虫歯も歯周病も一生治らない?

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 子どもの頃、歯が痛くなって嫌々、歯医者に連れて行かれ、「虫歯」の治療を受けた経験のある人は多いと思います。「虫歯の痛みも、歯を削られる怖さも、もう嫌だ」と改心して、真面目に歯磨きを続けている人もいるかもしれませんが、実は、多くの歯科医師が「虫歯は一生治りません」と断言しています。

 そうであれば、痛みや恐怖に耐えながらの治療は何だったのでしょうか。近著「えっ!? まだ始めていないんですか? お口からの感染予防」(ギャラクシーブックス)で「虫歯も歯周病も治らない病気」と語る、歯科医師の宮本日出(ひずる)さんに聞きました。

「菌」はずっとすみ続ける

Q.「虫歯も歯周病も治らない病気」というのは本当ですか。一生治らないということでしょうか。

宮本さん「『虫歯も歯周病も治らない病気』というのは本当です。発症して、治療をして症状が治まっても一生、完治はしません。皆さんは虫歯について、『歯に穴が開いていないから虫歯じゃない』と思っていませんか。あるいは、歯周病について、『歯茎の腫れがないから歯周病じゃない』と考えていませんか。

虫歯で歯に穴が開くのは、虫歯の目に見える症状が出ているだけです。歯周病で歯茎が腫れるのは、歯周病の目に見える症状が出ているだけです。虫歯の原因の虫歯菌と、歯周病の原因の歯周病菌は常に口の中に住み続ける『口腔(こうくう)内常在菌』で、完全に取り除くことは不可能です。そのため、目に見える症状がないからといって、治ったわけではありません」

Q.しかし、歯科医院で治療を受けたら、「治った」と思ってしまいます。

宮本さん「医学的に病気が治ることを『完治』といいます。これは病気が完全に消失して、再発する可能性がない状態を表します。例えば、骨折の場合は治ると『完治した』といいます。骨は大きな力がかかって折れてしまいますが、いったん骨がくっつくと、元の状態に戻ります。骨が弱くなって、またすぐ、骨が折れることはありません。骨折は完全に治ります。

これに対し、目に見える症状が一時的になくなっても、再発する可能性がある場合は『寛解(かんかい)』といいます。例えば、リウマチの場合は症状が落ち着くと『寛解した』といいます。症状がなくなったように見えますが、体内にはリウマチの原因の因子が残っており、治療・管理を続けないとすぐに再発して、リウマチの症状が出てしまいます。体の中に原因があり続ける限り、完治はしません。

リウマチ同様、虫歯も歯周病も管理・治療を続けないと常に症状が出る可能性があり、完治はしないのです。ちなみに、理論的には、医療器具を滅菌するようにすれば、虫歯菌も歯周病菌もいなくなります。しかし、そのためには121度という高温で20分間滅菌しないといけません。菌の前に自分の体がやられてしまいます」

Q.虫歯になる原因と仕組みを教えてください。

宮本さん「虫歯の原因は『歯の質』『食べ物・飲み物』『虫歯菌などのばい菌』が絡み合い、これに時間が関係します。歯の質には、生まれつき個人差があります。歯の表面を覆っているエナメル質は骨より硬く、体の中で最も硬い組織です(水晶程度)。エナメル質が元々丈夫な人は、歯が虫歯の環境にさらされても歯の表面がなかなか溶けないため、虫歯になりにくいです。反対に、エナメル質が元々弱い人は虫歯になりやすいのです。

次に、食べ物・飲み物です。歯は酸性になると、エナメル質が溶け、虫歯になりやすくなります。pH5.5〜5.7以下で虫歯になります。飲み物では、コーラ(ph2.2、数字はph)、100%オレンジジュース(2.8)、スポーツドリンク(3.5)が酸性で虫歯になりやすいです。反対に、なりにくい飲み物は、豆乳(7.3)、牛乳(6.6)、日本茶(6.3)です。

健康によいとされる果物は酸性なので、虫歯になりやすいです。例えば、レモン(2.1)、リンゴ(2.9)、トマト(3.7)といずれも酸性が強いです。アルコールでは、ワイン(2.3)、チューハイ(3.0)、ビール(4.0)が虫歯になりやすく、ドライジン(8.3)、焼酎(8.0)はなりにくいです。

