鳥谷敬が明かす「自分が監督だったら選手、メディアとはこう付き合う」

現役時代に所属した阪神、ロッテ双方のファンから「将来の監督候補」と期待される鳥谷敬。もしも彼が監督に就任したならば、いったい、どのような方法でチームをマネジメントしていくのか。誰にも言わなかった苦悩を初めて明かした著書『明日、野球やめます 選択を正解に導くロジック』より一部抜粋、再構成してお届けする。

全力疾走しない選手には懲罰も

チームにとって一番いいのは、監督・コーチに仕事がないことだろう。打順をいじったり、投手起用を考えたりしていると充実感が得られるのかもしれないが、やはり何もしなくても勝てるというのがいい。

監督のできることと言えば、負けを受け入れることしかない。担当コーチから意見を聞いて、自分でオーダーを決めるのだから、負けたら自分の責任でしかない。

そういう姿勢であれば、周りで支えてくれる人たちも、監督のせいだけにはできないし、勝つためにもっと改善したいと思うようになるだろう。勝ったら、選手を推薦してくれたコーチ、頑張ってくれた選手のおかげ。負けたら監督の責任。それでいいと思う。

もし、自分が監督だったら、走らずに歩いてベンチに帰ってくるとか、打って一塁まで全力疾走していないとか、そういう根本的な、野球を人に見せるエンターテインメントとして考えた時にマイナスになる態度に対しては懲罰も考える。

ただ、グラウンドで起きているエラーや三振といったミスは、使っている自分の責任だと受け入れる。懲罰交代させるような選手を自分が選んで試合に出しているのであれば、自分がやめないといけない。

試合に出すと決めたら、何があっても出して、その日は任せる。試合の流れで代打が必要な時は、作戦として交代して、あとでしっかりコミュニケーションをとればいいのではないだろうか。

また、マスコミにはチーム状態が悪くて負けている時は、そのなかで起こったいいことを書いてもらう。チーム状態がよくて勝っている時は、そのなかで起こった悪いことを書いてもらうようにお願いをしてみるのがいいかもしれない。

チームが勝った時は、とことん反省点を書いてもらって、負けた時は何か希望が持てるようなポイントを挙げてもらう。お互いにうまくいくような形が望ましい。

自分が監督なら、鳥谷敬をどう使うか?

そして、もし自分が監督だったら、鳥谷敬という選手をどう使うだろうか。単純な選手だから、普通に頑張ってもらって、ダメそうだったらしっかり話をすればいい。若手選手を盛り上げたり、技術力を上げたり、チームをいい方向に向かわせるようになんとか話し合って、そういう働きもしてもらえばいいのかなと思う。

そのうえで、鳥谷敬と若くて有望な選手を併用しながら、徐々に起用の割合を変えていく。断食ではないが、いきなり食べるのをやめたり、いきなり食べだしたりすると、体に負担がかかる。

それと同じように考えると、バトンを渡すほうも渡されるほうも、ゆるやかにレギュラーを交代できれば、お互いにやりやすいのではないだろうか。

鳥谷敬という選手を客観的に見ると、そんなにいい選手ではない。ただ、常に試合に出てくれるという点では、使い勝手はいい。使う側からすると、一番面倒なのは、すぐにどこかが痛いと言いだしたり、相手投手を見て成績が残せそうになかったら休んだりするような選手だ。

そういう意味では、鳥谷敬は余計なことを言わないし、淡々とやってくれる。話は違うかもしれないけれども、年間の試合数が増えれば増えるほど、鳥谷敬の価値は上がっていたかもしれない。

自分からすると、使う側としてはそのほうが楽かなと思って、そういうふうにしていたところもある。別に反逆を起こすわけでもないし、普通に毎日スタメンに名前を書ける。でも、そういう姿に対して、もっと刺激が欲しいと言う人もいたし、物足りないと言う人もいただろう。

5段階評価で全項目3.8

常に試合に出るということ以外に、自分が誇れる部分はどこかと考えると、これは難しい。ただ、自分で決めたことを継続するということに関しては、自分の子どもたちや周りの選手を見ても、できている人にほとんど出会ったことがない。

そう考えると、唯一、自分が人に誇れるものがあるとすれば、入団してからやめる日まで、準備を大切にし続け、毎日同じことを積み重ねたこと。野球の技術とか精神力とかではなく、その一点に関しては、一流だったのかなと思う。

5段階評価で自分に点数をつけるとすると、全項目3.8ぐらいではないだろうか。4だと過大評価に思える。全部、上位5番目までには入るけど、トップ3には入らない。小さい頃はこれがコンプレックスだった。「打つ」「投げる」「走る」で一番になれないことが自分のマイナスポイントだと感じていた。

だが、それがプロに入った途端、突出してダメな部分がないことで、代打も、代走も、守備固めも必要のない選手として総合的にプラスに変わったのだ。

どれかひとつ秀でたものがあるとすれば……守りはもともと3.2ぐらいの自己評価だったのが、プロで3.8になったぐらいだろうか。

走塁で目立ったプレーがあるのは、唯一、走塁だけが相手投手の投球や、相手打者の打球という不確定要素に左右されることなく、自分の経験に基づいて割りきった判断ができるからだろう。

メンタルという評価項目があったら、何を言われてもほとんど気にしていないから4ぐらいあるかもしれないが、やはり3.8が限界というところではないだろうか。

撮影/宮脇進

明日、野球やめます
選択を正解に導くロジック

鳥谷 敬

2022年6月24日発売

四六判/224ページ

1,650円(税込)

ISBN:

978-4-08-781722-5

プロ野球界屈指の遊撃手として、阪神タイガース・千葉ロッテマリーンズで活躍し、2021年シーズンをもって引退した鳥谷敬、引退後初の著書。

「40歳まで遊撃手を守る」「試合に出続ける」という目標をみごとに体現したプロ野球人生18年間。

NPB歴代2位の1939試合連続出場、遊撃手としては歴代1位となる667試合連続フルイニング出場という輝かしい軌跡を辿るとともに、誰にも言わなかった苦悩の日々を初めて本書で明かします。

さらに、プロ野球という個性派集団の中で“ポジション”を守り抜いた著者ならではの思考・発想も紹介!