佐藤国男さんが挿絵を手がけた宮沢賢治の絵本

 ごわごわ逆立った毛並み、ぐにゃりと曲がった背中―。大木の年輪や木目の曲線そのままに力強く彫られた山猫は、今にも飛びかかってきそうだ。北海道函館市の版画家佐藤国男さん(74)は「注文の多い料理店」など宮沢賢治の絵本の挿絵を長年担当してきた。感情豊かに描かれた登場人物に魅せられ半世紀。木の特徴を見極め、宮沢作品に心を寄せながら、今も彫刻刀を握る。(共同通信=松本はな)

 道南のせたな町出身。高校卒業後、貧しい生活を抜け出そうと地元を飛び出し、東京都内の土木現場で必死に働いた。学費を稼ぎ、夜間大学に通ったが生活は立ち行かず中退。スポーツカーで登校する同世代の学生を横目に自転車をこいだ。「かなわないと思った」

 そんな時期に手に取ったのが宮沢賢治の童話集。出来が悪く、虐げられる主人公の姿に自身の境遇が重なった。印象的だったのは「銀河鉄道の夜」に登場した少年ジョバンニ。恵まれない家庭をばかにされる悔しさや嫉妬心を抱えながら、それでも弱者を思いやる優しいまなざしに救われた。

 20代半ば、北海道に戻り函館で大工の職を得た。製材所で廃材をもらっては、宮沢作品をモチーフにした版画製作にのめり込んだ。雪がのしかかった木の年輪には、しなって踏ん張ったゆがみが残る。木がもがいた跡を削らずに生かし、山猫や少年ら登場人物の心の内を彫り続けた。

 そんな版画が出版関係者の目に留まり、1984年に挿絵を担当した「銀河鉄道の夜」の絵本が好評を博した。佐藤さんも注目を浴びその後版画家として独立、「セロ弾きのゴーシュ」など宮沢作品を中心に約20冊の挿絵を手がけた。今も家庭向けの壁かけ版画などを製作する。

 「曲がってもねじれてもいい。風雪に耐えた木にしか出せない魅力があるから」。木のありのままの形を生かす作風は、苦労や挫折を経験した佐藤さんの生きざまにもつながる。版画の中にある主人公の姿から、自分らしく生きる力強さを感じてほしい、と願う。

「セロ弾きのゴーシュ」の版画(佐藤国男さんの山猫工房ホームページより)

「銀河鉄道の夜」の主人公ジョバンニの版画(佐藤国男さんの山猫工房ホームページより)

工房で版木を彫る佐藤国男さん=北海道函館市