「この子を残して先に死ねない…」障がい者の親の悲壮感が入社後に消える「奇跡の会社」AIより優秀な力を発揮する訳
「この子を残して、先に死ねない」。障がいのある子を持つ親が口にするこの言葉。自分たちが亡き後、「誰がこの子を守ってくれる?」という切実な思いが込められています。しかし、エフピコダックス株式会社で働く障がい者は、正社員として給料を稼ぎ、出世欲もある。同社で働くことが障がい者に何をもたらすのか。その現実を社長の岩井久美さんにお聞きしました。
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「俺のほうができるのに」競争心も出世欲もある
「俺のほうができるのに!」。そう言って悔しさを露わにしたのは、重度の知的障がいのある勤続14年のベテラン、西田真一さんです。同様の障がいのある同僚が社内でステップアップしたことに、剥き出しの競争心を見せたのです。
「西田くんはまだエフピコダックスに必要な人材だから。でも、次は目指そうな」と、にこやかに彼を励ますのは、社長の岩井さんです。
「西田くんが悔しがったエフピコ本体の製造分社への移籍は、みんなのあこがれの的です。主任などの責任者になって、工場内でインカムを着けて指示を伝達する立場になるのが嬉しいようです。競争心や出世欲、そんな当たり前の感情を、障がいのある彼らも持っています。『次の主任補佐はあの子じゃムリだよね』と真剣に密談したり、私に『僕は社長の会社で働けて幸せです。次のリーダーはぜひ僕に』と、おべっかを使ったりすることも(笑)」
福祉的な「優しさ」で彼らを包むのではなく、仕事の成果を厳密に評価し、時には社長におべっかを使うほどの競争心や出世欲も尊重する。それが個々の従業員のやる気につながり、ひいては工場全体の選別精度を上げることにつながっています。障がい者を「支援の対象」ではなく「自尊心を持つひとりの戦力」として扱うことで、同社は入社1年後の定着率98%超えという驚異的な実績を叩き出しています。
志望動機は「妹の歯医者代を出してあげたい」
自身の仕事について、「色を投げて、きれいにする(ライン上に流れる使用済み発泡トレーのうち、リサイクルに適さないものを取り除き、色トレーと白トレーを仕分ける)」と説明する西田さん。
「14年前、西田くんが特別支援学校を卒業して入社した当時は、マッチ棒のように細かったんですよ。それが1日8時間の立ち仕事を続けるうちに、がっしりとたくましくなりました。採用面接のときは、『妹が歯医者に行くお金を出してあげたい』と、話してくれたのが印象的でした」
入社後、その願いは実現しました。その後も西田さんはお金を貯めていろいろなことにチャレンジしています。
最近買ったものについては「バイク。バイク買った!」と教えてくれました。なんと、西田さんはバイクの免許も取得しているのです。もちろん、知的障がいのある西田さんにとって、免許取得は簡単ではありませんでした。とくに学科試験に手を焼き、4回目でようやく合格。
「ほかの社員が勉強を手伝って、合格したときは職場全体で喜びました。刺激を受けて、『自分も免許を取りたい』と、後に続く従業員が何人も現れました。社内には15回のチャレンジでやっと合格した方もいますから、4回での合格は優秀ですよ」
そんな岩井さんの言葉に、西田さんは照れくさそうに笑いました。
「この子を残して先に死ねない」悲壮感が消える瞬間
食品用トレー容器の製造・リサイクルを手掛けるエフピコグループ、その特例子会社であるエフピコダックス。重度の知的障がい者も正社員として働く同社に寄せる保護者の思いは大きく、重いものです。
「面接時や入社当初に、障がい者の親御さんからよく出るのが『この子を残して先に死ねない』という言葉です。モヤに包まれたような表情でいらっしゃる方がほとんどです」と岩井さんは言います。
ところが数年後、子どもが職場に定着し、社員旅行の送迎などで来た親たちに会うと、親同士で明るくママトークに花を咲かせるまでに変化しているのです。
「『お宅の息子さん、男前よね』『いやいや、お宅のお子さんこそ今風よ』なんて言い合って笑っている。面接時にあった悲壮感は、数年でさま変わりします。どんなにいい支援者がいて充実した福祉サービスがあってもずっと消えなかったモヤが、子どもが会社から、そして社会から必要とされていると実感できた瞬間に晴れる。子育てが終わった、と実感できるのでしょうね」
AIよりも障がい者の仕事ぶりが優秀な訳
知的障がいのある従業員にとって、会社は単なる職場ではありません。エフピコグループでは従業員同士、障がいの有無を超えて交流することを目的として、フロアホッケー活動を行っています。西田さんをはじめ、日ごろの練習や大会を心待ちにしている従業員も数多くいます。
「仕事も友情も、恋愛感情も挫折も、すべて会社で経験する。私たちが思う以上に、会社は彼らの人生においてボリュームの大きな場所なんです」
毎年、春に開かれる会社の総会では、全員がスーツを着て参加し、1年間の業績報告や一人ひとりの来年の目標を発表します。業績が好調な年には「俺らのおかげや!」と、自信満々に叫ぶ従業員も。
「彼らの愛社精神、トレーに向ける愛はすごいですよ。スーパーに行ったらトレーの裏側を必ずチェックして、エフピコの文字を確認するほどです」と、岩井さんは頬を緩めます。
「会社やトレーへの愛は、仕事にも表れます。瞬間的な作業効率だけでみれば、健常者を1とした場合、障がい者は0.8かもしれない。でも、『自分の仕事に誇りを持ってる』『この会社が好き』という思いで取り組むトレーの選別作業は、精度の違いとして表れます。あれだけしんどい仕事を長時間、長期にわたって真剣に取り組める彼らに、会社としては感謝するばかりです。一時期、自動化などを踏まえて、AIを搭載した機械による選別も検討導入してみましたが、彼らの選別の精度には及びませんでした」
障がい者が当たり前に働いて生活し、納税して社会を支える。それが次の障がい者の道しるべになる──岩井さんの言葉は、力強く響きます。エフピコダックスで働く人たちの姿は、障がい者雇用の「あるべき姿」を確かに示し続けています。
取材・文:鷺島鈴香 写真:エフピコダックス株式会社

