「お前たちは男でも女でもない」髪をバッサリと切り、銃を手にして走り回る“防大女子”…それでも彼女が「命を捨てる覚悟を決める」ワケ
〈「これだから女学は」「わきまえろ」究極の男性社会に挑んだ19年前…エリート自衛官の道をあきらめた“防大女子”が「税金泥棒」批判に思うこと〉から続く
日本の平和を担う約22万人の自衛隊員。その巨大組織において、指揮官として現場を動かすリーダー層が「幹部自衛官」だ。
【画像】クラスの陽キャJK→ドーラン顔の陸自隊員に大変身…松田さんの半生を一気に見る
1987年生まれの松田小牧さんは、2007年に防衛大学校へ入校。2011年に卒業後、幹部自衛官を目指して陸上自衛隊の幹部候補生学校に進学したが、ほどなく中途退校の道を選んだ。現在はフリーの編集者・ライターとして活動するほか、出版社・月待舎の代表を務めている。
男社会における“圧倒的少数派”として、4年間の寮生活を送る“防大女子”たち。松田さん自身の経験と、数多くの経験者への取材から浮かび上がる、衝撃の実態を聞いた。(全4回の3回目/つづきを読む)

松田小牧さん 撮影=橋本篤/文藝春秋
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髪型はベリーショート必須、平日は6時起床で外出は禁止
--大学の初日といえば入学式。ですが、防大では独特の儀式があるそうですね。
松田小牧さん(以下、松田) 上級生が歓迎の腕立て伏せをしてくれることが多いです。入校した1学年の期別の数だけ上級生が腕立て伏せをしてくれます。私の場合は55期生なので、55回でした。
2021年に出版した書籍『防大女子−究極の男性組織に飛び込んだ女性たち−』の取材で、ほかの防大女子にも話を聞きましたが、この腕立て伏せを印象的に振り返る人が多かったです。「やばいところに来ちゃった」「あまりにびっくりしてしまってその夜は寝られなかった」と言う人もいました。
--ほかにも初日で印象的な出来事はありましたか?
松田 個人的に決意が必要だったのは髪型でした。女子は1学年のみベリーショートにしなければならず、耳や襟足が完全に隠れるのはアウトだったんです。
高校時代の私はいわゆる“お姉系”で、週末ともなれば髪をコテでグルグルに巻いていたんです。なので、私にとっては「髪を切ること」が第一関門でした。
--防大生は全員、寮生活を送るそうですね。
松田 はい。平日の外出と飲酒は原則禁止です。休日でも寮内で飲酒することはできません。平日は6時起床、22時30分消灯。普通の大学生と同じように授業の時間割がありますが、そのほか食事や入浴、自習の時間まで綿密に決まっています。朝から晩までスケジュールがびっしり組まれており、生活に時間の余裕はあまりありません。
私がいた頃は朝の点呼時に乾布摩擦を行っていたのですが、男子は冬でも裸。女子はTシャツの着用が認められていました。なお、これもいまは廃止されています。
乾布摩擦が終わると「解散」の号令で部屋に戻り、そこから清掃の時間です。防大の清掃は一般的な清掃とは比べ物にならないほどのスピード感で、体感的には普通の20倍くらいの速さで進みます。
一人になれるのはトイレだけ…刑務所のような寮生活
--休日は外出できるんですか?
