日だった。鳥飼さんが持っていた、フリガナが記載されていない書類は、その日から使えなくなっていたのだ。
「区役所の受付の女性がとても申し訳なさそうでした」
区役所の屋上で、涙がこみ上げてきたという。
「もう今のパートナーの名字にするしかないのかなと思いました。そして、女性が男性の名字にするのが当たり前になっていく流れへの理不尽さも感じました。
今回の件は私が書類を寝かせていたことが原因です。でも、もしその改制日までに間に合っていたところで、そもそも自分の納得いく苗字に戻す許可を裁判所に請い受容されるまでの段取りは恐ろしく煩雑だったし、苗字を転機ごとに変える手続きが片側にとってだけにのしかかることは事実として変わらない。これまで私が結婚した相手はクレジットカードの変更や家裁への申請など、名字が変わることによる煩わしい手続きを、一切やってこなかったんですよね。そのことが理不尽に思えたし、憤りを感じました。漫画も手がつかなくなったほどです(笑)」
現在の日本の民法では、結婚に際し、男性、女性のいずれか一方が、必ず名字を変える必要がある。厚生労働省「人口動態統計」によれば、2024年は、全体(485,092)の94.1%にあたる、45万6453組の夫婦が夫の名字を選択している。
自分を後まわしにしたツケ
この日のセッションで、鳥飼さんは、過去の結婚時に感じた違和感にも言及している。
「若い頃は、女性が男性の社会進出を邪魔するのは悪だと考えていたんです。最初の結婚相手も2度目の結婚相手も、もっと世に出たいという思いを持っている人でした。私にもそういった気持ちはありましたが、滅相もない、こんな私のために相手の時間を使わせるのは重罪にあたると決めつけていたんです。なんでしょうね、この感覚」
鳥飼さんが2度目に結婚したのは、「天才」と称される人だった。当時、多くの人から、「あなたが支えてあげてね」と言われ、複雑な気持ちになったという。
「自分が世に出るよりも、夫を支え、夫が世に出ることで、自分も恩恵が得られると勘違いしていたんです。不思議ですよね、自分には何も残るものはないのに。当時は、執念でケアをしていたように思います。結婚で名前を変えることもそうですが、結婚という言葉でシュガーコーティングされて現実が見えていなかったのだと思います」
ケアワーク──、誰かを支えるという行為を否定するつもりはないし、尊いものだと思っている。
「ただ、自分が成し遂げたいものがあるのに、自分自身でそれを踏みつけてまで相手を尊重するのは、自分自身を傷つけることになります。自分を蔑ろにした過去は、私の中で未だ残っています。
名字はひとつの象徴ですが、入口のひとつでもあります。結婚が決まり、『どちらの名字にする?』となった時、男性の邪魔をしないほうがいいなと考える女性は少なくないと思うんですよ。自分のことを後回しにしてしまったツケは、自分自身に返ってきます。尊厳の問題です」
鳥飼さんは、名字を相手に「合わせる」ことも、パートナーを「支える」ことも、非難しているわけではない。ただ、それが当人にとって「譲る」、「我慢する」という行為であれば、それは自分自身を傷つけていることになり、尊厳の問題につながると語る鳥飼さんの言葉は、多くの参加者の胸に刻まれたのではないだろうか。
後編「2度の離婚をした漫画家が、3度目の結婚相手と名乗る姓を「1度目の夫の名字」にした理由」では、3人目の結婚についての話を語ってくれた。鳥飼さんがたどり着いたパートナーシップについて、そして鳥飼さんとパートナーが決断した名字のことなどさらに深く話を聞いていく。
撮影/杉山和行
構成/笹本絵里(FRaUweb)
