超強気《537円カップ麺》が大ヒット…とんこつラーメン『一蘭』が売れまくる理由
2025年11月、中国政府が自国民に対し日本への渡航自粛を要請。しかし、中国人も多く来店していたように見えた人気とんこつラーメン店『一蘭』は、各店で相変わらずの行列を作っている。
店舗では、半個室のような空間でラーメンが食べられる味集中カウンターや、プレートを各席のボタンに置くことで替玉が注文できるシステムなど、独特な店づくりも特徴で、中央に唐辛子ベースの「赤い秘伝のたれ」がのったとんこつラーメンは、今や全国区だ。
前編記事『中国の「渡航自粛」の影響はゼロ…とんこつラーメン『一蘭』の行列が途絶えないワケ』では、その人気の秘密を深掘りしている。
本記事では、2021年に発売され好調な売上を記録しているカップ麺、そしてカップ麺にまで展開広げても崩れない、一蘭というブランドそのものを探ってみよう。
コロナ禍を救った大ヒットカップ麺
中国人観光客が減っても、店舗の売上に大きな影響はないという状況については前編記事の通り。しかし、日本ばかりでなく世界経済に大打撃を与えた新型コロナウイルスの流行期には、さすがの一蘭も年商を約35%落としていた。(2019年→2020年比)
そんな、コロナ禍真っ只中の2021年2月に発売されたのが、「一蘭 とんこつ」なるカップ麺だ。
消費者の行動が、外食から中食へと大きく変化していたこの時期に発売されたカップ麺は、店舗の売上減を補う意味合いで開発・発売されたのだろうか。
「実は、そうではないんです。ずいぶん前から、カップ麺の発売を希望される声は、お客様からも多く寄せられており、メーカーさんからの打診も多くいただいておりました。そのため、カップ麺向けの味の研究も20年近く進めていましたが、なかなか納得のいくものができませんでした。それが、あのタイミングでようやく『一蘭』として売り出せるものが完成したんです」(一蘭・緒方和正氏 以下「」も)
つまり、長年の研究の結実がコロナ禍にあたり、結果的に救いの一手になっていたわけだ。
「隠す」戦略が奏功したヒットの裏側
そんなカップ麺は、ネギやチャーシューなどの具材がまったく入っておらず、麺・スープ・秘伝のたれだけという極めてシンプルなもの。にもかかわらず、価格は税込537円(一蘭公式サイト価格)と、強気にも感じられる設定だ。
しかし、売上は発売から5年を経過した今でも好調を維持し続けている。
その要因について緒方氏は、「なにより、味あってこそだと思います」という。
「店舗でお出ししているラーメンのレシピの詳細をすべて知っているのは、社内に4人の職人しかいません。もちろん、カップ麺の開発にもその職人が携わり悩み続けたと聞いています。特に麺は、インスタントで満足のいく味・風味・食感を出すまでに一番の苦労があったようです」
具材なしでの販売には、これほどまでに心血を注いで研究を重ねた、麺・スープ・秘伝のたれの味をダイレクトに感じて欲しいという思いがあるようだ。
その甲斐あって、一蘭のカップ麺は発売から大きな評判を呼び、ヒット商品に。当時の中食ブームも追い風となったが、広報の戦略が世間をざわつかせて話題になったことも、ヒット要因のひとつであると緒方氏。
「発売前、テレビCMやSNSの広告で『カップ麺発売!』とは謳わずに『一蘭からアレが出ます!』と、具体的な情報を伏せた状態で広告を打ったのです。すると、多くのお客様が色々な予想をしてくださり、話題が広がりました」
予想としてあがっていたのは、餃子やチャーハン、唐揚げなどサイドメニューの発表というもの。また、汁なしラーメンや冷やし中華などの、新たな麺類メニューを予想する声も多かったという。いずれにしても、店舗で提供される新商品を予想する向きが大勢を占めていたようだ。
そのなかで、カップ麺の発売が発表されれば、いい意味での裏切りがファンを驚かせただろう。
こうして、カップ麺のヒットは生み出されていた。
チャーハンや餃子は売らない一蘭のこだわり
こうして、コロナ禍や中国人観光客の減少という飲食店にとっての大禍も乗り越えて来た一蘭。そのエネルギーの中心となる「変わらないもの」について、緒方氏は「メニューをとんこつラーメン1本に絞り込んでいる点は、昔も今も、そしてこの先も変わらないと思います」と語る。
実際、多くのラーメン店にあるチャーハンや餃子などのサイドメニューは、一蘭には存在しない。これによって、会社全体が1杯のラーメンだけに向けて、情熱と時間、知恵と労力を注ぐことができる。
「また、どんなに店舗が増えてもフランチャイズ化はせず、全て直営店だけ展開していくことは、これまでもこれからも変わりません。これまで守って来た当店の味を長く繋いでいくためにも、直営のみであることは必須だと思っています」
もちろん、「餃子の王将」や「来来亭」のように、フランチャイズで展開することで店ごとの個性が出るメリットもある。しかし、一蘭はメニューもラーメンのみに限定していることと同様に、多面性を削りラーメンのみに向き合う姿勢は徹底している。
変わらないために変わり続ける
一方で、緒方氏に「変わり続けているもの」を聞いてみると、「マニュアルです」と意外な回答があった。90以上の店舗で、安定的に同じ味を提供するにはマニュアルはできる限りきっちりと決めた方が、うまく行くように思えるが。
「味の研究を日々つづけており、食材や製法が変われば、店舗のマニュアルも変える必要があります。その度に、全店の従業員への落とし込みをするのは大変なのですが、欠かせないことですね」
この考え方は、分子生物学者の福岡伸一氏が提言し有名になった「動的平衡」のようだ。全体の完成度を変化なく維持し続けるために、ミクロの部分で変わり続けている。
メニューを絞り、味を守るために変化を止めない。一蘭は、一見すると矛盾するようなその両立によって、ブランドの強度を保ってきた。
カップ麺に展開を広げても、その姿勢は変わらない。だからこそ、この一杯は場所や形を変えても一蘭であり続けるのだろう。
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