「しなきゃよかった…」年金月17万円・60歳元サラリーマンが「年金繰上げ」したら?80代で訪れる〈まさかの結末〉【CFPが「繰上げ受給」の損益分岐点を解説】
老後の資金計画を立てるうえで、「年金をいつからもらうか」は非常に重要な判断です。なかでも「繰上げ受給」は、早くもらえる反面、一生涯にわたって年金が減額されるという大きなリスクを伴います。本記事では、60歳で繰上げ受給を選択した元サラリーマンのモデルケースをもとに、仕組みとリアルな受給額のシミュレーションをCFPの服部貞昭氏が解説します。
60歳元サラリーマンの「年金繰上げ受給」シミュレーション
【モデルケース】
・性別:男性
・年齢:60歳(会社員として38年勤務・定年退職)
・本来の受給見込み額:月17万円(老齢基礎年金+老齢厚生年金)
・本来の受給開始年齢:65歳
・60歳から「繰上げ受給」を開始
この元サラリーマンのモデルケースでは、65歳から受給開始の場合、本来、月17万円、年間204万円の年金をもらうことができます。しかし、60歳繰上げ受給を選択すると、年金額は、月12万9,200円、年間155万400円に減額されます。
60歳受給開始、65歳受給開始のそれぞれの累積受給額を表にしました。
[図表1]累積受給額比較
年金を早くから受給開始するため、当初は、60歳受給開始の累積受給額は、65歳受給開始の累積受給額より多くなります。
しかし、あるときから、逆転されます。その時点を「損益分岐点」といいます。60歳受給開始の場合の損益分岐点は、80歳10ヵ月です。
それ以降の年齢では、60歳受給開始の累積受給額は、65歳受給開始の累積受給額より少なくなります。長生きした場合、90歳時点では、約450万円も差がついてしまいます。
90歳まで長生きした元サラリーマンは、「繰上げ受給しなきゃよかった……」と、後悔することになります。
繰上げ受給の仕組みとメリット・デメリット
「繰上げ受給」では、60歳〜64歳11ヵ月の間、1ヵ月単位で、年金を受給開始するタイミングを自由に選択することができます。65歳より早くから年金をもらうことができる代わりに、年金が一生減額されます。
年金の減額率は、繰り上げ1ヵ月あたり0.4%(※)です。1年繰り上げて64歳から受給開始した場合の減額率は4.8%、最大5年繰り上げて60歳から受給開始した場合の減額率は24%です。
※1962年(昭和37年)4月2日以降生まれの方の減額率。それ以前に生まれた方の減額率は1ヵ月あたり0.5%(60歳繰り上げで最大30%)。
繰上げ受給のメリット
繰上げ受給の最大のメリットは、早期に現金を確保できることです。60歳で定年退職して収入が途絶えたあと、再就職が難しい場合、もらった年金を生活費や医療費などに補てんすることができます。
また、健康上の不安があり、「長生きできるかわからない」と感じる方にとっては、早めに年金を受け取ることが、合理的な選択になるケースもあります。
近年では、生活に困っているわけではないが、繰上げ受給で早くから年金をもらい、旅行や趣味など健康なうちにやりたいことにお金を使おうとする人も、少しずつ増えています。
繰上げ受給のデメリット
一方、繰上げ受給の最大のデメリットは、年金が一生減額されることです。長生きした場合には、ずっと減額された年金をもらうことになり、生活が非常に苦しくなります。
一度、繰上げ受給を選択すると、取り消しができませんので、慎重に判断する必要があります。
他にも、いくつかのデメリットがあります。繰上げ受給の開始後に、障害を負った場合、障害年金が支給されません。障害年金はそれなりの金額をもらうことができ、しかも、全額、非課税です。この障害年金をもらえないと、かなり不利になります。
また、繰上げ受給の開始後に、失業して失業手当をもらうと、老齢厚生年金の全額が支給停止されます。65歳未満では失業手当と老齢厚生年金を同時にもらうことはできません。
まとめ:年金の繰上げ受給は「慎重な判断」が必要
繰上げ受給は、一見すると「早くもらえてお得」に感じますが、長生きした場合、累積受給額が少なくなるリスクがあります。日本人の平均寿命(男性約81歳・女性約87歳)を踏まえると、多くの方は、損益分岐点(80歳10ヵ月)を超えて生きることになります。
繰上げ受給を検討する場合は、退職金・貯蓄、老後の自身およびパートナーの収入なども含めて、トータルで老後の資金設計をしたうえで、決断することをおすすめします。
服部 貞昭
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)
新宿・はっとりFP事務所 代表
エファタ株式会社 取締役
