いやだ、信じたくない!…遺産1億円・90歳で亡くなった母の葬儀後、実家に響いた叫び声。兄嫁を「家政婦さん」と揶揄していた49歳“末っ子長女”の末路【CFPの助言】
民法では、故人(被相続人)の財産を相続する権利を持つ人を「法定相続人」と定めています。配偶者は常に相続人となり、そこから子、親、兄弟と優先順位がついていく仕組みです。実子は配偶者の次に優先されるため、当然遺産を相続する権利を有していますが、場合によっては“相続できる額が激減するケース”が発生するようで……。事例をもとに、相続トラブルの対策をみていきましょう。
甘やかされて育った“わがまま末っ子長女”ケイコさん
ケイコさん(仮名・49歳)の実家は、群馬で先祖代々続く米農家です。また、賃貸アパートと駐車場も経営しており、その資産額は約1億円にのぼります。ケイコさんは49年前、この家に待望の女の子として生を受けました。
上には兄が2人おり、現在は長男のコウイチさん(仮名・56歳)が家業を継いでいます。次男のショウジさん(仮名・54歳)は大学進学と同時に上京し、一般企業に就職。そのまま都内で暮らしています。
ケイコさんは両親から「蝶よ花よ」と甘やかされて育てられ、欲しいものは親に頼めばなんでも買ってもらえました。大きな挫折や苦労を経験することなく女子大を出て就職したケイコさんは、24歳のときに結婚。「なにかあったときにすぐ助けてもらえるように」と、結婚後も実家から車で20分ほどの場所に暮らしています。
かたや実家では、長男コウイチさん夫婦が両親と同居しています。コウイチさんの妻・カオルさん(仮名・52歳)は気の利く優しい人で、家のことは義母と協力してこなし、空いた時間に家業も手伝う働き者です。
昨年のこと。母のチエさんが農作業中に転倒してから急激に体力が衰え、ベッドへ寝たきりの日が多くなりました。そんなチエさんを献身的に支えたのも、長男の嫁・カオルさんでした。
ケイコさんはというと、「怪我をした」という一報を受けても見舞いにも来ません。ようやく1週間後に姿を見せたものの「私も疲れてるの」と言ったきり、家事や介護で忙しなく動き回るカオルさんを横目に見るだけでなにも手伝おうとしません。実家でくつろぎ、カオルさんの作った夕食だけは平然と平らげます。
「介護はお義姉さんの担当でしょう? 私は、お母さんの話し相手になるために来てあげているの」と、ケイコさんには悪びれる様子もありません。
あげくの果てには、カオルさんに聞こえないよう、笑いながらこうつぶやいたそうです。
「義姉さんがいてよかったわ、体のいい家政婦さんね」
その場にいた長男と母の反応
この言葉を聞いた長男コウイチさんと母チエさんはひどくショックを受け、「なんてこと言うんだ」とケイコさんを説教。
するとケイコさんは、「なによ、私が悪いっていうの!? 冗談じゃない!」と逆上し、それ以来、母の様子を見に来ることはありませんでした。
娘の態度に辟易したチエさんは、長男のコウイチさんに相続について相談。「ケイコには1円も遺したくない」と告げたのです。
金に執着する性格のケイコさんは、15年前に父が他界したときも、ケイコさんは自分にも遺産を分けろと主張。しかし、そのときはコウイチさんの説得により、いったん母であるチエさん(仮名)が配偶者の税額の軽減(※)や小規模宅地等の特例を使ってすべて相続しました。ケイコさんは、「いずれ母が亡くなれば自分にも遺産が入る」と考えたため、当時は渋々納得したそうです。
(※)法定相続分相当額、または1億6,000万円までの多い金額
「甘やかしすぎた私たちも悪いけれど、あの子には自分を省みてもらわないといけない……」
“争いのタネ”を小さくする「生前対策」
チエさんが亡くなった場合、相続人は長男コウイチさん、次男ショウジさん、長女ケイコさんの3人です。
遺言書などがないまま相続が発生し、遺産分割協議がまとまらなければ、各人の取り分は法定相続分である3分の1ずつとなります。当然、ケイコさんも自分の取り分を主張してくるでしょう。
今回のようにチエさんが「ケイコさんには遺産を渡したくない」と考えているのであれば、遺言書を作成しておくと安心です。
ただし、仮に「ケイコさんにはいっさい遺産を渡さない」と記したとしても、ケイコさんには遺留分を請求する権利があります。そのため、「1円も渡さない」というのは現実的には難しいでしょう。
また、遺産の内訳が現金より不動産の割合が大きい場合、「相続税」を支払うための現金をどう確保するかも重要な課題です。「土地は相続したものの、相続税を払えずに結局売却した」というような話を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。
遺留分を請求されたものの現金がなく不動産しかない場合や、土地を相続したものの相続税が払えないといった心配がある場合には、「生命保険」の活用も有効な手段です。生命保険金は受取人固有の財産となり、受取人が自由に使うことができるため、遺留分の支払いや相続税の納税資金として利用できます。
さらに、受取人が法定相続人であれば、相続税を算出する際に生命保険の非課税枠(500万円×相続人の数)も適用されるためおすすめです。
実家の居間に響く長女の悲鳴
母のチエさんはその後、コウイチさんと相談のうえ「遺言書」を作成。それから1年後、コウイチさん家族に見守られながら、90歳で静かに息を引き取りました。
――そして、チエさんの葬儀から数日後。遺産分割協議のために兄弟3人が実家に集まります。
意気揚々と現れたケイコさんですが、母の遺言書を確認すると態度が豹変。そこには、ケイコさんに渡す財産についての記載がいっさいなかったのです。
さらに、ケイコさんの逆鱗に触れたのが、遺言書に記載されていた「(遺贈)長男の妻 〇〇カオルに対し、金〇〇万円を遺贈します」という一文でした。
「なによ、これ……いやだ、信じたくない! 実の娘より兄嫁を優先するなんて、ありえない!」「兄さんがお母さんを騙したんでしょう? カオルさんと一緒になって、卑怯者!」
実家の居間に、ケイコさんの悲鳴が響き渡ります。
コウイチさんが「おまえのこれまでの振る舞いの結果だろう。自業自得だよ」とたしなめるも埒が明きません。結局、ケイコさんには遺産から一定の現金を渡すことで決着がついたそうです。
また、母の意向で遺産のほとんどは長男のコウイチさんが引き継ぐこととなったものの、税理士に相続税の相談をしたところ、相続税の支払いが生じることが判明。相続税の支払いのために、一部の土地を売却したといいます。
いま思えば、一次相続の段階から対策しておけば相続税負担は最小限にとどめられたかもしれませんが、過ぎてしまったことはどうにもなりません。
コウイチさんは「子どもたちに苦労をかけないよう、自分は相続対策を万全にしておきたい」と話してくれました。
安易な一次相続は子どもに“予想外の負担”を強いる可能性も
相続税は、相続財産が非課税枠を超えたときに、その超えた部分に対して課税されます。
そのため、一次相続の際に対策を怠ると、二次相続で相続税の負担が重くなるケースがあります。非課税枠を超える資産がある場合は、一次相続の段階から二次相続を見据えた対策をしておくといいでしょう。
山粼 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表
