受験勉強に明け暮れていたころのスンジュン氏(写真左)

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今年も2026年度入学生の大学受験戦線が落ち着き、受験生に春が訪れた。文部科学省の速報によれば、地方国立大学の二次試験倍率は1.5倍を切るケースが続出。大学全入時代が叫ばれてから早数年。もはや「選べる側」は大学ではなく受験生になったと言えるかもしれない。だが、そんな日本の「マイルド化する大学受験」を、冷ややかな目で見つめる男がいる。
「日本の大学受験はよく“戦争”に例えられますが、韓国からすれば贅沢な悩みですよ。あちらは今、椅子が減るなかで針の穴を通し合う、文字通りの『デスゲーム』が進行しています」

そう語るのは、ソウル出身の起業家、スンジュン氏だ。彼は韓国の苛烈な学歴社会を勝ち抜き、来日後は京都大学総合人間学部へ進学。在学中にボディビルで日本一(スポーツモデル部門)に輝き、卒業後はリクルートへ入社。現在は独立し、オンライン韓国語スクールの代表を務めている。日韓の教育現場を知る彼が明かす、日本の100倍過酷な「韓国受験戦争の末路」とは--。

◆試験当日はもはや「国家行事」

--日本では一般入試の割合が減り、推薦や附属校での「早期合格」が主流ですが、韓国は今でも相当なものだと聞きます。

スンジュン:比べものになりません。毎年11月に行われる大学修学能力試験(スヌン)は、もはや国家行事です。当日は受験生の遅刻を防ぐために官公庁の始業時間が1時間遅らされ、英語のリスニング試験前後の35分間は、韓国全土で飛行機の離着陸が禁じられます。軍事演習すら中断され、遅刻しそうな受験生がいれば、白バイやパトカーがサイレンを鳴らして試験場まで送り届ける。これ、映画の話ではなく、毎年リアルに起きている光景なんです。

--パトカーで受験会場へ……。日本では考えられませんね。

スンジュン:それだけ「この一日に人生のすべてがかかっている」といったコンセンサスが社会にあるんです。受験証を持っていれば、映画館やレストランで割引が受けられる「受験生様」状態になりますが、それは裏を返せば、それまでの生活が禁欲状態であることを社会が認めているようなものです。

--スンジュンさんのいた高校でも、やはり過酷な生活だったのでしょうか?

スンジュン:朝7時に登校し、22時まで高校で「夜間自律学習」なる時間が設けられて半強制で勉強し、そこからさらに塾(ハゴン)へ。深夜2時に寝て翌朝また7時に起きる……こんな生活を3年間続けている高校生もいます。特に教育熱心な家庭が多い江南区などのエリアでは家庭教師を何人もつけることも珍しくありません。

◆家計を圧迫する「エデュプア」の衝撃

--そこまでして大学に行くのは、やはりその後の格差が激しいからですか?

スンジュン:その通りです。2023年の韓国の私教育費(塾や家庭教師代)の総額は約27兆1000億ウォン、日本円にして約3兆円で、過去最高額を記録しました。人気の講師が教える有名塾なら、たった1回の講義で10万円を請求されることもあります。

--親も相当な負担ですよね。

スンジュン:家計の大部分を子供の教育費に注ぎ込み、自分たちの老後資金を完全に食いつぶしてしまう親たちを、韓国では「エデュプア(教育貧困層)」と呼びます。自分の老後よりも、子供の「学歴スペック」。この強迫観念が、韓国の合計特殊出生率0.72という世界最低の少子化を引き起こしている最大の要因です。子供を一人育てるコストが「家一軒分」かかる計算です。

◆教育が凶器となった悲劇的な事件も

--そのプレッシャーが、悲劇的な事件も引き起こしているそうですね。

スンジュン:2011年に起きた「高3男子による母親殺害事件」は、韓国社会の闇を象徴していましたね。当時高校3年生だった少年は母親から「ソウル大学への進学」を強要され、成績が下がるとバットなどで200回以上殴られるといった凄惨な虐待を受けていました。命の危険を感じた少年は母親を刺殺し、その後、遺体を自室に放置したまま8ヶ月間も学校に通い続けたのです。被害があった家庭では、教育が「凶器」になっていたのです。