甘い食べ物は基本的に糖質が多いため、糖が虫歯菌のエネルギーとなり、虫歯になりやすくなる食べ物です。ご飯やパンの中にも多くの糖質が含まれているため、同様です。

次に、菌について説明します。口の中には300〜500種の菌が常駐しています。その中でも『ストレプトコッカス・ミュータンス菌』という虫歯菌が虫歯の原因となります。この菌が食べ物に含まれている糖質をエネルギーとして、歯を溶かす(虫歯になる)酸を作ります。ミュータンス菌は多くの場合、幼い頃に母親からうつるといわれています。

これら3つの条件に、時間が関係します。虫歯になりやすい環境に一時的になっても、唾液の力で酸の状態は改善し、中性に戻ります。中性に戻るまでにかかる時間は20〜60分程度です。だらだらと食べ続けると、酸性の状態が続き、歯は長い時間を酸性の中で過ごすので、エナメル質は溶けて、虫歯リスクは上がってしまいます。

よく勘違いされているのですが、『甘いものをたくさん食べると虫歯になる』のではありません。量よりも、甘いものが口の中にどれだけの時間とどまっているかに左右されます。酸性が強いレモンをかけた食事を、酸性が強いコーラを飲みながらだらだらと食べていると、虫歯リスクはとても高くなります。

ちなみに、歯周病は18〜20歳の時期に、口の中にすみついた歯周病菌が原因の感染症です。歯周病菌は会話や会食、キスなどで唾液を介してうつり、加齢などで免疫力が弱くなった45歳ごろに発症します」

メンテナンスを継続しよう

Q.虫歯も歯周病もずっと治らないとしたら、一生、歯医者に行く必要があるということでしょうか。

宮本さん「あります。一生通い続けられる歯科医院とよい関係を持ってください。『歯医者に行く=(歯を削る)治療』ではありません。虫歯も歯周病も目に見える症状が落ち着いていたら、症状が出ない状態を維持するために『口腔ケア(メンテナンス)』を行います。自分ではきれいにできないところや、自分では落とせない汚れ(細菌)を取り除きます。

特に近年、虫歯の分類が変わり、目では確認できない『超初期虫歯』から発見し、治療できるようになりました。これまでの『穴が開いた状態=虫歯』ではありません。穴が空いていないため、削って詰め物をする必要はありません。エナメル質を強化するフッ素を塗って虫歯を治します。これは、定期的に歯科医院に通っていないとできない超早期発見治療です」

Q.どの程度の頻度で通うべきでしょうか。

宮本さん「人によって異なります。虫歯リスクや歯周病リスク、口の中の状態、年齢などを考え、どれくらいの頻度で通うのか、どんな内容の口腔ケアを行うのか、歯科医師と相談しましょう。

イギリスでは公的に指標が示されており、虫歯・歯周病のリスクがほとんどない人でも3カ月〜2年の間隔での通院を推奨しています。18歳以下であれば3カ月〜1年です。もちろん、リスクが高い人の間隔はより短くなります。まれに、虫歯・歯周病リスクが低く、全く問題ない人もいますが、それでも最低2年に1度は歯科医院に行きましょう」

Q.「一生歯医者に行く必要がある」と言われると、「歯医者に通わせるために大げさに言っているのでは?」と疑う人も出てきそうです。歯磨きなどセルフケアをしっかりしても駄目なのでしょうか。

宮本さん「セルフケアは大切ですが、先述したように、目では確認できない超初期虫歯は歯科医院でしか発見できません。また、歯科医院でしか取り除けない細菌があり、その細菌こそが本当に悪い細菌です。

虫歯も歯周病も細菌による感染症の病気ですが、その菌は主に『バイオフィルム』という膜の下にいます。バイオフィルムの中にいる菌には薬が効かず、通常の歯ブラシでは取れません。歯科医院で専門的な器具などを使って、バイオフィルムを剥ぎ取り、本当に悪い菌を取り除く必要があります。

昔の歯医者さんは治療後、『痛くなったら、またおいで』と言っていたようですが、令和の歯科医療ではNGです。『次は○カ月後においで』と言ってくれる人がよい歯医者さんかもしれません」