憲法学者で慶應義塾大学名誉教授の小林節氏

写真拡大

 首相として選挙で自民党を"一強"へ導いた「安倍晋三氏と高市早苗氏」。ともに保守派の政治家であり、高市政権は"安倍後継"と捉えるのが自然だが、それだけでは高市政権の本質を理解することはできない。安倍政権と高市政権との「違い」を分析することで、その実像が浮かび上がってくるのだ。安倍氏と高市氏の「憲法観の違い」について、憲法学者で慶應義塾大学名誉教授の小林節氏に聞いた。

【写真】秘蔵写真で振り返る安倍晋三氏の足跡 昭恵さんとの結婚式は新高輪プリンスホテルで

 * * *
 私は岸信介さんの自主憲法期成議員同盟の頃から自民党の部会や勉強会で憲法の助言をしてきたが、安倍さんは議員に当選した直後からそうした会合に参加していた。やはり祖父の岸さんがやり残した課題に取り組もうと考え、大学時代から憲法に関心を持って勉強されていたそうです。

 一方の高市さんは当初、自民党の憲法調査会で見かけたことがなかった。最初から改憲に興味があったというより、安倍さんの側近となる手段の1つとして憲法について学んだように見えます。その意味で高市さんの憲法観は"安倍憲法論"そのままなのでしょう。

 2005年に自民党が新憲法草案を発表した時、こんなことがありました。私は90点と高得点をつけたのですが、高市さんは「どうして10点足りないのか」と不服そうでした。

 減点の理由は民主主義国家の憲法には、国民の権利・自由を守るために国がやるべきこと、国がやってはならないことを定めるという立憲主義の原則があったからです。

 しかし、自民党の草案は国旗に敬意を払え、家族は仲良くしなければならない、など国民に義務を課していた。だから私は減点したが、高市さんは不満だったのでしょう。

 そんな共通の憲法観を持つ2人ですが憲法への意識に違いがあります。

 そのことを感じさせたのは高市さんのトランプ大統領への対応です。

 トランプ氏はイランがホルムズ海峡を事実上封鎖したことに対して日本や欧州、中国などに艦船派遣を呼びかけた。

 安倍さんが総理であれば、「今こそ9条の障害を取り払った安保法制の国会審議で説明したホルムズ海峡の存立危機事態、重要影響事態が起きている」と、自衛隊艦船派遣を主張したはず。総理でなくても存命であれば、海外派遣の旗振りをしたでしょう。

 一方の高市さんは安保法制について安倍さんほどの理論家ではない。だから国際世論と日米の国内世論がイラン攻撃に否定的な状況のなか、日米首脳会談では「憲法9条」を楯にトランプ氏の期待をかわすことができた。

 高市さんが安保法制に拘泥しておらず、9条改正についても安倍さんほどの熱意はないからこそ、柔軟な対応につながったと言えるのではないか。安倍さんでは断わることは困難だったかもしれない。

【プロフィール】
小林節(こばやし・せつ)/1949年、東京都出身。慶應義塾大学大学院修了後、米ハーバード大学の客員研究員に。その後、慶應義塾大学法学部で教授を務める(現在は名誉教授)。憲法、英米法の論客として自民党の憲法改正論議に関与。

※週刊ポスト2026年4月17・24日号