熱海なのに1円の一軒家、車が玄関まで近づけない傾斜地…「崖物件」を買い続ける業者の「壮大な計画」
家を建てるのが困難な崖や荒れ地など、資産価値が低い土地を専門に購入・管理している不動産業者が存在する。旧所有者からすれば「いったい、なぜ?」と思うところもあるかもしれないが、業者はその土地をうまく活用してビジネス、そして社会貢献につなげているという。その仕組みを取材した。
【前編を読む】「崖、荒れ地、私が引き取ります」全国の「不要不動産」を買いまくる業者が考える「意外な活用法」
1円で買える物件
「当社独自のネットワークを活用した売却活動をしたところ、1円で売ることができました。買い手は、不動産コレクター。その土地に電柱や送電線が走っている場合、年間数千円程度の土地使用料が電力会社からもらえるのですが、そういう珍しい物件を集めている方です」(公認不動産コンサルティングマスターでリライト代表取締役の田中裕治氏)
1円物件である以上、掲載料だけで赤字になってしまうため、SUUMOなどの不動産検索サイトには載せられない。地元回りと独自の人脈だけが頼りなのだ。
「たとえば、崖地でも一部に平らな土地がある場合は、駐車場として活用したい方や、日当たりが良いので農作物をつくりたい方が買ってくれたりします」
そう話す田中氏に、静岡県熱海市にある「崖物件」を案内してもらった。
熱海駅から車で山を登ること15分。断崖の上に建つ、62段の階段を上ったところにある2LDKは、もともと所有者家族の避暑地に使われていたという。田中氏とともに都内から内見に来た30代男性は、温泉の出る錆びた蛇口やブラウン管テレビなどを興味深そうに眺めていた。
「妻や家族が絵を描くので、その保存場所を探してきました。昭和48年に建てられたと聞いていたので、もっと荒れ果てた建物かと思いましたが、状態はすごく良かったです。崖もしっかり補強してあるので、悪くありません」(30代男性)
1円で買える物件だが、別荘地として管理費が年額約4万円、温泉使用料が月額3675円(5m3まで)かかる。バルコニーや階段は腐食が進み、リフォームが必須だが、男性は「家族と相談してみます」と言って帰っていった。
トイレを建てたり、キャンプ地にしたり
もうひとつ、田中氏に案内してもらった崖物件は神奈川県藤沢市にあった。
旧東海道沿いの傾斜地を、住宅を建てるために切り出した土地の一角に建つ。家の前面も背面も急な崖になっており、すぐ側には「急傾斜地崩壊危険区域」と書かれた地図看板がある。床は強く踏むと抜けそうなほど傷んでいたが、軒先から藤沢市街地を一望できる景観が魅力的だ。
「土砂災害特別警戒区域に入っていることを気にしなければ良い物件なのですが……自動車が玄関まで近づけないため、リフォーム資材をすべて人力で運ぶ必要があるので大変なんです」(田中氏)
住むにはなかなか難しい、崖や荒れ地のような不動産について、冒頭の松尾氏は様々な活用法を考えている。
「全国を旅しているとよく感じることですが、田舎の町と町をつなぐ幹線道路には30分〜1時間かかるような山越えの箇所も多いんです。コンビニもないそんな峠道に、排泄物を微生物の力で分解する水不要のバイオマストイレを建てたらよいのではないか。この『全国ロードサイドトイレ計画』を面白がってくれる自治体もあると思います。
また、ソロキャンプ用の土地を1000ヵ所以上つくって、貸したり売ったりするのはすぐ実行に移せると思いますが、今考えているのは『全国村計画』。自動車で牽引できるトレーラーハウスを持っている人が増えていますよね。そんな人のために、私の持つ土地に電気や水道を引いておけば、山林で涼んだり、海沿いの崖から釣りに出かけたりしてもらえる。地元の人々や各地から集まってきた旅人との交流も深められます」
負動産もアイデア一つで、人々を楽しませる富動産に変わるかもしれない。
「週刊現代」2026年5月25日号より
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