最強サラリーマンの呼び声も高い田端信太郎氏

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 最強のサラリーマン、一本釣りされるサラリーマン、炎上するサラリーマン──。現在、「ZOZOTOWN」などを運営する株式会社スタートトゥデイで「コミュニケーションデザイン室」の室長を務める田端信太郎氏は、転職によって、キャリアと自身のブランド価値を高めてきた。新卒でNTTデータに入社後、リクルート→ライブドア→コンデナスト・デジタル→LINE→そして今年3月にスタートトゥデイに転身。組織に属しながら個人名を轟かせる、かつてない「サラリーマン」という働き方を、田端氏はどのように切り拓いてきたのか。成功する転職について、また、田端氏のサラリーマン哲学について伺った。(【前編】【後編】でインタビューをお届けします)

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前澤友作、堀江貴文、斎藤和弘。社長たちに“口説かれる”

──田端さんは今年2月末にLINEを退職され、3月1日に、株式会社スタートトゥデイに入社されました。大きな話題になった転職ですが、前澤友作代表取締役社長から声をかけられたのがきっかけだったとか。経緯を教えていただけますか。

田端:前澤(社長)が、プライベートブランド「ZOZO」の立ち上げなどにあたって、発信力のある人、本音を隠さず語るような人材を探していたときに、周囲の複数の人から、だったら田端がいいんじゃないかと言われたようです。名前が挙がったのは僕だけではなかったと思いますよ。それで会うことになったのが最初です。

 ただ僕のほうは、もう何年も前から前澤をウォッチしていたんです、勝手にね。ブログを読んだり、以前は株を買ったりもして、面白い社長がやってる面白い会社だなと。人間、年を取るとどうしても守りに入って、つまらなくなりますよね。少しでもそうならないようにと、男は前澤、女性は神田うのさんを、はっちゃけたタメ年のベンチマークとしてきたんです。僕と前澤は同じ年で、誕生日も1カ月しか違わないんです。

 それで会った時に、「僕がもし前澤さんと仕事をさせてもらうなら、こう思いますよ!」という話をいろいろとしたんですが、自画自賛するわけじゃないけど、一夜漬けで考えたような内容ではなく、以前から前澤をウォッチしながらいろいろと考えを巡らせていた内容だったので、刺さったようなんです。その結果、相思相愛になったんじゃないかなと思います。

──前澤社長をリスペクトする気持ちがおありだったのでしょうか?

田端:仰ぎ見てリスペクトするというより、生身の人として、経営者として興味があるし、一緒に仕事を是非してみたいという感じですね。それは、ライブドアに移るときに、堀江(貴文)さんにも感じました。

──2005年に田端さんはライブドアに入られています。このときは堀江さんから声がかかったのですか?

田端:先輩が先にライブドアに転職していて、彼が僕を推薦したようです。当時のライブドアは、近鉄(大阪近鉄バファローズ)の買収を仕掛けるなど飛ぶ鳥を落とす勢い。真剣に転職したいとは思っていなかったんだけど、堀江さんに一対一で会えるならと、ミーハーな気持ちで面接に行きました。

 事前の堀江さんに対するイメージは、正直言って、そんなにいいわけではなかったんです。投資の仕方がワイルドというか、やや乱暴というか。僕自身も投資の仕事をしていたから、投資に関しては、そういう印象でした。ところが会ってみると、極めて真面目だし勤勉で正直な人だな、と思いました。それで本を読んだりして、知れば知るほど、メディアの伝える印象とは異なる側面が見えてきて、この人の下で働くのは面白いだろうなと思ったんです。

 社長がきっかけになったという意味では、コンデナストに移るときもそうでしたね。

◆面接で、媚びることなく直球で物申す

──ライブドアの後、2010年にコンデナスト・デジタル社へ移り、『VOGUE』『GQ JAPAN』『WIRED』のウェブサイトとデジタルマガジンの収益化を進められました。

田端:ある時ヘッドハンターとランチをしていたんですね。その時点で、ヘッドハンターは社名を出さなかったんだけど、ビジネスの内容や会社の状況を聞いて、これはコンデナストのことを言ってるなと、すぐにピンときた。で、(当時の)社長の斎藤(和弘)さんは、スーパースター編集者だから、コンデナストだったら僕は興味がありますと言いました。

 反対に言えば、コンデナスト以外だったら、面接に行く気はなかったんです。当時、紙の出版社がデジタル化を進めていた時期で、ヘッドハンターから同様のお誘いを色々受けていたんですが、本気じゃないところも多かったので。でも、斎藤さんがデジタル化にあたって右腕を探しているというなら、ぜひお会いさせてくださいと。

──斎藤和弘氏は『BRUTUS』の編集長を経て、2001年にコンデナスト・パブリケーションズ・ジャパンの代表取締役社長に就任。『VOGUE』の編集長も務めていたカリスマ編集者。斎藤さんとの出会いがあったんですね。

田端:実は後日談があって、斎藤さんに会った時に、話し出して10分後くらいには「俺、社長をやめることにした」と宣言されたんです。ここ2、3年、デジタルを真剣に考えたんだけどわからないと確信したから、やめると。僕は「えー!!」って。斎藤さんの右腕になれるならと思って面接に来たのに、話が違うじゃないかと。

