戦争の終わり方が見えた…!イラン元外相提案から透けて見えるアメリカ・イラン停戦交渉の焦点
関連記事「世間が何と言おうとイランでのアメリカの戦争はトランプの主張通り『順調に進んでいる』と見ることができるこれだけの理由」で解説したようにイランでの戦争の状況は、アンチ・トランプのアメリカメディアの報道通りとは思えない。そして、停戦交渉についても、イラン側は否定的なアメリカメディアを「歪曲」と非難。進展に向けたイラン内部の変化を伺わせている。そして4月8日、交渉のため2週間の停戦が決まった。
40年前と同じ不満と、ホルムズ安全通行への意思
トランプ大統領が3月31日の演説で行った、「ホルムズ海峡を通じて石油を受け取っている世界中の国々は、海峡に行って石油を奪い、自国のために使え」との発言の真意はどこにあるのだろうか。
このヒントは、今から40年近く前の1987年の段階に遡ると、理解しやすいだろう。
この年にトランプ氏は、ざっと9万5000ドルを使って、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ボストングローブの3つのアメリカの主要紙に、イラン・イラク戦争に対するアメリカ政府の関わり方を批判する意見広告を出していた。新聞の一面を全部買いきった全面広告を打ったのだ。その広告においてトランプ氏は「なんでアメリカに関係しない船を守ってやるのに、アメリカがカネを出さなきゃいけないんだ。ここを通航する船の石油は、アメリカは必要としていないではないか。それに同盟国のためにアメリカが動いても、同盟国が意味のある支援をアメリカに対してしてくれないではないか」と訴えている。40年近く前と今とで、語っている内容は全く同じだということがわかるだろう。
つまり、ホルムズ海峡問題で行き詰まったから、突然、同盟国に責任を転嫁するような無責任発言をしたのではなく、昔から持っていた持論を、今回改めて表明したと見た方が正しいのである。
よく考えれば、トランプ大統領は同様の不満をNATOに対してもぶつけてきたではないか。ヨーロッパを守るために、アメリカがいくらカネや軍備や人員を提供したとしても、ヨーロッパは当然の権利の如くにしか見ておらず、アメリカの負担におんぶに抱っこで、自分たちは極めて軽い負担に留めているとして、大いに問題にしてきた。それと全く同じ問題意識をイランとホルムズ海峡の問題にも当てはめているにすぎないのだ。一貫した主張を今回も繰り返しただけなのである。
ところで、トランプ大統領は3月31日のテレビ演説の中で、次のように発言していた。
「中東における我々の同盟国にも感謝したいと思います。イスラエル、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦、クウェート、バーレーンです。これらの国々は素晴らしい存在であり、我々はこれらの国々がいかなる形であれ損害を受けたり、失敗したりすることを決して許しません。」
これらの国々がいかなる形であれ損害を受けたり、失敗したりすることを決して許さないと語っているのは、ホルムズ海峡の安全な通行が実現できると思っているからではないか。
イランは「交渉前向き。アメリカメディアは歪曲」
さて、アメリカ側とイラン側の交渉について、トランプ政権は順調に進んでいるとする一方、イラン側は全く進んでいないという相矛盾する見解を表明してきた。これについても、トランプ大統領が嘘をついているという見方が多かったが、実際にはトランプ側の主張通りだったことが、徐々に明らかになってきた。
4月4日にイランのアラグチ外相はアメリカとの停戦協議めぐって「拒否したことはない」とし、「パキスタンの尽力に深く感謝していて、イスラマバード訪問を拒否したことは一度もない」とも発言している。それどころか「イランの立場はアメリカメディアによって歪曲されている」とまで語っている。まるでイラン側はアメリカとの交渉が進んでいることを否定したことがないのに、アメリカのメディアが勝手にウソを捏造して報道し続けてきたと言わんばかりの主張なのだ。
メンツにこだわって交渉を遅らせれば、イランにある近代的な生産インフラは灰燼に帰すことになる。トランプ流に言えば、「石器時代に戻される」ことになる。
ペゼシュキアン大統領もそれまでの沈黙を破って、3月28日に「停戦がなければ、イラン経済は3週間から1ヶ月以内に完全に崩壊する可能性がある」と発言して注目を浴びたが、発言はそれだけではない。3月31日には「再び攻撃を受けないことが分かれば、イランは戦闘を停止する用意がある」と表明したことも報じられた。
さらに4月2日には、「米国国民に向けた書簡」を発表し、「イランは一般の米国人に対して敵意を抱いていない」「イランと米国の間には対立も対話も選択肢としてある」「今日、世界は岐路に立っている。対立の道を歩み続けることは、かつてないほど代償が大きく、無益なことだ。対立と関与の選択は現実的かつ重大なものであり、その結果は将来の世代の未来に影響するだろう」との意見表明も行なっている。
