大ヒットを続けるNintendo Switchのゲーム『Minecraft』の人気はなぜ生まれたのか。ライターの河上拓氏が、その盛り上がりと今後の展開について解説する(全2回の1回目/#2へ)。

【写真】ブロックを組み上げて、巨大な建物や街を造る『マインクラフト


『Minecraft』。Nintendo Switchでは2017年5月に『Minecraft: Nintendo Switch Edition』が発売。2018年6月にマルチプラットフォームに対応した『Minecraft』が発売された(「My Nintendo Store」より)

シェアを拡大し続けるNintendo Switch

 任天堂が発表した2019年3月期(18年4月〜19年3月)の連結決算によると、Nintendo Switchの販売総数は全世界で累計3474万台。1年間のソフト販売本数は1億1855万本と前期より8割超アップしている。

 今年11月には「ポケモンシリーズ」の新作の発売が予定されており、「ポケモン」をプレイしたい層へ向けた廉価版、Nintendo Switch Liteが9月20日に発売された。

 現行の家庭用ゲーム機シェア1位のプレイステーション4が、来年予定している後継機・プレイステーション5の発売へ向けて若干トーンダウンしつつあることも追い風となり、年末にかけてNintendo Switchはさらにシェアを拡大しそうだ。

 ゲーム専用機のデジタルビジネスも好調で、デジタル売上高は前期比の9割以上増の1188億円となり、ついに1000億円越えを果たした。

 Nintendo Switchソフトのダウンロード販売が好調なのは昨年末にリリースされた『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』を初めとする自社キラータイトルのヒットによるところが大きい。それに加えて、インディーゲームの盛り上がりも影響していると見て間違いないだろう。

インディーゲーム=『カメラを止めるな!』

 インディーゲームとは小規模、独立系企業または個人が開発したゲームのこと。低予算だが作家性が強く出たアイデア勝負の作品が多いのが特徴だ。ゲームを遊ばない方は、昨年話題となった『カメラを止めるな!』のようなインディーズ映画のゲーム版と思ってもらうとわかりやすいかもしれない。

 ダウンロード版をメインに販売されていることもあり、低価格なのも魅力だ。Nintendo Switchのソフトでは高いものでも4000円以下。ほとんどのタイトルが1000円〜2000円台で購入できる。定価6000円〜7000円台のものが多い任天堂の人気タイトルと比べるとかなりリーズナブルといえるだろう。

 ここ数年で世界のインディーゲームシーンが活性化した背景にはクリエイター向けの開発ツールの価格が下がったこと、PCゲームのダウンロード販売が手軽に行えるプラットフォームが普及したことなどが挙げられる。米Valve社の運営する世界最大級のPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」では2014年頃から一気にリリースタイトルが増加している。

スウェーデンのクリエイターが作った『Minecraft』

 インディーゲームの存在を世間に知らしめたゲームといえば、スウェーデンのマルクス・ペルソンが開発した『Minecraft』だろう。普段ゲームをしないかたもゲーム名ぐらいは聞いたことがあるはずだ。

『Minecraft』は、箱庭的な世界で自由に遊ぶ「サンドボックス」(英語で砂場の意味)というゲームジャンルの“自由”の部分を極限まで高めたようなゲームだ。マルクスが1人で制作し、2009年に発表した初期バージョンから、驚異的な自由度の高さがゲームファンの間で話題になっていく。ウェブフォーラムでマルクスがNotch(ノッチ)のハンドルネームでプレイヤーと語り合い、意見を取り入れながら、新しい要素を加えたアップデートを繰り返すというスタイルも熱心なファンを生み出した。
 

 

 たとえば、クリエイティブモードはファンの声から生まれた。同モードでは、体力、空腹度といったサバイバルの要素はなくなり、プレイヤーはすべてのブロックを無制限に使って、ひたすら建築に明け暮れることができるのだ。このモードの存在がのちに『Minecraft』の大ヒットに貢献することとなる。

『Minecraft』が他のゲームと大きく異なるのはそのプレイ感だ。メインとなるサバイバルモードでは、ゲーム自体に明確な目的はなく冒険に出るのも建物造りに精を出すのもプレイヤー次第。

 世界を構築する立方体のブロックにはそれぞれ材質があり、森の大木からは木のブロックが、石壁からは石のブロックが取れる。羊を倒せば、羊の肉と羊毛ブロックになる。そうして集めたブロックや素材を使って、さまざまなアイテムを作ることができる。

 木を切って集めた原木から作った木材3つと羊毛3つを組み合わせるとベッドになり、そこで寝ることで体力が回復する。3本の棒と2本の糸で釣り竿を作れば海で魚を釣ることができるといった具合に、作ったアイテムを使うことでやれることも増えていく。

SNSに動画や写真をアップしたくなるゲーム

 次に何をすべきかの明確な指示はない。困ってる村人もいなければ、これ見よがしな大事件も起こらないため、至れり尽くせりな最近のゲームになれている人ほど最初は戸惑うことになる。

