寒暖差が激しい秋。疲れが抜けず、心身の不調を感じる人が増える。健康を保つためにはどんなことに注意をすればいいのか。順天堂大学の齋田瑞恵准教授は「寒暖差による影響を軽視してはいけない。秋の不調対策には、夏に不足しがちだった栄養素を補うことが大切だ」という――。(取材・文=医療・健康コミュニケーター 高橋誠)
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■秋の不調の正体は「鉄不足」

秋になると、総合診療科の外来には「なんとなくだるい」「頭が重い」「ぼーっとする」といった不調を訴える人が増えます。多くの人は自律神経の乱れや夏の疲れのせいだと思いがちですが、その裏に隠れているのが「鉄不足」です。

なぜ秋に鉄が足りなくなるのか。実は、夏の生活習慣が鉄不足の“下地”をつくっているのです。酷暑のあいだ、冷たい飲み物や麺類、果物など“あっさりしたもの”ばかりを食べていると、鉄を含む肉や魚、豆製品の摂取量が自然と減ります。

さらに汗とともにミネラルが失われ、食欲や消化機能の低下も重なって、体内の鉄貯蔵量がじわじわと減っていきます。そのまま秋を迎えると、昼夜の寒暖差で自律神経が乱れ、酸素を運ぶ力まで低下し、いわゆる「秋バテ」として表面化してくるのです。

総合診療医の齋田瑞恵さん(写真=本人提供)

鉄は、体の中で酸素を運ぶ“運び屋”です。赤血球のヘモグロビンに含まれる鉄が酸素をつかまえ、全身に酸素を届けます。ところが鉄が足りなくなると酸素を十分に運べなくなり、細胞は“酸欠状態”に陥ります。

脳が酸欠になれば集中力が続かず、頭がぼんやりします。筋肉が酸欠になれば疲労感が強まり、「休んでも疲れが抜けない」と感じやすくなります。患者さんの中には「いくら寝ても眠い」と訴える方が少なくありません。

全身に酸素が行き渡る、活き活きとした毎日を送るためには、十分な鉄分の摂取が必須です。これは日々、診療を行う中で強く感じており、もっともっと皆さんに知っていただきたい事実です。

■“鉄の王様”レバー

鉄分を効率よく補う食材といえば、やはりレバー。豚・鶏・牛のいずれにも含まれていますが、最も鉄分豊富なのは豚レバー。レバーには、ビタミンA、B群、葉酸といった栄養素もあるので、血液をつくるだけでなく、代謝や免疫力の底上げにも役立ちます。まさに“鉄の王様”と呼ぶにふさわしい存在です。

写真=iStock.com/okimo
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第2回「秋のメンタル不調」でも触れたように、カツオやマグロなどの赤身魚にも鉄が含まれています。レバーが苦手な方には、こちらがおすすめです。

鉄には大きく分けて2種類あります。肉や魚に多いのが「ヘム鉄」で、吸収率は15〜25%と高め。一方、野菜や豆類に含まれる「非ヘム鉄」の吸収率は2〜5%ほど。圧倒的に動物性が高い。つまり、「鉄分を摂ろう」と食材を選んだつもりでも、動物性か植物性かによって体に入る量は何倍も違ってくるのです。

豚レバーは「クセがあるし、調理が面倒」と敬遠されがちかもしれませんが、なんといっても、少量でも効果が大きい、鉄のキング・オブ・キングス。週に1回、100g前後を食べるだけでも、鉄不足改善にしっかり貢献します。スーパーのお惣菜やレバーペーストでも、手軽に取り入れることができます。続けやすい形で“鉄の王様”を味方にしましょう。

■鉄は「食べ合わせ」で吸収が変わる

鉄不足を解消するには「とにかく鉄をたくさん取ればいい」と考える方も多いのですが、実は“摂り方”次第で吸収率が大きく変わります。鉄は単品で摂るより、ビタミンCを含む食材と組み合わせることで吸収率が一段とアップします。毎日の食卓で、ビタミンCと一緒に摂ることを心がければ、無理なく吸収効率を高めることができます。

