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目指したのは1966年のル・マン仕様の再現

果たして、オランダへ運ばれたミニ・マーコスだが、ジェローン・ブーイ氏はレストアする技術を有していなかった。細部まで仕上げるのに充分な、予算も確保できていなかった。だが長い時間をかけ、自ら部品を手配することで、仕上げられると考えた。

【画像】9年費やしレストア ミニ・マーコス・ル・マン仕様 マントラ 初代と最新のミニも 全133枚

彼が目指したのは、1966年のル・マン仕様を可能な限り再現すること。近年のFIAが定める参戦基準を満たしたミニ・マーコスは複数あるが、唯一の存在が目指された。


ミニ・マーコス・ル・マン仕様(1966年)    トニー・ベイカー(Tony Baker)

ボディシェルの修復は、英国の専門業者の見積もりが予想より高かった。そこで、ポルトガルに眠っている情報を提供した、ヨースト・ファン・ディーン氏へ作業が頼まれた。リアフェンダーは作り直され、加工されていたフロント周りは復元された。

作業で重要な役割を果たしたのが、マーコス仲間のゲイリー・マーロウ氏。二重フロアで半一体型のロールケージ構造を持つ、オリジナルのボディシェルを所有していたのだ。

燃料キャップはフェラーリ250GT SWB用

フロントノーズには、1966年と同様に139個の丸い穴が開けられた。これは、正面を向いたラジエターを冷やすためのインテーク。本来のサイドマウント・ラジエターと、2基備わっていた。

そのラジエターは、当時の部品を発見できた。1970年代前半に、このミニ・マーコスでヒルクライムレースへ挑んでいたホセ・アルベルティーニ氏が、ホイールや4速MTと一緒に保管していたらしい。坂道でのレースには不向きで、取り外していたという。


ミニ・マーコス・ル・マン仕様(1966年)    トニー・ベイカー(Tony Baker)

本来のエンジンは失われていたが、アルベルティーニの倉庫には、BMCのワークス用部品が幾つか残されていた。そこで、南フランスにある専門ガレージ、ミニ・ワールド・センター社によって、クーパーS用のAシリーズ・ユニットが忠実に組み上げられた。

解明に数年が費やされた燃料キャップは、フェラーリ250GT SWBのものだと判明。消耗品ではなく、在庫部品は見つからなかったが、知人を通じて譲ってくれる人が現れた。ミニ・マーコスに組まれる中で、最も高価なアイテムの1つとして。

凄まじい轟音で周囲を震わせるAシリーズ

ル・マン仕様のミニ・マーコスが完成したのは、ほぼ9年が経過した2025年の夏。ただし、オリジナルと違う部分が2つある。リアウインドウは、本来は緩くカーブを描いていたが、コストを抑えるためフラットに。マフラーには、サイレンサーが追加された。

「初めてエンジンを掛けた時、飛行機より轟音だったんです。とても運転できるモノじゃありませんでした」。とブーイが笑う。それでもなお、車重500kgの小柄なボディに載る4気筒Aシリーズ・ユニットは、始動直後から凄まじい轟音で周囲を震わせる。


ミニ・マーコス・ル・マン仕様(1966年)    トニー・ベイカー(Tony Baker)

殆どむき出しのキャビンでは、FRPが音を反響させ、一層うるさい。走り出すと、4速MTで回るストレートカット・ギアの唸りが、エンジン音をかき消す。

300km/h以上で追い越したフォードGT40

ギア比が長く、クラッチを滑らせながら発進。20km/h手前まで半クラッチ状態を続けないと、1速でもエンストしそう。レーシングシューズを履かないと、間隔が狭く正しいペダルを踏めない。筆者は靴を脱ぎ、靴下だけで重いクラッチペダルを押し込む。

50km/h以下では、正直運転しにくい。1966年のル・マンでは、300km/h以上のスピードで、フォードGT40 MkIIが追い越したはず。車内は賑やかで、すべてが重く、暑い。24時間も2人が過ごしたとは想像し難いほどの、苦行といっていい。


ミニ・マーコス・ル・マン仕様(1966年)    トニー・ベイカー(Tony Baker)

排気量が増やされたAシリーズ・ユニットは、驚くほどトルクが太く、ある程度スピードが乗ると充分速い。這うように車高が低く、極めて機敏に旋回できる。

ライフワークが仕上がる不思議な気持ち

前後で色が違うアルミホイールも、当時のまま。「テスト走行では前後ともホワイトのホイールだったんですが、ル・マンではリアがブラックだったんです。サイズは同じなのに」。ブーイが説明する。ミニ・マーコスに乗る知人から、譲ってもらったという。

「長年作業を続けて来たクルマが、完成するというのは不思議な気持ちですね。自分にとって、半ばライフワークでしたから。自伝の一部のようですよ」


ミニ・マーコスと、レストアを手掛けたオーナー、ジェローン・ブーイ氏    トニー・ベイカー(Tony Baker)

そう話すブーイは、しばらくこのミニ・マーコスを大切にするつもり。ル・マンのイベントで、デモ走行したいと考えている。しかし、遠からず売却するだろうと続ける。

「半分は実務の延長でしたが、探偵気分で情熱を費やしました。自分にとって、このクルマの9割は物語を綴るようなもの。これまでの時間が、何より楽しかったんです」

協力:ショブドン飛行場