「この役、私も演じてみたかった」──。テレビに映る同世代の活躍を妬み、落ち込んだ日もありました。それでも瀬戸朝香さんは、キャリアの絶頂期に「7年間の休業」をみずから選びます。「役の代わりはいても、母親の代わりはいない」。その言葉は、決して自己犠牲ではなく、中途半端を嫌う彼女が悩み抜いて出した答えでした。

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「あの時間を返してほしいと思ったことはない」と言い切る潔さと、母を「かっこよ!」と笑う子どもたちの存在。葛藤の末に、自分だけの「正解」を掴み取った7年間の舞台裏を聞きました。

「役の代わりはいても、母親の代わりはいない」

── 昨年、約7年ぶりに連続ドラマに出演し、芸能界に本格復帰した瀬戸朝香さん。お休みに入る前は数々の作品で主演を務めるなど、まさに「キャリアの絶頂期」でした。なぜあのタイミングで、育児に専念しようと思われたのでしょう。

瀬戸さん:長男のときは出産1か月で復帰したんです。その後、連続ドラマの撮影に入ったのですが、ある夜、延長保育のお迎えに行ったときの光景が忘れられなくて。

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夜9時近く、暗い建物に園の明かりが1か所だけポツンとついていて、そこに先生と息子が2人きりで私を待っていました。その姿を見た瞬間、胸が締めつけられるような切ない気持ちになってしまって。とはいえ、ドラマの現場では、自分の都合で時間を切るわけにはいきません。このままでは「仕事と育児、どちらも中途半端になってしまう」という危機感から、拘束時間の長いお仕事はいったんセーブしようと決めました。

── 芸能界は移り変わりの激しい世界。長期間ブランクを作ることへの不安や、居場所がなくなるという焦りはなかったですか。

瀬戸さん:当時はなかったですね。15歳で上京して走り続けてきたので、やりきった感もありました。それに、俳優であれば私の代わりはいくらでもいますが、この子の母親は私ひとりだけ。子どもの成長はその瞬間を逃すと二度と戻ってこないので、ちゃんと向き合いたいと思ったんです。

「この役、私も演じてみたかった」と落ち込んだ日

── それまで仕事中心だった日々が、出産を機に大きく変わったと思います。実際に育児中心の生活になってみて、いかがでしたか。

瀬戸さん:想像以上に大変でした。「なんでこんなに思うようにならないんだろう」と壁にぶつかる毎日。ストレスを発散する場もなく、「仕事をしていれば、気分転換になっただろうな」と思う瞬間もあったし、テレビを見ていて、「この役、私も演じてみたかった」と活躍する同世代を羨ましく感じ、落ちこむこともありました。

── 自分で決めたこととはいえ、そう簡単に割り切れるものではないですよね。

瀬戸さん:気持ちが揺れたときは、その都度、自分の中で天秤にかけていました。子どもを預けてまで仕事を優先したいのか、それとも今、向き合いたいのか。どちらが後悔しないだろう、って。私の性格上、どうしても中途半端にするのがイヤだった。何より「できる限り子どものそばにいたい」という強い気持ちがありました。

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習い事の送り迎えや学校関連の調整など、やることは山積みでしたが、そういう細かな関わりも自分自身でやりたかった。だからこそ、ふとした瞬間に落ち込むことはあっても、「あの時間を返してほしい」と思ったことは一度もありません。

「ママ社長なの?かっこよ!」子どもの言葉に背中を押され

── そして今年、再びカメラの前に立とうと思えたのはなぜですか。

瀬戸さん:子どもたちから「ママの働いているところが見たい」と言ってもらえたのが大きかったですね。私がテレビに出ていたリアルタイムを知らないので、過去の作品を見せたりもしていたんですが(笑)。本格的に復帰して「ママ、こんなお仕事してたんだ」と喜んでくれるのがすごく励みになっています。

今、何十年も前に撮影現場でご一緒した方々が現場をリードする立場になられていて、「復帰したならぜひ」と声をかけてくださった。以前の縁で、今こうしてまたお仕事をいただけていることが、本当にありがたいです。

── もし、休業せずに仕事を続けていたら、今のご自身はどうなっていたと思いますか。

瀬戸さん:きっと今のような心のゆとりは持てなかったんじゃないかなって。そう考えると、自分の選んだ道のりは間違っていなかったなって、あらためて思います。

── 今は社長としても多忙ですが、お子さんたちはどう見ていますか。

瀬戸さん:息子は「ママ社長なの?かっこよ!」って(笑)。子どもは忖度のない意見をくれる相手です。ちょっと怖くもありますが、「いいね」「これはないね」とシンプルに伝えてくれるその言葉が、次のステップに向かう大きなヒントにもなっています。

「子どもと一緒にいたい」と願ういっぽうで、「仕事で活躍する人が羨ましい」と心が揺れる。そんな葛藤を抱えながらも、瀬戸さんは「今、後悔しないのはどっち?」と自分に問い続け、その時々の正解を選び取ってきました。

仕事か、育児か。どちらかを選べば、どちらかに申し訳なさを感じてしまう夜もあるかもしれません。でも、あなたが悩み抜いて選んだその道は、いつか瀬戸さんのように「間違っていなかった」と笑える日がくるはず。今日、あなたが「後悔しないために選んだこと」はありますか?

取材・文:西尾英子 写真:瀬戸朝香