テレビ信州

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「フィーフィー!偉いねー」

指で飼育員の手のひらをそっと触れてから、大好きなおやつをもらう1頭のサル。

何気ない行動に見えますが、試しに記者がやってみると…。指を出しかけるものの、最後まで記者の手に触れることはありませんでした。

この行動も、飼育員との信頼の証の1つだといいます。

アヌビスヒヒのメス「フィーフィー」26歳。

来園客は
「かわいい」
「めっちゃでっかくて、鳴き声もかわいい」

長野県飯田市の飯田市立動物園。39種類191の動物がいる、南信エリア最大規模の動物園です。

ここで、フィーフィーを担当するのが、飼育員の加藤あやかさん25歳。加藤さんと出会って、フィーフィーは変わりました。

愛知県出身の加藤さん。地元の専門学校で動物の飼育を学んだあと、名古屋の動物園などに勤務。3年前から飯田市立動物園で働いています。幼いころから動物が大好き、自宅には動物関連の本がずらりと並んでいます。

飯田市立動物園 加藤あやかさん
「こういうのを読んで実践して、疑問に思って書いてなかったことを師匠に聞いて、納得して自分で試して」

3年前、加藤さんは自ら手を挙げ、フィーフィーの担当になりました。

飯田市立動物園 加藤あやかさん
「ここの動物園に来て、サル舎を見て、もう何もない状態だったんですね。これすごくやりがいありそうだと思って。(フィーフィーは)すごく刺激のない日々を送ってるんだなっていうのがすごく印象的で。感情があまり動いていないというか」

加藤さんに出会った頃のフィーフィーは、今とはまったく様子が違いました。コンクリートの簡素なおりの中で毎日を退屈そうに過ごしていたというフィーフィー。一緒に暮らしていた母親たちがいなくなってからはずっと1人暮らし。本来は群れで生活するため、1頭しかいないストレスからか、自分の毛をむしり取る行動も見られました。

そんなフィーフィーを見た加藤さんは、おりの中を野生の環境に近づけようと考えました。

飯田市立動物園 加藤あやかさん
「何もしないと暇になっちゃうんで、いろんな行動を引き出したくてっていう感じですね。この止まってる木とかも、細いのが2、3本しか、もともと入っていなくて、行動も上下の動きができない。付けられるところは木をいっぱいつけて、上下の運動もいっぱいできるようにとか」

丸太の本数を増やし、土も入れました。さらには葉っぱが付いた枝も…。

飯田市立動物園 加藤あやかさん
「食べるだけが目的じゃなくて、むしるとか、かじるとか、壊すっていう行動を引き出すために入れてます」

野生では自ら餌を探すのが当たり前ですが、ここでは何もしなくても食事には困りません。そこで、加藤さんは、おりの中に落ち葉を敷いてみました。
すると、まかれた餌を自ら探し出す、野生と同じような行動を引き出すことができました。

加藤さんの工夫で様々な刺激を与えられたフィーフィーは、この3年で見違えるように活発になりました。

飯田市立動物園 伊藤崇園長
「明らかにフィーフィーが退屈な時間ていうのは今まではあったんですが、そういったものが少なくなって、狭い空間の中なんですけど一日を目的を持って過ごしているっていう、そんな様子が見られる時間がだいぶ増えてきたなと思っております」

飼育環境を工夫することで、動物の行動をより野生に近づけて健康的な生活を目指す。こうした取り組みは「環境エンリッチメント」と呼ばれ、全国の動物園で進められています。
飯田市立動物園でも以前から取り組んでいますが、中でも加藤さんによるフィーフィーの変化は著しかったといいます。

加藤さんの取り組みに専門家は…

信州大学農学部 竹田謙一教授
「初めから人を毛嫌いしている警戒心の強い個体というのは、どんなに努力してもなかなか人には近づいてきません。それがもし近づいてきたということになると、それは飼育員さんのたゆまない努力の結晶かなと思います」

そんな加藤さんが大切にしていることがあります。

飼育員1年目に出会った「師匠」から言われた言葉です。

飯田市立動物園 加藤あやかさん
「私すごく好きだから、動物がいたらあーかわいいってやりたくなっちゃうけど、けどそれを自分に置きかえて、急に知らない人にかわいいとかされたらすごく怖いし、気持ち悪いじゃないですか、それを動物にもやっているんだよっていう」

常に動物の目線に立つことの大切さです。

飯田市立動物園 加藤あやかさん
「(人間が)自分の部屋から閉め出されて、掃除をするから外で待ってろって言われた時どう思うって言われて。じゃあ動物に対してはどうなの?って言われた時に、自分のテリトリーの部屋の中をずっと、がしゃがしゃ何されているかわからないっていう状況は動物にとっても不安だし、ストレスだなっていうのを教えていただいて、なるべく短時間で掃除を済ませるようにしています」

現在、フィーフィーをはじめ、カピバラやポニーなど9種類の動物を担当している加藤さん。

正解のない飼育の世界で、試行錯誤を繰り返しています。

飯田市立動物園 加藤あやかさん
「動物たちにいろんな選択肢、いろんな樹種の葉っぱを食べてほしくて、今いろいろ探し中なんですけど」

言葉を発することができない動物たちと、ひたむきに向き合う毎日です。

飯田市立動物園 加藤あやかさん
「目標は、関わるすべての動物を幸せにできるようになりたいです。今は力不足なところもまだまだあるので、もっともっと勉強して動物のことを理解して、より良くできる“最強の飼育員”になりたいです」