シュートチャンスにパスを選択し、ゴールならず。浅野は自らの消極的なプレーを猛省し、試合後にはその目に涙を浮かべた。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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[キリンカップ]日本代表1-2ボスニア・ヘルツェゴビナ代表
6月7日/市立吹田サッカースタジアム

 西川周作は、いつもの優しい口調で言葉を紡いだ。
 
「『お前は本当に良いプレーをしていたよ』って。たぶん、最後のワンプレーで打たなかったことを後悔していたと思うけど。それはそれで、彼自身を大きくしてくれるワンプレーだったはず」
 
 終了間際に訪れたビッグチャンスだった。エリア内に抜け出し、フリーでボールを受ける。しかし、この日が代表初先発だった背番号18は、誰もが「シュート」と思ったであろう場面で、パスを選択。その試みは相手DFの懸命なカットに阻まれた。
 
 試合後、浅野拓磨はみんなに「本当にすみません」と謝罪したという。優勝セレモニーでは、人目をはばからずに号泣した。
 
「下を向いていたので、『次、頑張ろうぜ』と。あとはサッカー的な話で、僕から裏へのボールとか何回かあったので。あの辺はもう少し、『精度を高くやっていきたい』とか。そういう感じでしたね」
 
 U-23代表でもチームメイトの遠藤航は、肩を落とす浅野に声をかけ、お互いのコンビネーションについて振り返りつつ、さらなる奮起を促した。
 
「スタメンで出て、チャンスは作っていたし、良いプレーをしていた。あとちょっとで、点にも絡めそうな場面を何回も作り出していた。拓磨からすれば、決め切りたかったと思うけど、でももう切り替えてやっていくしかないんで。そういう声はかけました」
 
 遠藤が言うように、もう終わったことだから、次に向けて前を向くしかない。いつまでも後悔や自責の念にかられていても、あのワンプレーが戻るわけではない。
 
 悔しさに涙を浮かべる若きストライカーの姿を、本田圭佑はどう見ていたのか。
 
「難しいですね……ふたつの考え方がありますよね。ミランにも負けて泣く選手がいますけど、『泣くなよ』って言いたいのと、“泣くほど悔しいんだ”ということなんじゃないですか。ただ、僕は泣かないんで。泣く選手の気持ちは分からないです」
 
 突き放したような言い方に聞こえるかもしれないが、その真意は、“泣いている暇などない。次だ”という、本田流の叱咤激励のはずだ。
 
 なぜ、シュートが打てる絶好のチャンスにパスを選択したのか。当然ながら、そこには浅野なりの考えがあったのは間違いない。
 
 ただ、結果的にはゴールは生まれず、そして日本はボスニア・ヘルツェゴビナに1-2の逆転負けを喫した。敗因の一部は浅野にあるのかもしれない。ただ、こうした苦い敗戦が、チームをさらに逞しくするのもまた事実だ。
 
 本田は言う。「収穫は、負けたこと」と。
 
 最後尾から浅野のパフォーマンスを見て、「良いアピールができたと思う」と評する西川は、これからの浅野と、そしてハリルジャパンの成長を楽しみにしている。
 
「これが彼にとっても良い経験になって、次、最終予選を戦うチームに活かせれば、今日の後悔は力になる。こういう経験をして、みんなで強くなっていきたい」
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)