フジテレビ、異例の仰天人事 希代のヒットメーカーが「ナンバー2」に…「芸能人と飲み歩くようなこともない」実直な人柄
後継者候補
フジテレビが希代のヒットメーカーを組織のナンバー2に据える。「古畑任三郎」(1994年)など数々の斬新な人気作を手掛けた石原隆氏(65)が6月下旬の株主総会で、代表権付きの専務に就く。石原氏が深刻な視聴率低迷と業績不振からの救世主となるか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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フジは2016年度から10年連続で視聴率4位が続く。視聴率と連動する業績も落ち込んでいる。そんな中で石原氏が取締役専務に就任する。個人の判断でフジとしての契約を外部と結べる代表権付きだ。石原氏はこれまで系列会社に出ており、フジ本体への復帰は5年ぶりとなる。

フジには代表取締役社長の清水賢治氏(65)の上に会長が存在せず、副社長もいないから、石原氏がナンバー2。清水氏はフジ・メディア・ホールディングスの社長も兼ねるため、フジ本体の立て直しは主に石原氏に委ねられるのだろう。
清水氏は慶應大卒業後の1983年に入社。放送事業の心臓部である編成部に配属された。石原氏は東京外国語大卒業後の84年に入社。配属はやはり編成部だった。清水氏は1年先輩として石原氏の人柄と仕事を目の当たりにしてきたうえで、最大限の信頼を寄せている。
石原氏は事実上、清水氏の後継者候補と見ていい。元会長の日枝久氏(88)が絶対的権力者として君臨していた昨年3月末までのフジは後継者候補が見当たらない組織だった。日枝氏が局長以上の人事を30年以上も握っていたからだ。
複数のフジ関係者によると、日枝氏はそのときの社内状況を見て社長交代の時期や新社長を決めていたという。だから社員にすらサプライズな社長人事もあった。
後継者候補が見えない組織は不利である。社員たちが結束しにくくなるし、長期的展望も立てにくい。また、日枝氏が社長を決め続けていたから、視聴率低迷が長く続いても組織が大きく変わらなかった。同じ人間が舵取り役を選んでいるのだから、どうしてもそうなってしまう。
「これまでの社長たちは会社を建て直すことより、日枝さんの目ばかり気にしていた」(フジ関係者)
日枝氏が絶対的権力者のままだったら、石原氏の専務就任はなかったというのがフジ関係者の一致した見方である。日枝氏と石原氏の間には距離があったという。石原氏は昨年6月から系列の制作会社・共同テレビの社長を務めているものの、退任する。
石原氏の世代のテレビパーソンには派手な人が目立つ。しかし石原氏は質素で実直。常識人で腰も低い。「芸能人と飲み歩くようなこともない」(前出のフジ関係者)。世間の人が抱くフジのイメージとは懸け離れている。やたらサブカルに詳しい青年が、そのまま大人になったような人だ。
フジらしくない人
そんなフジらしくない人が、圧倒的な実績を残した。これほどヒットドラマを手掛けた人は他局を含めても見当たらない。まず現在も続く「世にも奇妙な物語」(1990年)を考え出した。尖った内容が評判だった「NIGHT HEAD」(92年)を手掛けた。織田裕二(58)を俳優として大きく飛躍させた「振り返れば奴がいる」(93年)を企画した。
田村正和さんの新たな魅力を引き出した「古畑任三郎」(1994年)をつくった。山口智子(61)を国民的スターにした「29歳のクリスマス」(94年)も石原氏の作品だ。一味違うヒューマンドラマ「王様のレストラン」(95年)も手掛けた。
ほかにも松嶋菜々子(52)の「やまとなでしこ」(2000年)、木村拓哉(53)の「HERO」(01年)、田村さんの「さよなら、小津先生」(同)などをつくった。実績を挙げたらキリがない。
硬骨漢の一面もある。現在は編成などを担当する執行役員の鈴木吉弘氏(58)が日枝氏に買われていた上司と意見が合わず、2011年に退職した際のエピソードだ。
鈴木氏は「振り返れば奴がいる」などで石原氏を補佐。石原氏は鈴木氏の高い才能が分かっていたから退職を惜しんだ。
