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高齢者の場合は「中太り」とされる層が男女とも最も死亡リスクが少ないとされています。在宅医療においては、体重を維持するための「栄養サポート」が極めて重要です。医療法人あい友会理事長の野末睦医師が、在宅医療の最新事情について解説します。

体型維持は、患者さんの生命予後を左右する重要な戦略

日本人の現役世代への栄養指導というと、「いかにして摂取カロリーを抑え、糖質摂取を減らすか」というメタボ対策に注力します。

しかし在宅医療の現場では全く逆で、「いかにして摂取カロリーを増やし、いかにして中太りくらいの体型を維持するか」といった点が、患者さんの生命予後を左右する重要な戦略となります。

その根拠は、高齢者においては、男女ともにBMI(Body Mass Index:体格指数)が 25〜27程度、つまり「中太り」とされる層が、最も死亡リスクが少ないとされているからです。

栄養状態の評価

実際、在宅患者さんの栄養状態はどのような状況でしょうか。

これを知るには、どのような基準で栄養状態を評価するのかということも重要になってきます。

以前私のグループでは、血中のアルブミン値や、ターンオーバーが速いタンパク質濃度などをもとに、栄養状態を評価していましたが、現在は、MNA-SF(MNAショートフォーム)でスクリーニングをして、それによって「低栄養あるいは低栄養のおそれあり」と判断された人にGLIM基準を使って重症度判定することをスタンダードとしています。

GLIM基準とは、その患者さんの疾患による影響、さらには骨格筋量の評価を加えた、今までにない栄養状態の評価基準で、患者さんの状態をより正確に判定できるとされています。

ただ、GLIM基準にも少し適応が難しい場面があるのは事実です。

骨格筋量を推定するのにふくらはぎの周囲径を使うのですが、浮腫がある場合には、周囲径が太くなってしまいます。

その代わりに、骨格筋量を測定する事ができる、体成分分析装置「InBody」というものがありますが、高価である上に、測定のための体位をとるのが大変で、測定中は同じ姿勢を静かに保つ必要があるので、在宅患者さんには不向きな面があります。

このように、完璧なものはないのですが、現在、私たちは可能な限り患者さん全員に栄養評価を行っています。

それに加えて、診察時にはふくらはぎの筋肉を触ってその筋量を実感したり、毎月測定している体重の変化を表すグラフを見たりして、最近の傾向を把握しています。

この栄養状態の評価・把握は、在宅医療においては、いわゆるバイタルサインと同じか、それを上回る価値があると考えています。

「低栄養あるいは低栄養のおそれ」の在宅患者さんの割合は約8割

私たちのグループで行った評価によると、「低栄養あるいは低栄養のおそれ」の在宅患者さんの割合は約8割にのぼり、この割合は従来の報告と同じレベルです。

今のところGLIM基準による重症度判定は始まったばかりで、具体的なデータについては、まだお話する段階にありませんが、いずれにしても、死を間近に控えた在宅患者さんは、その原因疾患にかかわらず、同じようにやせ細って、同じように頬がこけてしまっています。

疾患の影響で食事摂取量が減ってくると、身体は深刻なエネルギー不足に陥ります。

まずは食事からのエネルギー、特に糖質から得るエネルギーが減るので、次は筋肉からエネルギーを取るようになります。

さらに筋肉からのエネルギー摂取ができなくなると、脂肪からエネルギーを補おうとします。

その結果、顔面の筋肉が減って、次に脂肪までもが失われていきます。栄養障害が進んだ患者さんたちが皆同じような風貌になってしまうのは、こうした「身体が自らを食い潰していくプロセス」が原因なのです。

衝撃的な内容の書籍があります。2016年発行のこの書籍によれば、がん患者さんが「がんそのもの」で亡くなる割合は約2割に過ぎず、残りの8割の人は栄養障害が原因で亡くなる、というのです。