 しかし襲いかかってくるモンスターから身を守るために簡易的な住居を建設する頃には、自分が作りたい建築物に必要なブロックがわかり、それを作るには何の素材が必要なのかがわかってくる。素材を求めて探索することで、少しずつ世界が広がっていく。そうしてプレイヤーは広大な世界で好きなことを好きなようにやり続けるのだ。

 2010年にアルファ版、同年12月にベータ版をリリース。2011年の1月には累計販売本数は100万本を突破。プレイ映像の配信や画像の利用を許可したことも人気に拍車をかけた。アイデア次第でさまざまなことができるため、遊んでいると自分が作った建物の作り方などを動画や写真でアップしたくなる。YouTubeには、クリエイティブモードで建築物を作る動画が溢れた。プレイヤーがウェブ上にアップした動画や写真が絶大な宣伝効果を生み、新たなファンを獲得、驚異的な大ヒットにつながっていく。

『Minecraft』を“デジタルショーケース”としてうまく利用

 その後2014年に、『Minecraft』の開発スタジオであるMojang(モージャン)と共に『Minecraft』をマイクロソフトが25億ドル(2680億円)で買収。産みの親であるマルクスはこのタイミングでMojangを退社している。

 以降はマイクロソフトが新たな要素を追加したアップデートを行ないながらさまざまなプラットフォームでリリースを続けている。

 現在、マイクロソフトは最新技術を世に知らしめるデジタルショーケースとしても『Minecraft』をうまく利用している。先週ベータ版がリリースされた『Minecraft Earth』はスマホを使ってAR(拡張現実)で『Minecraft』を遊ぶゲームだが、マイクロソフトが今年2月に発表したAzure Spatial Anchorsという技術を取り入れることで、現実の世界に配置したARのブロックは、センチメートル単位の精度で複数プレーヤー間でリアルタイムに同期することが可能となっている。同社が開発を進める最新グラフィック技術のリアルタイムレイトレーシング(光線追跡法)もいち早く『Minecraft』に対応することが発表されるなど、ここ数年で『Minecraft』は同社の“顔”的な存在となった。

誕生から10年目 『テトリス』の販売記録を抜いた

 誕生から10年目を迎えた今年、販売本数は1億7600万本を達成した。

 世界でいちばん売れたゲームに認定されている『テトリス』の販売記録が2014年の時点で累計1億7000万本。

『Minecraft』は現在も半年で2000万本以上を販売しているため、すでに『テトリス』の販売本数を抜いているとみて間違いないだろう。

 リリース後、数年で数百万本を売上げ、大企業が買収し、すでにメジャータイトル以上に世間が認知しているゲームのため見落とされがちだが、もともと『Minecraft』の出発点は、ひとりのゲームプログラマーが作ったインディーゲームだ。

 マルクスは大富豪となり、このゲームの成功は多くのフリーランスの作家に希望を与え、現在の市場の活性化につながっていく。

 Nintendo Switchでは、ハードが発売された2カ月後の2017年5月に『Minecraft : Nintendo Switch Edition』のダウンロード販売を開始。

 お笑いコンビのよゐこが出演する任天堂公式のオンライン番組『よゐこのマイクラでサバイバル生活』がきっかけとなり、ハードの特性上、これまで『Minecraft』にふれてこなかった小中学生を中心に、新たにライト層のファンを獲得することに成功する。

 Nintendo Switchのダウンロードランキングでは常に上位をキープ。その人気はいまだ衰えず2019年上半期のパッケージソフトダウンロードランキングでも並みいる任天堂の人気タイトルを抑えて、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』『マリオカート8 デラックス』に次ぐ、3位にランクインしている。

 初期テストバージョンの登場から10年。『Minecraft』の驚異的な成功によって、インディーゲームに対する業界内での認識も変わった。

 任天堂も2016年からインディーゲームの開発者向け窓口を設けている。Nintendo Switch用ゲームの開発に必要になる開発機は、5万円程の低価格で購入できるため参入が容易になった。

 Nintendo Switchのソフトをダウンロード販売するニンテンドーeショップでは、インディーゲームをカテゴリー分けせず、メジャータイトルと並列に扱うことで、ライト層が抵抗なくインディーゲームに触れられるように配慮がなされている。

 2018年5月からはNintendo Switch向けの新作インディーゲームを任天堂の担当者が紹介する公式オンライン番組『インディーワールド』の配信もスタートした。

 携帯できて場所を選ばずプレイできるNintendo Switchと、手軽に遊べるインディーゲームは親和性が高く、すでに多くのヒット作が生まれている。

 後編では、Nintendo Switchで遊べる注目のインディーゲームを紹介する。

◆Minecraft
Mojang © 2009-2018. "Minecraft®" is a trademark of Mojang Synergies AB.

「熱血硬派くにおくん」の影響も……80年代ファミコンへの“偏愛”から生まれた「海外インディーゲーム」の正体 へ続く

(河上 拓)