裏社会にもAIが浸透しつつあるという(写真はイメージです)

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 第1回【事業継承を進めていたら売却先に「中国人実業家」のカゲが…弁護士にまで裏切られた老社長が頼った“意外な人物”とは? AIの進化は“裏社会の交渉”まで変える】からの続き──。事件師とは簡単に言えば無免許・無資格の弁護士のような者だ。もちろん非弁行為は違法だが、彼らはトラブルや紛争に介入し、法律の目をかいくぐりながら解決することで報酬を得る。【藤原良/作家・ノンフィクションライター】(全2回の第2回)

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 いや、それだけでない。時にはトラブルを悪用し、事件師は相手からも不当に金品を巻き上げるさえ厭わない。まさに裏社会の仕事人だ。

裏社会にもAIが浸透しつつあるという(写真はイメージです)

 そもそも「事件師」や「ヤマ師」という呼び名には、いささか蔑称のニュアンスも含まれている。彼らは倒産整理、債権回収、その他ありとあらゆる民事紛争のトラブルに介入し、文字通り狩り場にしてしまう。

 事件師は詐欺事件に介入し、解決を目指すことも少なくない。そのため事件師は同じ悪人ではあっても詐欺師やペテン師とは悪行の毛並みがやや異なっている。最近では見かけなくなった総会屋やフィクサーと闇の関係を持つ者もいる。

 あえて言えば、腕のいい事件師は経験不足の弁護士より、よほど解決力や突破力を持ち合わせている。

 だが平成から令和にかけて「法令遵法=コンプライアンス」の精神が重視されるようになった時代の流れで「事件師は無資格・無免許の犯罪者」と敬遠されるようになった。

 さらに弁護士法の見直しや司法制度の改革なども重なり、事件師は活動の場を失っていった。ところが皮肉なことに昨今におけるAI発展の余波を受け、事件師が再び暗躍し始めているのだ。

事件師に依頼

 東北地方でビジネスを展開している老社長は後継者に恵まれず、長年経営してきた会社を黒字倒産させる必要に迫られていた。

 そんな折、「社長の会社を引き継ぎたい」という「佐々木(仮名、以下同)」なる人物を知人から紹介された。

 老社長と佐々木の話し合いは順調に進んだ。ところが真の買い主は佐々木ではなく中国人の実業家だったことが判明した。老社長は取引を急遽、反故にした。

 日本の習慣に関する知識に乏しい中国人が新オーナーになると、管理状態が杜撰になる傾向が強い。買収した企業をマネーロンダリングや労働ビザの不正乱発に悪用したり、設備や材料などの不当な横流しの巣窟と化したりするケースも多い。

 老社長は自分の会社を中国人実業家に売却することを頑なに拒んだ。老社長は売買取引の手付金をすでに受け取っていたが、それも返還する意思を示した。一見、これでこの売買取引は白紙に戻ったかのように見えた。

 だが佐々木が断固として納得しなかったことから事態は泥沼化へと向かった。老社長は弁護士を依頼したが、あろうことか佐々木の味方についてしまった。困り果てた老社長は、旧友から紹介された事件師の「池田」に仕事を依頼し、翌日に弁護士を解任した。

詐欺師の“楯”となる弁護士

 池田は早速、半グレ風の男たちを引き連れた佐々木と面会。「手付金の返還のみですべてを白紙に戻すこと」という老社長の方針に合意することを求め、交渉を開始した。

 詐欺師同然の佐々木は、これまでにいくつもの場数を踏んだと思われる池田の話しぶりに気づき、その場では警戒して身を引いた。だが、すぐに佐々木は弁護士を依頼し、池田との対決姿勢を鮮明にした。

 近年の傾向を見ると、このタイミングで弁護士が介入すれば、事件師である池田は佐々木との対面交渉はできなくなるはずだった。弁護士が法的な“楯”となって池田の動きを封じ込めてしまうからだ。

 それでも池田が強引なやり方を押し通したり、執拗な追求を繰り返したりすると、弁護士は刑事告訴が可能になる。脅迫、強要、恐喝、ストーカー行為、威力業務妨害など、ありとあらゆる容疑で警察に逮捕されるリスクが上昇してしまう。

