FBS福岡放送

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北九州市には、酒店で買った酒を店内で楽しむ「角打ち文化」が残っています。コンビニやスーパーで酒が買えるようになり、酒店そのものが姿を消しつつある中、角打ちには温かい人のつながりが息づいています。

店の冷蔵庫から出した売り物の酒を、その場でいただきます。

座っているのは、ビールケース。

■常連客
「ただいま。」
「おかえり。」
「仕事帰りのビールが一番うまい。」

ここは、広辞苑にも載っている「角打ち」。酒屋で買った酒をその店内で飲むこと。

創業46年の北九州市小倉北区の上戸酒店。切り盛りするのは、上戸輝一さん(84)と妻の清子さん(80)です。

店内に人が集まり出すのは、日が傾き始めた頃。みんな、角打ち目当てのお客さんです。

乾き物は40円から。酒は一杯200円から350円ほどです。

自前のタンブラーを持参するのは最年少の常連、美穂さん(31)です。

■美穂さん
「お客さんが和気あいあい、お話しするところがめちゃくちゃ楽しくて。」

そんな美穂さんが出迎えたのは、常連最年長のご婦人方です。

■常連客
「乾杯。」
「本田さん、きょうヘアスタイル、なかなかかわいらしいね。」
「きょうはテレビが来るからよ。」

気心知れた仲間同士の会話が弾みます。

84歳の本田さんは7年前に夫に先立たれ、一人暮らしです。

デイサービスの帰りに、ここで一杯やるのが日課です。

■本田さん(84)
Q.ここで飲むお酒は、おいしいですか?
「おいしいですよ。」
■常連客
「みんなでね、ワーワー言いながら。」
■本田さん
「ここで飲んだら、ああいう方たちが余計なことばっかり言うけんね。なお、おもしろいの。」

1901年に製鉄所ができて以降、日本の近代化を支えてきた「ものづくりの街」北九州市。

働く人たちの英気を養ってきた角打ちは、北九州市に地域文化として根付いてきました。

しかし。

■上戸清子さん(80)
Q.この先、店はどうする?
「もう、私たちの代で終わりよ。息子たちに、そりゃ、譲ってもいいよ。だけど今のままではかわいそうよ。売り上げが全然なのに。」

工場も、働く人も少なくなり、コンビニやスーパーで酒が買えるようになったこともあって、酒屋の数は減少。

市内の角打ちは、全盛期の3分の1にまで減っています。

去年9月。上戸酒店で、ちょっとした騒動が起きました。

■清子さん
「また、なくしとる。」
■常連客
「えー、なんで?」

常連最年長の本田さんが自宅の鍵をなくしたというのです。

懐中電灯を手に、捜索開始です。

■清子さん
「預けてない?」
「あら?どこにあった?」
■常連客
「落ちちょった。玄関の下に。」
■本田さん
「良かった!」

世話焼きで温かい仲間に囲まれた場所。本田さんにとって角打ちは、かけがえのない居場所です。

■本田さん(84)
「ここはね、ここしかないの。お付き合いしてみたら、みんな家族みたいな感じ。」

年が明けて店を訪ねると。

常連客の中に本田さんの姿が見えません。

実は年末、高齢者施設に移ったそうです。

■清子さん
「突然だから、まだ話はしてないの。行くのよとかも本人は言ってないもん。いずれは行くけどねとは言ってたけど、あんなに早く。」

上戸酒店からおよそ60キロ離れた高齢者施設です。

本田さんはここで生活していました。

■本田さん
「夜中に泣いた時もあった。帰りたいなと思った時もあったけどね。さみしかったですね、みんながおらん時は。」

角打ちに足を運ばなくなって3か月。

この日、息子の哲之さんが手にしたスマートフォンの中には、懐かしい仲間たちがいました。

■美穂さん
「本田さーん!分かります?」
■本田さん
「分かる!」

久しぶりの再会なので、ジョッキでお茶を用意しました。

■本田さん
「乾杯!」
■常連客
「乾杯!」
「あー、元気やな。また飲みに来てよ。」
■本田さん
「いつでも行くよ。あー、うれしくなった!」

住む場所が離れても、世代が違っても、「乾杯!」のひと声でつながれる仲間たち。

北九州市の角打ちには、誰かを思い、誰かのために動く、温かい人のつながりがありました。

※FBS福岡放送めんたいワイド2026年4月10日午後5時すぎ放送

FBSでは、北九州市に残る「角打ち」に焦点を当てたドキュメント番組を制作しました。

NNNドキュメント、シリーズ つながる「カンパイ!角打ち物語」は、4月12日の深夜24時55分からの放送です。