管理栄養士・関口絢子さんの新刊『食が細くなってきたら! 少食でもちゃんと栄養がとれる食べ方』(アスコム)でも「吸収力を最大化する」工夫として、「非ヘム鉄×ビタミンC……ほうれん草のおひたしにレモン汁をかける、切り干し大根の煮物にトマトを添える」という食べ合わせが紹介されています。

これは、レバーやカツオに含まれる「ヘム鉄」の場合にも当てはまります。レモンを絞る、赤ピーマンを添える――そんな小さな工夫が重要です。「レバー+α」で、鉄分の吸収力を最大化し、心と体のエネルギーを底上げしましょう。まずはおいしいスタミナ補給「豚レバー+レモン」を試してみてください。ただし、良かれと思って「豚レバー+レモンサワー」の場合は、飲み過ぎにはくれぐれもご注意を。

さらに、食事のお供の飲み物にも注意してください。コーヒーや紅茶、緑茶に含まれるタンニンは、食後すぐに飲むと鉄の吸収を妨げることがあります。食事から少し時間をあけて楽しむのが賢明です。

■「サプリメントだけに頼らないで」

「鉄を効率よく補うには、食事とサプリメント、どちらがいいですか?」と患者さんからよく尋ねられます。

正直に言えば、“どちらとも言い切れません”。サプリメントの品質や体との相性によって、吸収のされ方は大きく異なります。鉄分サプリには硫酸鉄やヘム鉄、酵母鉄などさまざまなタイプがあり、それぞれ吸収率や胃への負担が違います。

胃酸の分泌が少ない方や消化機能が弱っている方は、鉄が十分に吸収されないこともあります。「飲んでいるのに効かない」と感じる場合は、こうした吸収の個人差が原因かもしれません。

ただ、忙しくて食事で補うのが難しい方にとって、サプリメントは一定の助けになります。100%の効果はなくても、取らないよりは良いとは思います。

写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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一方で、私が基本的におすすめしているのは「食事からの鉄」。その理由は、食材には鉄以外にも、からだに必要な栄養素が一緒に含まれているからです。これらの栄養素が互いに助け合うことで、鉄が効率よく働くのです。

さらに、食事からは味だけでなく、彩りや香りで心理的な満足も得られます。五感をフル稼働させます。特に旬の食材はなおさら。急がば回れ――で、遠回りなようで、一番、心身ともに健康が整う近道だと思います。

大切なのは、鉄を“単独の栄養素”として考えないことです。体はひとつの栄養だけで動いているわけではなく、さまざまなミネラルやビタミンが連携して働いています。だからこそ、バランスのとれた食事をベースにしながら、必要に応じて助っ人としてサプリで補うという、使い分けのスタンスが理想です。

■男性も油断できない「隠れ鉄不足」

鉄不足というと「女性特有の問題」「男には関係ない」と思われがちです。確かに月経のある女性は鉄を失いやすく、貧血のリスクが高いことは事実です。けれど実際の外来で診ていると、見た目は屈強な中高年男性でも“隠れ鉄不足”の方が少なくありません。血液を調べると、“貧血”と診断されないレベルでも、フェリチン(貯蔵鉄)が減っていることがあるのです。

先日、ある50代の男性の患者さんが、体重は増えているのに疲労感が強いと訴えていました。食生活を訪ねると、毎晩ビール冷やし中華が定番とのことでした。おそらく鉄不足が背景にあると考え、食事内容を見直すよう生活指導をしました。

特にこの夏は記録的な猛暑でした。そうすると、どうしても冷たい飲み物や麺類中心の食生活になってしまいがちです。しかし、あっさりしたものには、鉄分がほとんど含まれていないことが多い。そのため、こうしたものばかりを好んで口にする暑い季節は鉄不足に陥りがちです。

そのまま秋を迎えると、鉄不足による体内の酸素運搬力の低下に加え、昼夜の気温差で自律神経が乱れるので、だるさや頭重感が一気に表面化してくるのです。「秋バテ=鉄不足」――。この視点を持つことで、原因がはっきり見えてきます。秋バテの解消には、鉄分を意識して補うことが不可欠です。

■鉄不足はメンタル不調にも

鉄は脳の働きにも欠かせない栄養素です。神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンを合成する過程に鉄が必要で、これが不足すると「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが十分に作られず、気分の落ち込みや不安感につながります。