 平成から令和にかけて弁護士は“楯”の戦術を確立し、多くの事件師が仕事を失って駆逐された。それだけではなく皮肉なことに、詐欺師が被害者からの追求を防ぐため、弁護士を使うことが常套手段になっていることも附記しておく。

完敗した弁護士

 話を元に戻せば、事件師の池田は対面交渉を速やかに諦め、書面での交渉に切り替えた。法曹資格がなく、単なる事件師に過ぎない池田を軽く見ていた佐々木と弁護士は、余裕綽々の構えで書面の交渉に応じた。

 ところが、池田から送られてきた書面の完成度に弁護士は思わず舌を巻いた。弁護士でさえも簡単には作成できない、非常に完成度の高い書面だったのだ。

 主張を支えるために用いられた条文や判例を見るだけでも、ずば抜けた法知識と経験を持つ法曹家でなければ書けないものであり、詐欺師の片棒を担ぐようなレベルの弁護士では反論の書面も作成できなかった。その後、書面で数回のやり取りを交わすと、弁護士は白旗を上げて完敗を認めた。

 この弁護士を破った池田の書面こそ、実はAIが作成したものだったのだ。池田は私に「AIに書かせました。もちろん内容のチェックはしてますけどね」と自慢気に述べた。

 AIは、膨大なネットデータの中から適切なものを選び、それを組み立てて文書を作成する。専門家によれば「その作業スピードは人間のおよそ100倍から5万倍です。人間同士が何度も会議を繰り返して1年越しでやっと作成出来るレベルの報告書でも、AIならわずか10分で仕上げます。完成度は極めて高く、クオリティーも申し分ありません」とのこと。

事件師は救世主!?

 理論上の話だとはいえ、事件師・池田のためにAIが作成した書面は、通常の弁護士が行う100倍から5万倍の作業スピードで仕上げられたものだと言える。

 さらに事件師としての豊富な経験も反映されているため、並の弁護士では太刀打ちできないのも致し方ないだろう。

 こうして弁護士の“楯”を失った佐々木は手も足も出なくなり、老社長の主張を呑んで降参するだけだった。その上、池田から迷惑料も搾り取られてしまった。

 老社長が事件師に感謝したのは言うまでもない。引き続いて会社の売却先探しも依頼すると、数カ月後に池田は会社の売却を無事に完了させた。

 この件は、老社長の周辺に口コミで伝わった。池田は現在、AIを活用する新しいタイプの事件師として、今回のような複雑な案件を解決するために日本全国を飛び回っている。

 事件師のような特殊な存在でなくとも、弁護士の資格がない一般人がAIを使って法律事務を引き受け、報酬を得ると非弁行為に該当する。さらにAIの回答には間違いが含まれている可能性もあり、その利活用については細心のチェックを払う必要がある。

 とはいえ、AIの発達が意外にも裏社会の住人である事件師の活動を支え、法的なグレーゾーンで苦しむ人々の“救済”を成し遂げている。

私たちが得る「答え」とは?

 ちょっとした“義賊”のような超法規的存在が、日本のあちらこちらで誕生しているのだ。

 AIが日本の裏社会に与えた意外な影響を、私たちはどう受け止めたらいいのだろうか? こうした動きは私たちにとって何を意味しているのだろうか? 

 遠からず、意外にも近い将来、その答えが私たちの前の前に示される気がしてならない。

 第1回【事業継承を進めていたら売却先に「中国人実業家」のカゲが…弁護士にまで裏切られた老社長が頼った“意外な人物”とは? AIの進化は“裏社会の交渉”まで変える】では、なぜ老社長は裏社会の住民であり、非合法の稼業に手を染める事件師の池田を頼りにせざるを得なかったのか、その経緯について詳細に報じている──。

藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。著書に『山口組対山口組』、『M資金 欲望の地下資産』、『山口組東京進出第一号 「西」からひとりで来た男』、『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜』(以上、太田出版)など。

デイリー新潮編集部