このまま対立を続けることもできるが、対話を選ぶ選択もあることにはなるが、イラン人は一般の米国人に対して敵意を抱いていないので、対話を選びたいのだというメッセージがわかるではないか。
ペゼシュキアン大統領はイラン革命防衛隊によって実質的な権力を奪われたと見られ、しばらく発言らしい発言がなかったが、ここに来てここまで活発に発言するようになったことは、大いに注目すべきところだ。イラン国内でペゼシュキアン大統領の位置付けが大きく変わったことが推察できるだろう。
アメリカとの交渉が進んでいることは、イラン革命防衛隊からすれば表立っては認めたくないだろうが、もはやそんなことは言っていられない現実に直面する中で、イラン側の動きが変わってきたと見ればいいのではないか。
停戦条件? イラン元外相の提案
そしてここでさらに着目したいのが、イランのザリフ元外相が著名な外交誌であるフォーリン・アフェアーズに寄稿した「イランはどうやって戦争を終結させるべきか」というタイトルの記事だ。
この中でザリフ元外相は、「(イランが)米国やイスラエルと戦い続けることは心理的に満足感をもたらすかもしれないが、民間人の生活やインフラのさらなる破壊につながるだけだ」としつつ、「イランは戦い続けるのではなく、勝利を宣言し、この紛争を終結させ、次の紛争を防ぐ取引を成立させる」べきだと語っている。ザリフ氏はどうしてイランが勝利したと言えるのかについては、特には語っていないが、恐らくは現体制が革命によって倒されて、完全に新しい政権に変わるという事態には至っていないのだから、イラン側の勝利になるとのロジックではないかと想像する。
ザリフ氏は、「イランは外国の敵から自国を守ることに重点を置くよりも、国内で国民の生活向上により重点を置くことができるようになる」メリットを考えるべきだと主張し、「すべての制裁を終了する代わり」という条件付きではあるものの、「核プログラムに制限を課し、ホルムズ海峡を再開する」ことを提案している。
ザリフ氏の提案は箇条書きで示されているものではないが、具体的に列挙すると、以下のようになる。
・イランは、核兵器を決して求めないことを約束する
・イランは、国際原子力機関(IAEA)追加議定書を批准し、すべての核施設を恒久的な国際監視下に置く
・イランは、濃縮ウランの全備蓄を(濃縮率)3.67%未満の合意された水準まで削減することを約束する
・米中露は、イランおよびペルシャ湾岸の関心のある近隣諸国との間で、燃料濃縮コンソーシアム(共同利用施設)の設立を支援する。イランは、濃縮されたウランと設備をすべてこの施設に移送する
・イランとオマーンとの間で、ホルムズ海峡を船舶が継続的に安全に通過できるよう、正式な取り決めを確立する
・バーレーン、イラン、イラク、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イエメンは、西アジア全域における侵略の禁止、協力、航行の自由を確保するため、地域安全保障ネットワークで協力を開始する
・米国は、イランに対するすべての安全保障理事会決議を終了させる
・米国は、一方的なイランに対する制裁を撤廃し、さらにそのパートナーにも同様の措置を促す
・米国は、妨げや差別なく、イランが積極的にグローバルサプライチェーンに参加できるようにする
・イランと米国は、相互に利益となる貿易、経済、技術協力を開始する
・イラン、米国、そしてペルシャ湾岸諸国は、エネルギーと先端技術に関するプロジェクトで協力する
・イランと米国は恒久的不可侵条約を結ぶ
・アメリカは、2025年と2026年の戦争でイランに生じた損害の復興資金を拠出する
ここには、ヒズボラ、ハマス、フーシ派などのテロ組織への支援を根絶することは書かれていない。ミサイル開発についての制限にも触れられてはいない。反体制派に対する弾圧を止めるとの記述もない。また、イランに生じた損害の復興資金を拠出することには、アメリカは当然ながら難色を示すことになるだろう。
だとしても、アメリカとイランの間で、今、水面下でどんな交渉が進んでいるかが想像できる論文ではないだろうか。
ザリフ氏はテヘラン大学で教鞭を取っており、イラン在住だと思われる。イラン国内の体制派の容認がなければ、このような論文を発表することは許されないだろう。アラグチ外相やペゼシュキアン大統領の発言と併せて考えてみた場合に、トランプ大統領が語っているように、イラン側との交渉は順調に進んでいると考えていいのではないか。
現に8日には交渉のための2週間の停戦が発表された。4月末には結論が出ているだろう。
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