※ 東口高志『「がん」では死なない「がん患者」 栄養障害が寿命を縮める』光文社、2016年

「がんが原因で栄養障害になるのなら、結局はがんで亡くなるのと同じではないか」という疑問を持つ方もいると思いますが、詳しく読み解くと実態は違うようです。

痩せてしまったがん患者さんに、いろいろな手段で栄養を適切に摂取してもらうと、たとえ体内にがんが存在したままであっても、多くの人が元気になっていくというのです。

なぜ痩せるのか…2つの身体的な変化

では、なぜ痩せていってしまうのでしょうか。その背景には、2つの身体的な変化があります。

1つは、高齢になったことによるタンパク質合成能の非効率性。もう1つは、がんなどの疾患による栄養吸収能の変化。

これらはとても大きな要因ですが、在宅医療の場面では、こうした身体の根本的なメカニズムそのものについての介入は難しいのが現状です。

私たち在宅診療医が介入できるのは、患者さんに提供する食事についての工夫です。

そもそも、施設で提供される食事は、設定されている摂取エネルギーが必要最小限に留まっている現状があります。

男女を問わず、一律で1日1,400kcal程度に設定されていることが少なくありません。女性には少し多いときもありますが、ほとんどの男性では足りません。

加えて主食の形態が、おかゆ(全粥)に変わると、水分量が増える分、摂取できるエネルギー密度が低下するため、完食しても大幅にカロリーが不足します。

また嚥下機能が落ちてきているということで、副食がきざみ食になったり、ペースト食などになってしまったりすると、さらにカロリーは減り、700kcal前後にまで落ち込み、女性ですら足りないケースも見受けられます。

このような状況なので、施設で提供する食事を工夫して、摂取カロリーを増やそうと思っても、多くの施設において、人件費も含めて食費にかけられる金額は、1日1,700円前後というのが厳しい現実です。

限られた予算の中で、食形態の工夫や患者さん個人個人に合わせた食事の提供などは、現状では夢のまた夢といったところです。

栄養サポートでできること

今まで述べてきたように、栄養状態の改善は、在宅医療において喫緊の課題です。ですから、在宅医はあらゆるリソースを用いて、栄養状態の改善を図っていく必要があります。

1.「栄養状態」を第5のバイタルサインに

まず、私たちの常識を変える必要があります。診察時は、バイタルサインを測定するのと同じように、栄養状態を評価することを「当然のプロセス」としなければなりません。

それに基づいた栄養サポートを行うことが、医療従事者や施設職員、そして患者さん本人やご家族にとっても「当たり前」の認識となるよう、私たちが導いていくべきです。

2.全職種に求められる栄養の基礎知識

医師や看護師はもちろん、あらゆる職種が栄養サポートの基礎的知識を身につけることは必須だと思います。

診察場面では、聴診するのと同じように、患者さんのふくらはぎを触って筋肉量を確かめる。あるいは血圧の推移を毎回確認するのと同じように、少なくとも1年間の体重変化にも毎回気を配る。こうした習慣が大事です。その上で、取れる対策を積極的に取っていきましょう。

3.管理栄養士という「プロの力」を最大活用する

管理栄養士の助けを借りることができる環境であれば、積極的に活用しましょう。最近では地域に「栄養ケアステーション」が設置されており、そこに依頼して管理栄養士の力を借りることもできます。また自前で管理栄養士を雇用するのもいいでしょう。

「栄養障害のある人全員に、管理栄養士のサポートは必須のことである」という認識を、地域の常識にしていきたいものです。

管理栄養士によるアドバイスには、食品形態の選定、カロリーアップのために主食に脂質やタンパク質を混ぜる工夫、嚥下機能に即した食形態、食事姿勢の指導など、その専門性はまさにプロの仕事です。

彼らには大活躍していただきたいと考えています。

最後に

的確な栄養サポートは、在宅医療にとって必須なことですが、まだまだ発展の余地があります。しっかり取り組めば、患者さん、施設に自院の特徴として強力にアピールすることができ、自院をアピールする強力な武器にもなるでしょう。

今回は食事を中心とした介入について触れましたが、経口摂取ができないときの栄養サポートについては、別の回でお話したいと思います。

参考文献・資料

東口高志『「がん」では死なない「がん患者」 栄養障害が寿命を縮める』光文社、2016年

研究代表者 玉腰暁子(北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野) 文部科学省科学研究費 大規模コホート研究(JACC Study)

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」

野末 睦
医師

医療法人 あい友会  理事長