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「自分はもう、まともではなくなった」。医療機関の隔離室でそう思い知らされた双極性障害の男性が、障害のある仲間たちとともに介護現場の最前線に立っています。

【写真を見る】「檻の付いた部屋」から介護の最前線へ 双極性障害の男性が挑む、障害者を即戦力にする新たな就労支援

大分市のNPO法人「ブンブンマート」理事長、山田学さん(46)。障害者が作業訓練ではなく、実践的なスキルを身につけながら就労を目指す新たな就労支援に取り組んでいます。障害を"才能"に変えて社会へ送り出す、その挑戦を追いました。

「檻の付いた部屋」での絶望と、偏見への気づき

山田さんは社会福祉士、介護支援専門員、精神保健福祉士の資格を持ち、ソーシャルワーカーとして15年にわたり福祉の現場に携わってきました。

しかし、39歳のとき双極性障害を患い、山田さん自身が「世界中から見られている」と思い込み、医療保護入院を経験。「檻の付いた部屋で、しばらく隔離されていました」と振り返ります。

治療薬を処方され、頭も体も動かない日々が続きました。心も体も追い詰められ、「社会復帰などできないと思っていた」と語ります。

この経験が、山田さんに大きな気づきをもたらしました。かつての自分が障害者に対し、「自分とは別の人、特別な人、保護が必要な人」という偏見の目を向けていた事実に、初めて気づかされました。

友人との出会い…そして現場への復帰

妻の勧めで精神科デイケアに通うことになった山田さん。転機は、デイケア初日に出会った1人の男性でした。

山田さんと同年代のその男性は、統合失調症による薬の副作用で言葉が出づらい状態でありながらも、デイケアでの過ごし方を丁寧に教えてくれたといいます。

「シンプルに友達ができただけなんですけど」と笑います。しかしその出会いが、支援者と障害者の間にある壁を、静かに崩し始めました。

闘病の間も「必ず社会復帰できる」と信じ、精神保健福祉や介護保険の勉強を続けました。やがて体調も回復に向かい、発症から1年半後、高齢者デイサービスの責任者(管理職)として、一般就労を果たしました。

その後も別の老人ホームで管理職を務めるなかで、あることに気づきます。

そこは、就労継続支援のB型・A型事業所と老人ホームを同時に経営している会社でした。現場では、B型からA型へ、A型から一般就労へと、確実にステップアップしていく人たちがいました。さらに、その中から何人もの介護士が誕生していたのです。

「だったら最初から介護を教えればいいじゃん。そしたら介護士になれるよね」。この気づきが、新たな挑戦の始まりでした。

「そのスキルの先に何がある?」

NPO法人ブンブンマートが提唱する「C型就労」は、障害者が作業訓練ではなく介護現場に直接入り、実践的スキルを習得しながら就労を目指す支援モデル。名称は、コミュニティの頭文字「C」から取ったものです。

既存の就労継続支援B型では箱折りや本の整理、就労移行支援ではパソコン入力や漢字の書き取りといった屋内作業が行われることがあります。しかし、「そのスキルを手に入れたとして、どこに就職できるのか」と山田さんは指摘します。

ブンブンマートが取り組むのは、要介護4以上の利用者を対象とした「訪問入浴」です。2025年1月にサービスの提供を開始し、現在は週7人の入浴を支えています。

3人のスタッフがチームを組み、現場で介護技術を吸収。スキルが身についたら、そのまま自社で雇用するか、ほかの施設へ就職するという流れです。

障害ではなく「人」を見る

大分市から「就労訓練事業所」の認定を受けているブンブンマート。C型就労を通じて社会に送り出す先、つまり一般企業側にも、山田さんは変化を求めます。

「職場に障害当事者、もしくは障害のある子を育てた経験を持つ人を配置すべきだ」と話し、障害者就労の定着に向けて強く訴えます。

「障害ではなく、人を見ることが重要です。障害のある子を育てた親は、その子に何ができ、何が不得意か、どうすれば伸びるかを一生懸命考えています。だからこそ、マニュアルを超えて『その人自身』を確実に見ることができるのです」と語ります。

自身も双極性障害の当事者として、仲間たちと介護サービスを提供しているからこそ、「我々ができるのであれば、健常者であるあなたたちにできないわけがないでしょ」と言い切ります。

“才能”に変えるチームの絆

山田さんは「我々は本当にすごくいいチーム」と自信をのぞかせます。

ブンブンマートでは、5人のスタッフが所属。このうち面接で「敬語が使えません」と言っていた男性スタッフに対し、職場では敬語を使わないことにしました。「それは仕事とは関係がないので」と山田さんはあっさり。

また、看護師の資格を持つ女性スタッフは、ADHDの特性がありながらも、子どもの頃から「忘れないためにメモを取る」習慣を身につけてきました。20分の会議では、ケアに必要な情報をすべて速記で書きとめます。

「顔が右方向に向きがちなので、右に倒れないよう高さをつける」「首に力が入らない、角度がつくと痛い」といった、利用者本人にとって最もつらい部分を丁寧に記録に落とし込みます。

そのケアの丁寧さは利用者や家族から喜ばれ、本人は無自覚ですが、気づかないうちに相手の心を癒していると山田さんは評価します。

「友達を早く社会に出したい」

障害者総合支援法の枠組みから抜け出せない人たちを、社会に出したい──それこそが山田さんの原動力です。

「私たちが真似される存在になり、福祉の枠組みから出てこられない人たちがどんどん社会に出てくれたらいい。友達を早く社会に出したい。シンプルに、それだけです」

「C型」は、まだ始まったばかりです。それでもこの小さな現場には、制度の外側から福祉を変えようとする熱量があります。山田さんが目指しているのは、自分たちだけの成功ではなく、この温かい現場の挑戦が、各地で当たり前の景色として広がっていく未来です。