夫のキスが気持ち悪い…!結婚生活に幸せを見失った妻の苦悩
結婚3年目の夫婦に、待望の第一子が誕生。
これから始まる幸せな生活に心を躍らせたのも束の間―。
ささいなことから2人の愛情にひびが入り始める。
すれ違いが続き、急速に冷え込んでいく夫婦仲。
結婚生活最大の危機を、2人は乗り越えられるのか?
◆これまでのあらすじ
待望の第一子が誕生し、幸せいっぱいの昌也と彩佳。無事に退院し、自宅で過ごす初めての休日、昌也の無神経な行動に彩佳は不満を爆発させる。しかし話し合いをせぬまま翌日を迎え…。

― ひどい顔…。
ドレッサーの鏡に映る自分の顔に、彩佳はショックを受けた。
肌はかなり荒れて、ガサガサ。髪もパサついていて潤いがない。手入れされてないのが丸わかりだ。
スキンケアもろくにできない毎日。仕方ないとはいえ、想像以上にやつれた顔をしている。
目の下にくっきりとできたクマを消すべく、コンシーラーを叩き込む。
今日はこれから、昌也の両親がやってくる。
まさかノーメイクというわけにはいかない。ひどくノリの悪い肌に化粧を施していると、昌也が近づいてきた。
「疲れてるところごめんな。親父たちも、早く結衣に会いたいみたいで。長居させないようにするから」
「うん、大丈夫。お義父さん、お義母さんの気持ちもわかるし」
力なく答えた彩佳を、昌也は「ありがとう」と呟き、後ろからぎゅっと抱きしめた。
そしてそのまま彩佳の頬に触れ、顎をクイッと持ちあげてキスをする。これまでと変わらぬスキンシップ。
だが、その瞬間。
― やめて。
彩佳の体は、夫への拒否反応を示した。
軽いキスだったこともあり、幸い昌也にはバレていないようだが、なんとも言えぬ不快感だけが残った。
義両親が初孫に会いにやってくると、張り切った昌也が暴走し始め…
暴走する夫
「ごめんください」
上品な声が静かに響き、義父と義母が昌也とともにリビングに入ってきた。
義父の手には、『空也』の最中と、水色のファミリアの紙袋、鮮やかなオレンジ色のエルメスの紙袋が携えられている。
義両親は、初孫の誕生をとても喜んでおり、“孫バブル”が到来中だ。
結衣が生まれる前にもたくさんプレゼントをもらったが、また色々買ってきてくれたようだ。
「彩佳さん、おつかれさま。かわいい赤ちゃんを産んでくれて、本当にありがとう。これ、彩佳さんと結衣ちゃんに。ママ業、大変でしょう」
オレンジ色の紙袋は、どうやら自分用らしい。義母にねぎらわれた彩佳は、胸がジーンと熱くなる。
続けて隣にいた義父が、『空也』の最中を差し出した。
「産後の体に、あずきは良いと聞いてね。彩佳さん、結衣ちゃんの分まで食べてくださいな」
「ありがとうござい…」
「フェーン」
言葉の途中で、寝室で寝ていた結衣の泣き声が聞こえた。
「すぐに連れてきますね」
彩佳が寝室に向かって歩き出すと、昌也が「そろそろミルクじゃない?」と、お湯を沸かし始めた。
― 急に何?できる夫みたいなことして。
ついイラッとしてしまったが、義両親の手前、夫を悪く言うわけにはいかない。
「ありがとう、助かる。よろしくね」
彩佳も、いかにも良い妻風の反応で、微笑み返した。