依怙贔屓ではない。鈴木氏は「電車男」(2005年)を企画し、「ガリレオ」(07年)をプロデュース。退社はフジにとって大きな損失であるのは明白だった。
石原氏は鈴木氏の復社を会社に掛け合う。サラリーマン経験者なら分かる通り、退職者を組織に戻すのは簡単ではない。それでも石原氏は、鈴木氏がいかにフジに必要な人物であるかを訴えた。それにより、フジは2017年に復社を認めた。
テレビ制作者がそのまま首脳陣に加わると、失敗するケースもみられる。制作と経営は違うからだ。しかし石原氏は図らずも共同テレビなどで社長を経験しているから心配ないはず。
一方で石原氏のお陰で成長できたとして感謝する俳優は数多いから、フジのドラマの出演交渉において大きなプラスになるのは間違いない。織田裕二は今も石原氏に全幅の信頼を置いている。木村拓哉、山口智子、松嶋菜々子もそうだ。
立て直せるのか
問題はフジの現状。清水氏と石原氏によって立て直せるレベルなのかどうか。フジの現実は次の通りである。先日発表されたばかりの各局の2025年度のCM売上高と制作費、年度の個人視聴率だ。()数字は順位である。
■日本テレビ
CM売上高 約2437億円
制作費 約895億円
全日帯(午前6時〜深夜0時)3.3%(2)、ゴールデン帯(午後7時〜同10時)5.1%(2)、プライム帯(午後7時〜同11時)4.7%(2)
■テレビ朝日
CM売上高 約1867億円
制作費 約795億円
全日帯 3.4%(1)、ゴールデン帯5.2%(1)、プライム帯5.2%(1)
■TBS
CM売上高 約1761億円
制作費 約1000億円
全日帯2.7%(3)、ゴールデン帯4.5%(3)、プライム帯4.3%(3)
■フジテレビ
CM売上高 約840億円
制作費 約619億円
全日帯2.1%(4)、ゴールデン帯3.4%(4)、プライム帯3.2%(4)
かなり厳しい。2025年度は人権侵害問題があったのでCM売上高が低いのはやむを得ないが、前年度も売上高は約1238億円と低く、やはり4位。個人視聴率は上位グループとの差が一向に縮まらない。
石原氏の意向も加えられたと見られる4月改編の後も上昇の気配が伝わって来ない。バラエティは視聴習慣の影響を強く受けるので、「超調査チューズデイ〜気になる答え今夜出します〜」(火曜午後7時)の個人視聴率が1.9%に留まり、同時間帯で最下位なのは分かるが、どうして生放送なのかが解せない。
ワイドショーと同じスタイルで、VTRを流したあと、生放送のスタジオで受けている。それに何の意味があるのだろう。編集とMA(音声編集)ができる録画のほうが観やすいのではないか。
一方で「サン!シャイン」(平日午前8時14分〜同9時50分)の終了と同時にワイドショーを廃止した午前帯の改革は目下のところ成功している。代わりに拡大した「めざましテレビ第3部」(平日午前8時〜同9時)と「ノンストップ! 第1部」(同9時〜同9時50分)は2%以上の個人視聴率を獲り、TBS「ラヴィット!」(平日午前8時〜同9時55分)の1%強をかなり上回っている。
フジの午前帯のワイドショーには61年の歴史があるため、社内に惜しむ声もあったが、清水氏と石原氏に感慨はないと見られている。「2人は入社以来、ワイドショーに関わったことが一切ありませんから」(前出のフジ関係者)
最大の問題は石原氏の得意ジャンルであるドラマだろう。フジにはプライム帯の連続ドラマ枠が5つ(1つは系列の関西テレビが制作)あるが、「夫婦別姓刑事」(火曜午後9時)と「LOVED ONE」(水曜午後10時)は死活ラインと言える2%を割っている。ちなみにTBS「日曜劇場 GIFT」(日曜午後9時)は4%を超えている。
フジの両作品を観ていると、ロケの多さなどから制作費で苦労しているのが伝わってくる。新たな資金調達法を考えてもいいのではないか。
なにより、フジの業績を深刻なまでに落としてしまった旧経営陣は去ったのだから、清水氏と石原氏は敗北の理由を分析すべきだ。負けの理由が分からないままでは勝つ方法が見えてこない。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部