「次に社長になるやつを呼んであるからと、そいつと話してね!」と斎藤さんは会議室を出ていかれました。正直ね、一人で待たされている間に、帰ろうかな? と思いました。正直な会社だなとは思ったけど、話が違うじゃねえか!? と、むっとしていたんで(笑)。そうしたら今の社長の北田(淳)さんが入ってこられて、ああ、君のことは内田(正剛)君から聞いてるよと仰ったんですね。電通の内田さんは、僕がR25を立ち上げたときに、さんざんお世話になった恩人。じゃあちょっと話そうかという雰囲気になったんです。

 ただ、もはや入れてもらいたいとは思ってないから、俺はぶっちゃけこう思います、ああ思いますって、媚びることなく直球で言いました。このソーシャル時代に、VOGUEみたいにツンとすました高嶺の花みたいな美人なんて、逆にモテないですよ、とか好き勝手言いまくりました。で、カルチャーに合わないから落とされるだろうと思っていたら、ますます気に入ったみたいな感じの反応が返ってきて、え、そうなんだ!? それじゃあと意気に感じて、気持ちが傾いていったわけです。

◆金に物を言わせてやらかしてるよ、と思ってる人もいますよ

──先に、前澤社長から声をかけられた際も「本音を隠さず語る人材」を求めているという話がありました。いま、御社における田端さんの役割とは何ですか?

田端:僕は、サラリーマンの気持ちもわかるし、一方で、経営者の思考回路もわかるんですね。だからその間に立って、双方の言葉を翻訳する。それが僕の仕事のひとつだと思っています。もちろん経営者にもいろんなタイプがいるんですが、たとえば前澤と堀江さんに共通するのはサラリーマン経験が一秒もないこと。就職したことがない人と、サラリーマンって、やっぱり思考回路が違うんです。

「コミュニケーションデザイン室 室長」という立場で言えば、コミュニケーションって相手があって成立すること。だから社外やお客様から、会社としてのスタートトゥデイや「ZOZOTOWN」、あるいはブランドとしてのZOZOや、社長はこう見られていますよ、こんなふうに思われていますよ、ということを前澤には言いますね。

──例えばどんなことを仰いましたか?

田端:一つ挙げるなら、失礼かもしれないけど、大好きだから申し上げるんですけど、前澤さんの最終学歴は高卒ですよね。これは「資産」だと言いました。

 インターネットやシリコンバレーはもともとカウンターカルチャーの匂いがあったのに、今やグーグルでも、アマゾンでもフェイスブックでも、ピカピカのエリートが働く時代になってしまった。経営者でも、たとえば楽天の三木谷(浩史)社長はピカピカの経歴のエリート経営者でしょう。その真逆に前澤さんはいる。若い頃、バンドのスタジオ代を稼ぐために建築や工事現場でバイトをしていたから、倉庫に行くと、俺、フォークリフトの運転ができるんだよね、と言ったりする。どちらがいい悪いではないし、どちらも素晴らしいんだけど、こういう時代だからこそ、前澤的な価値は際立つ。僕自身もそういうパンクさが好きなんです。

 やっぱり社員は社長に向かって言いにくいことがあるんです。社長だって、言われなくてもわかってるよ、ということもあるでしょうし。それでも、あえて僕は言います。前澤さんが、たとえ芸術へのピュアな思いでバスキアの絵を買っていても、お金持ちが、金に物を言わせてやらかしてるよ、と思ってる人もいますよ、とか。

◆会社のコンプライアンスのためにどうするか

──普通のサラリーマンは、社長になかなかそこまで言えないですよね。

田端:それを言うのが私の仕事ですから。もちろん自分の保身とか、自分の給料を上げるために言うんだったらダサいですが、心から会社や前澤のためを思っているわけだから。それで万が一、クビになっても、刺し違える相手にとって不足はないじゃないですか。

──前澤さんと田端さんの間には、衝突もあるわけですよね。

田端:100%意見が一致しないからこそ、僕が会社にいる意味があるんです。前澤は、一度やろうと言い出したことを思い留まることはあまりないですが、僕の言葉で、45度くらい角度が変わることはあるかもしれない。タイミングをずらすとか、文脈を変えるとか、そういう変化が。基本的には、非常に聞く耳をもってくれるし、素直なところもある社長です。

──田端さんは、いつでも転職できる、次に行くところがあるという自信がおありだから、イエスマンになっていない?

田端:そもそもサラリーマンにとって、転職は「当たり前の選択肢」です。僕の考えでは、会社のコンプライアンスのために最も有効なのは、制度や手続き論じゃないんです。いつやめても路頭に迷わないような人材で幹部や部門責任者を固めること。銀行でも大手メーカーでも、今は年収数千万円もらってるけど、新卒から入って出世したその会社から一歩出た瞬間にどうなるかわからないような人は、会社の経営にコンサバティブ、あるいは消極的にならざるを得ない。

 いま、大手企業のデータ偽装や不正が次々と明るみに出ています。そんな悪事の片棒を担がされるなら、私はさっさとやめて、同業他社へ行きますと言える人間が要所要所にいることこそ、本質的な意味で、会社のコンプライアンスにつながると思います。

【プロフィール】田端信太郎(たばた・しんたろう)
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」の立ち上げや、広告営業の責任者を務める。2005年、ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後は執行役員メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、BLOGOSなどを立ち上げる。2010年春からコンデナスト・デジタルへ。VOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年、NHN Japan(現LINE)執行役員に就任、広告事業部門を統括。2014年、上級執行役員法人ビジネス担当に就任。2018年3月から株式会社スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室 室長。

●撮影/内海裕之