実際に、秋から冬にかけては日照不足による“季節性うつ”が増えます。鉄が不足した状態ではその影響がさらに強まります。

つまり、鉄不足は単なる「体の疲れ」だけでなく、「心の疲れ」としても現れます。気持ちの問題に見えても、その裏には鉄不足による“酸素不足”と“セロトニン不足”という生理的な原因が隠れていることがあります。鉄を補うことは、秋のメンタル不調を防ぐうえでも重要なカギになります。

■秋の不調は「体からの黄信号」

秋バテは、単なる「季節の疲れ」ではなく、体からのメッセージ。「秋バテ=黄信号」です。ここで食生活を立て直せるかどうかが、その後の健康の分岐点。赤信号に変わらないように、体の声に耳を傾け、鉄を意識して補うこと。それが冬以降も元気に過ごすための最短ルートです。

この秋、わが国で初の女性首相が誕生しました。高市早苗首相が尊敬している人物は、英国のマーガレット・サッチャー。“鉄の女”を象徴するような新しいリーダーにあやかって、私たちも鉄を味方につけましょう。

健康維持の鉄板は、「鉄不足解消」です。ぜひ鉄を意識して、毎日の食事に取り入れてみてください。

元気でいるためには、毎日の食事を少しずつ整えること。一口一口の積み重ねが、あなたの健康寿命を支えます。無理と思わず、できることから続けていきましょう。私のマニフェスト「幸せなおじいちゃん、おばあちゃんになろう」が、皆さんの日常の中で実現していくことを願っています。

写真=iStock.com/Kar-Tr
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齋田 瑞恵(さいた・みずえ)
順天堂大学医学部准教授
順天堂大学医学部(東京都文京区)総合診療科学講座准教授。順天堂医院総合診療科医局長。公益財団法人 星 総合病院(福島県郡山市)総合診療科。総合診療専門医、日本総合健診医学会・日本人間ドック学会人間ドック健診専門医、日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア指導医、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医、日本東洋医学会会員、日本母性内科学会会員、日本病院総合診療医学会評議員、日本抗加齢医学会評議員。1男2女の子育てとイタリア在住経験を活かした女医ならではの総合診療に定評。外来は予約制。西洋と東洋医学の融合したコロナ後遺症外来、予防接種の啓発、生活習慣改善などを通じ「幸せなおじいちゃん、おばあちゃんになろう」をスローガンとする。総合診療専門医の育成にも注力。テレビ東京「主治医が見つかる診療所」、ビジネス誌『プレジデント』、『ウエッジ』などメディアでも活躍中。
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高橋 誠(たかはし・まこと)
医療・健康コミュニケーター 病院広報コンサルタント
1963年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。ミズノスポーツ広報宣伝部、リクルート宣伝企画部、米国西海岸最大の製函会社でのパッケージ・デザイン営業・マーケティング(LA12年)、ゴルフ場経営(山梨2年)、学校法人慈恵大学広報推進室長(東京16年)を経て、2020年より現職。日米複数法人通算40年の広報宣伝業務を通じ、メディア・医療関係者と幅広い交流網を構築。現職にてメディアと医師をつなぐ。プレジデントオンライン「ドクターに聞く“健康長寿の秘訣”」、月刊美楽「幸せなおじいちゃん、おばあちゃんになろう」、月刊源喜通信「食と健康」で医療・健康コラムを連載中。主な出版プロデュースは『世界一の心臓血管外科医が教える 善玉血液のつくり方』(2025年、渡邊剛著、坂本昌也監修、あさ出版)、『心を安定させる方法』(2024年、渡邊剛著、アスコム)、『人は背中から老いていく 丸まった背中の改善が、「動ける体」のはじまり』(2025年、野尻英俊著、岡田あやこ体操監修)。趣味ゴルフ、ワイン(日本ソムリエ協会ワインエキスパート#58)。
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(順天堂大学医学部准教授 齋田 瑞恵、医療・健康コミュニケーター 病院広報コンサルタント 高橋 誠 取材・文=医療・健康コミュニケーター 高橋誠)