タイヤ開発に独自性を発揮 ダンロップのパブリックイメージ(後編)【サイトウサトシのタイヤノハナシ 第19回】
サーキットにはダンロップ・ブリッジが
前回は、ダンロップの歴史をサラッとなぞるつもりで書きだしたのですが、だいぶ硬くなってしまいました。控えめに言って『波乱万丈のタイヤメーカー』です。
ダンロップは英国からその歴史から始まるのですが、日本におけるダンロップ、とくにボクがタイヤに触れるようになった1980年頃には、すでに日本のダンロップであり、ブリヂストン、横浜ゴムとともに日本の3大タイヤメーカーの一角でした。

雨の日だけゴムが柔らかくなる新技術『アクティブトレッド』を搭載したシンクロウエザー。 斎藤聡
ポテンザ(ブリヂストン)、アドバン(ヨコハマ)、フォーミュラ(ダンロップ)というハイグリップラジアルが登場したのも1980年前後でした。
当時、ボクは仲間と一緒に、ホモロゲの切れた日産B110サニーをただ同然で引き取ってきて、筑波サーキットで走らせていました。その時に履いていたタイヤが、初めはダンロップのバイアスレーシングタイヤのG5。その後ラジアル・セミレーシングタイヤのフォーミュラRを手に入れ、そのあまりのグリップの違いに驚いたことを今でも覚えています。
そもそもサーキットに行くと、ダンロップ・ブリッジというでかいアーチ(ブリッジ)があり、鈴鹿や菅生、筑波などのサーキットにはそのブリッジのかかったダンロップコーナーもあって、ダンロップ=レースのイメージを強く刷り込まれていたのでした。
フォーミュラ時代の市販タイヤで印象深いのは、フォーミュラRSVというハイグリップスポーツタイヤです。ディレッツァZ1から始まる新時代のハイグリップ系スポーツタイヤの前身です。
フォーミュラW1は、市販スポーツタイヤで、富士フレッシュマンレース・ロードスターレースのコントロールタイヤでした。じつはこのタイヤ、ウエットが大の苦手でした。ボクも1シーズン出場していたのですが、雨降らないかなあって思ってました(結局予選で1回降っただけでした)。
フォーミュラのブランド名は2003年にディレッツァに変わります。
プレミアム・ハイパフォーマンスの分野でも
だからといってダンロップは、スポーツゴリゴリのタイヤメ―カーというわけではありませんでした。
1988年に登場したSPスポーツD40M2は、日独共同開発を謳ったウルトラハイパフォーマンスタイヤで、ポルシェに純正装着されていました。

1990年代半ばから、ダンロップはタイヤ開発に独自性を発揮していった。 斎藤聡
それから1989年に登場したパフォーマ8000は静粛性と運動性能を両立したプレミアム・ハイパフォーマンスタイヤで、こちらもポルシェ959やBMW M5の指定タイヤとなっていました。
これらのタイヤには、欧州の匂いみたいなものがあり、国内だけではなく欧州を視野に入った世界観を持っていました。
1990年代半ばあたりから、ダンロップ(≒住友ゴム)はタイヤ開発に、いよいよ独自性を発揮していきます。
例えば、デジタルローリング技術=通称デジタイヤは、1998年から展開が始まったコンピュータを駆使したシミュレーション技術です。
代表的なタイヤとしては、ルマンLM701があります。ちなみにLM703は、タイヤ内スポンジを採用した最初のタイヤになります。
このほかにも、ダンロップのエコタイヤシリーズ=エナセーブは、低転がりの省燃費性能を上げる一方で、石油外天然資源によるタイヤ製造にも取り組んでいて、2008年に石油外天然資源比率97%のエナセーブ97を発売。さらに2013年には100%を達成しエナセーブ100を発売します。
テストと経験と勘から、スーパーコンピュータ活用へ
これらの取り組みは、2011年の4D NANO DESIGN(フォーディー・ナノ・デザイン)へとつながり、さらにADVANCED 4D NANO DESIGN(アドバンスド・4Dナノデザイン:2015年〜)へ発展してゆきます。
4Dナノデザインは、スーパーコンピュータ(地球シミュレーター)を用いて、これまでテストと経験と勘で作られてきた材料配合を、シミュレーションして行うというものです。

宮城県仙台市にある次世代の放射光施設『ナノテラス』。2024年からはここで研究が進められている。 斎藤聡
このシミュレーションに大きな役割を果たしたのが、兵庫県にある巨大な放射光施設であるSPring-8(スプリング-8)です。ゴムの中にあるシリカの状態、走行中にシリカとゴムの結びつきがどうなっているかを観察可能にしたことで、転がり抵抗を低減しながら、耐摩耗性も高めることができるようになったのです。
具体的には、シリカとポリマーの結びつきを改良した末端変性ポリマーの開発がそれで、これを機にダンロップのエコタイヤは転がり抵抗とウエットグリップの両立が進みました。
分子の可視化は、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARC(ジェイパーク)によって、シリカだけでなくゴム分子そのものの動きが見えるようになりました。スーパーコンピュータも『京』にグレードアップしています。
2024年からは、宮城県仙台市にある次世代の放射光施設=ナノテラスを使い、スパコンも富岳を駆使してさらに踏み込んだ研究が進められているのです。
材料の見える化、研究の成果
材料の見える化の、一連の研究の成果のひとつが、雨の日だけゴムが柔らかくなるアクティブトレッドと、その技術を搭載したシンクロウエザーです。
夏、酷暑の中でもグニャつく感触を一切見せずにスイスイ走れ、冬季は雪道だけでなく凍結路面までも走れてしまいます。もちろんスタッドレスタイヤほどの氷雪性能はありませんが、非降雪機地域で使うなら、スタッドレスタイヤはいらない、と思えるくらいの高性能を持っています。

ダンロップが持つアクティブトレッド技術は発展・進化の途上にある。 篠原政明
アクティブトレッド技術は、さらに研究が進められており、温度によるタイヤの剛性変化、エコタイヤとスポーツタイヤの性能の両立など、多くの可能性を秘めています。それどころか、タイヤそのもののあり方まで変えてしまう可能性を秘めています。
その意味で、ダンロップが持つアクティブトレッド技術は発展・進化の途上にあるわけで、この先どんな風に進んでいくのか、ダンロップ(住友ゴム)の動向から目が離せません。