「昌也、すごいなあ。ミルクも作れるし、オムツも替えられるのか!」
哺乳瓶で結衣にミルクをあげる昌也の姿に、義父が感嘆の声をあげた。その横で、義母も目を丸くしながら嬉しそうに反応する。
「てっきり彩佳さんに任せきりかと思っていたわ。ちゃんとパパやっててすごいじゃない!」
「平日はなかなかできないから、休日くらいはね。彩佳には、ゆっくり休んでもらいたいし。パパ、頑張ってますよぉっと」
褒められて気をよくした昌也は、「当然だろ?」と言わんばかりの表情で言ってのけた。
彩佳は笑顔を貼りつけたまま、内心毒づく。
― ミルクもオムツも、昨日教えたばかりでしょ。まだ1回しかやったことないじゃない!
だが、昌也の暴走は止まらない。
「仕事漬けだった父さんとは違うんだから。仕事もパパ業もこなすのが、現代の父親だよ」
得意げな顔で語る昌也を、彩佳は白けた気分で見つめる。
だが、義父も義母も、「昌也ったら」と笑いながら楽しそうにしているので、まさか空気を壊すわけにはいかない。
「と、とても助かってます…」
喉まで出かかった不満をグッと飲み込んで、彩佳は無理矢理話を合わせる。
― この前ネットで見た、ANAYIのワンピースかわいかったな。買っちゃおうかな。
心ここにあらず。全く関係のないことを考えて、その場をやり過ごす。だが、落ち着かない、苦痛な時間の進みの、なんと遅いことか。
彩佳は周りの目を盗んで、何度も時計を確認した。
ようやく1時間が経過した時。義母が、「そういえば」と、バッグからスマホを取り出した。
義両親と夫のペースについていけず疎外感を感じる彩佳。彼らはさらに…
恵まれた生活
「お宮参りの産着だけど、こういうのはどうかしら」
スマホの画面には、艶やかな着物が映っている。
真っ赤な着物は、金糸で縁取られた手まり、桜や牡丹の花が豪華にあしらわれたデザイン。一目で高級なものとわかった。
「え…」
驚いた彩佳は、一瞬言葉を失う。
昌也とは何も話し合っていなかったが、産着は何となく彩佳の両親が準備するものだと思っていたからだ。
だが義母は、彩佳の複雑な胸の内などお構いなしに続けた。
「仲の良い呉服屋さんにお願いしようと思ってるの。もう話はしてあるから。七五三の時に仕立て直せるし、どうかしら」
スマホを覗きこんだ昌也が、「かわいいじゃん!」と、興奮気味に賛成する。
「じゃあ、これにしましょう。それから、お宮参りの時に着る着物はあるかしら?」
そんな話から、義母の持っている訪問着を貸してもらえることになった。
「会食は、『つきじ治作』をとろうと思っていて。ああ、今から楽しみだわ」
こちらが何かを発さなくとも、どんどん段取られていく。
義両親の人脈の恩恵にあずかって、結衣のお宮参りはかなり豪華なものになりそうだった。
「じゃあ、私たちはそろそろ失礼するわ。かわいい結衣ちゃんに会えて本当に幸せよ。これ、少しだけどお祝い」
そう言って義両親は、立派なのし袋を置いて帰っていった。

「疲れたよな。今日はありがとう」
ひとりテーブルを片づけていると、昌也が彩佳の背中をトントンとなでた。
「あんなにお祝いいただいちゃって…」
少しとは言葉ばかりで、実際にはかなりの大金が包まれていた。出産前のプレゼントを含めると、総額いくらになるのだろう。
頭の中で計算し始めたが、マルの数が多くてすぐに諦めた。
結婚した時にもかなりサポートしてもらったが、結衣の誕生はその比ではない気がする。
「親父たちも嬉しいんだよ。そうそう、この前もさ、結衣のためにもっと広いマンションに引っ越したらどうかって言ってたよ。今度探しに行こうって」
「う、うん…」
無理矢理笑顔を作って応じるが、どうしてだろう。今日は、素直に喜べない自分がいた。
彩佳は、それを悟られないように、「結衣をみてくる」と、その場を離れた。
◆
― 私、すごく恵まれてるはずだよね。
結衣を寝かしつける隣で、彩佳は今日の出来事を思い出しながら自分に言い聞かせた。
義実家や夫のサポートで、結衣には何不自由ない生活をさせてやれる。そして彩佳自身も、育児や家庭に専念できる環境があるのだ。
これ以上何を望むというのだろう。
― でも、私はこういう生活がしたくて、昌也を選んだんじゃない。
確かに昌也と結婚したのには、悠々自適な専業主婦生活が送れるだろうという打算もあった。事実、結衣が生まれるまではその身分に甘んじてきた。
それなのに。出産後、この生活に幸せを感じることが極端に少なくなった。
なんだかずっと、イライラ、モヤモヤしている。今日なんて、夫への嫌悪感を抱いてしまったほどだ。
― きっと疲れてるのよ。
そう言い聞かせるが、ふとした瞬間に涙は溢れてくるし、幸せどころか、辛いと感じてしまう。
彩佳は、このモヤモヤの正体が何なのか、よくわからなかった。
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実は彩佳の異変に気づいていた昌也。良かれと思って彩佳にあることを提案するが…?

