●父と絶縁、母を安心されるために…
女優の多部未華子が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)のナレーション収録に臨んだ。担当したのは、9日・16日の2週にわたり放送される「12浪の早大生 38歳の就活〜僕に内定をください〜」。12浪の末に早稲田大学教育学部に合格し、38歳にしてなお在学中の石黒さんが、自分の人生と向き合い、就職活動を始めようと奮闘する“挑戦の物語”だ。

多部が印象的だったと語るのは、石黒さんの“諦めない強さ”。「どれだけ時間がかかっても、諦めなければ必ず誰かが手を差し伸べてくれる」と、思わされたという――。

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した多部未華子

○大学生活9年目にして就活スタート

学生証に記された「1985年生まれ、2016年入学」の文字。石黒さんは、12年の浪人生活を経て30歳で早稲田大学の門をくぐった異色の経歴の持ち主だ。しかし、入学後も留年と休学を重ね卒業は遠のいていった。そして、大学生活9年目にしてようやく迎える卒業。40歳目前、“新卒”のカードを手に、大学生として最後となる就職活動が始まった。

12浪のきっかけは父の何げない一言だった。中堅私立大学に合格したものの「1浪したのにそんな大学止まりか」と言われ、20歳になる石黒さんは悔しさのあまり進学したもののすぐに通うのをやめ、再び浪人を決意する。以来、ひたすら早稲田だけを受験して12浪。その選択は家族関係にも影を落とし、父とは絶縁。母だけが寄り添い見守ってくれた。

「早く母を安心させたい」その一心で挑んだ就職活動だったが、待っていたのは厳しい現実。エントリーシートの年齢欄に彼が選べる数字はなく、書類選考すら通らない。不安ばかりが募り、心は折れていく。

そんな中で出会ったのは、彼が所属する大学のサークルOBで、就活を知り尽くした“大先輩”。的確なアドバイスを受け、12浪という過去に向き合いながら、少しずつ自分を見つめ直していく。まさにゼロからの闘いが始まったのだが…。

38歳の就活生・石黒さん (C)フジテレビ

○過去に出会ったことがないタイプすぎて…

石黒さんの印象について、「過去に出会ったことがないタイプすぎて、なかなかユニークな人だなと思いましたけど…」と前置きしながらも、「磯野さんと出会えて本当によかったですよね」と、女子大でキャリア支援アドバイザーを担う磯野さんに着目した多部。38歳でなお学生として在籍する石黒さんの姿に、正直戸惑いを覚えたという。

「たしかに、大学生活って社会に出るまでの猶予期間といった位置づけではありますけど、私自身まったく悩むタイプじゃないですし、周りにもさすがにここまで悩んでいる人はいなかったので、石黒さんがこれまで毎日どうやって過ごしていたのかと考えると、本当に不思議でした」

番組の熱心な視聴者でもある多部は「我が道を貫きすぎるがあまり、『本当にそれで大丈夫…?』と、見ていて心配になる人は過去にもたくさんいましたが、石黒さんのように“自分がやりたいことが分からない”という人のほうが実は苦しいのかもしれない。でもきっと大事なのは、何事もすんなりいかない不器用さもひっくるめて、それを面白がってくれるような人たちと出会えるかどうか」だと、新たな気づきもあった。

●主役以外はやりたくない――挑戦し続けた共通点
そんな多部にもデビュー前、ミュージカル『アニー』に出演したくて挑戦し続けた経験がある。

「3年間オーディションを受け続けました。中学1年が最後のチャンスでしたね」というが、“主役のアニー以外はやりたくない”というこだわりやプライドは、今改めて振り返っても強い感情だった。

「年齢制限があったので、あきらめざるを得なかったんですが、そういう意味では、早稲田を12浪しても諦めなかった石黒さんと少し似ているかもしれません(笑)」

そして改めて、石黒さんについて、「理想が高く、現実とのギャップに気付けていない部分もあるけれど、真面目」と捉え、「磯野さんのように、真正面から導いてくれる存在に出会えたことは大きいと思います。たとえどれだけ長い時間がかかっても、諦めさえしなければ、自分の良さを理解して救ってくれる人と、必ず出会うことができる…。そう思わせてくれる物語でした」と感想を語った。

就職活動に勤しむ石黒さん (C)フジテレビ

○新たに挑戦したいことは「常にたくさんあります」

番組内で石黒さんは、「もう38歳だから」「39歳になってしまったので…」と、自身の年齢をしきりに口にしているが、石黒さんほど特殊なケースでなくとも、正規雇用において新卒であるかどうかが大きく影響する状況は、今も昔も変わらない。だが、多部は「年齢や肩書きに縛られない生き方こそ、多様な可能性を秘めている」と語る。

「芸能界でもアイドルを目指すんだったら10代までとかいろいろあると思うんです。でも、私自身はあまり年齢にはとらわれてないですね。もちろん何を目標にしているかによっても変わってきますが、俳優だって40代ぐらいで売れる人もいれば、逆にスパッと辞める人もいる。本気でやりたいことさえ見つかれば、たとえ何歳であっても、遅すぎることはない。とはいえ、趣味でも何でもいいからまい進できる何かがないと、ただやみくもに待っているだけではさすがに厳しいだろうな…とは思いますけどね」

多部には、これから新たに挑戦したいことがあるのだろうか。

「まだまだフワっとではありますが、小さいことから大きなことまで、やりたいことは常にたくさんあります。でも、自分ひとりの力では実現できないですし、それこそ“継続力”が大事になりますよね。中途半端な気持ちで始めても意味がないと思うので。『私はこういうことがやりたいです』と宣言する覚悟があるかと言われたら、今はまだ目の前のやるべきことでいっぱいいっぱいなんですが、いつか声を大にして自分のやりたいことを口にすれば、磯野さんのように導いてくれる人と出会える気がしています。芸能とは全く違うことを本名でやってみたい気持ちもあるんです」

そう語る多部は、“自分のため”から“誰かのため”へと意識が変わりつつあるという。

「別に、今と違う道を歩みたいというわけではないですが、それこそ私は10代の頃から自分のやりたいことをずっとやってきたので、これから先、人のために何かできることはないのかな…と。それがビジネスなのか、ボランティアなのかは別として、誰かの役に立ちたいなという思いが、ようやく30代後半にして私の中に沸々と湧き上がってきたんです。そういったことを、最近家族や身近な人とはよく話しています」

●多部未華子1989年生まれ、東京都出身。02年に女優デビュー。05年、映画『HINOKIO』と『青空のゆくえ』で第48回ブルーリボン賞新人賞を受賞。09年には連続テレビ小説『つばさ』のヒロインに抜てきされる。主な出演作として、映画『あやしい彼女』『流浪の月』、ドラマ『私の家政夫ナギサさん』『マイファミリー』『いちばんすきな花』『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』など。待機作品には『連続ドラマW シャドウワーク』、2026年度前期 連続テレビ小説『風、薫る』がある。

渡邊玲子 映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍する俳優・映画監督・クリエイターのインタビュー記事やレビュー、コラムを中心に、WEB、雑誌、劇場パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。 この著者の記事一覧はこちら