松田 制服着用、門限ありという制限付きで外出できます。横須賀市小原台にある防大の別名は“小原台刑務所”で、外出できると「シャバの空気はおいしい」と言い合いました。
上級生と同室なので、1人になれる時間はトイレくらい。自由はありません。ちなみに、学生が逃げ出すこともあるのですが、自衛隊では隊員が逃げ出すことを「脱柵」と表現します。
--上級生と同室だとずっと気が抜けませんね。
松田 そうなんです。基本的にみんな尊敬できる素敵な上級生でしたが、気は張っていました。
ベッドメイキングは「落とした硬貨が跳ね上がるほどのハリにしろ」という、ホテル並みの水準を求められます。アイロンがけでは、シワや二重線をつけることは許されません。あるネット記事に「防大はアイロンがけと掃除のプロを養成する施設でもある」と書かれていましたが、真実だと思います。
「命を捨てる覚悟」を突き付けられる
--授業のほかに訓練もあるとのことですが、どのような内容なのでしょうか。
松田 貸与された「64式小銃」を手に走り回ります。小銃といえど、銃身99センチ、重量4.3キロ。女子の体力では、ずっしりとこたえる重さです。銃の分解と結合を覚え、どんな場所、どんな状況下でも組み立てられるようにします。ちなみに、いまやっと陸上要員には「89式小銃」が貸与されるようになりました。
精神論としては、「お前たちは国のために命を捨てる存在だ」と言われ、水筒に入っている水についても「水筒の水は部下への末期(まつご)の水だ。飲んではいけない」と指導を受けたことをよく覚えています。もちろん、実際には脱水症状を起こさない程度に飲んでいたのですが。
--10代という若さで「命を捨てる覚悟」を突き付けられるのは壮絶ですね。すぐに順応できるものでしょうか。
松田 書籍の取材でもその点は聞きましたが、それまで平和な日本で安穏と生きてきたわけで、「すぐに」というのは難しいかもしれません。ふとした瞬間に自分の状況を客観視してしまい、「なにやってるんだろう、自分……」と、我に返ってしまったと話す女性はたくさんいました。
私自身も、1学年時の訓練のテストで、「敵の歩哨(スパイ)を見つけた場合、どうするのが望ましいか?」と聞かれ、「生きたまま捕獲するのが最も望ましいが、逃げられそうな場合には刺殺、できなければ射殺する」という回答を書いた時、「私はいま、何を書いているんだ?」と、ふと考え込んでしまったことがあります。
「覚悟」というのは、防大生になった瞬間に決まるものではありません。少しずつ時間をかけて、着実に育んでいくものなのです。
--軍隊ではありませんが、軍隊として扱われる組織ですものね。
東京湾8キロを4時間かけて泳ぐ
松田 普段から時間的・精神的に余裕のある生活を送っているようでは、有事の際に反射的に動くことなんてできるわけがない。一度、「1秒で戦闘機が何メートル進むと思っているんだ!」と怒鳴られた時は、確かにと膝を打ちました。
ただし、いまは時代の流れから厳しすぎる教育がなくなり「時間的・精神的にゆとりがある」と話す防大生も多く、逆説的に「こんなにゆとりを持った生活でいいんだろうか」と悩む真面目な防大生もいると聞きます。
--訓練はどれくらいの頻度で行うんですか。
松田 週に1回です。それに加えて年に複数回まとまった訓練期間があり、たとえば、1学年では「遠泳」などが行われますね。
--どこで行うのですか。
松田 東京湾ですね。8キロを4時間超かけて泳ぎます。東京湾はめちゃくちゃ汚くて、水着を洗った水が緑色に染まるほど。休憩時には船の上から乾パンを投げられるんですが、海水に浸かり塩気を増した乾パンは思いのほか美味しかったです(笑)。
--すごく抵抗を感じます(笑)。
松田 鯉みたいですよね(笑)。ある女子学生に遠泳のことを取材したら、溺れかけたときに教官が飛び込んできてくれて、「危うく惚れかけた」と語っていました。
顔にドーランを塗る陸自コース
--陸海空の進路はいつ頃決まるのでしょうか。
松田 2学年進級時に決まりますが、これが運命の分かれ道となります。人気は圧倒的に空で、次いで海、陸の順。陸に行きたいと志望して叶えられないことは少ないです。ただ、バランスを考えなければならないので、優秀な者が必ず航空に行けるというわけでもありません。
陸は顔にドーランを塗り、銃を手にひたすら匍匐前進やランニング。海は舟を漕いだり国際法を覚えたり、まとまった訓練期間中には船での生活が待っています。空は、防大には滑走路がないので、普段は座学が中心となります。
--松田さんはなぜ陸上自衛隊に進まれたんですか?
松田 もともと陸上部に所属していたこともあり、なんとなく「陸上」という言葉に親和性があり、「私は地に足を着けて生きていくんだ」と思っていました。
防大で実際の陸上要員の姿を見て、「陸上要員は過酷すぎる。航空要員のほうが楽そう……」と揺らぎましたが、とくに空への憧れがあるわけでもなかったので、そのまま陸上要員になりました。
「防大女子は男でも女でもない」
--当然、男性も女性も同じ内容の訓練をこなすわけですよね。
松田 授業内容はもちろん同じで、総じて女子の方が真面目なこともあり、学科の成績は女子の方が高くなりがちです。「女子は学力的に優秀だ」とは大体が思っているはずです。
ただ、たとえ女子の中では体力がある方であっても、同じ内容の訓練・体力錬成をこなすので、どうしても男子との差は出てきてしまいます。
女性の総合的な体力は、平均的に男性に劣り、関節や骨格、筋肉の構造も異なりますが、そのうえで同じ基準を満たさなければならない。それができないと、一定数の男子学生は、自分より体力が劣る女子学生を一段下に位置付ける場合があります。
--特に陸は体力が必要そうですね。
松田 防大時代に女子がかけられる言葉に、「世の中には3種類の性別がある。男子、女子、防大の女子学生だ」というものがあります。決して「女」とは認められず、かといって「男」にもなれない女子学生のありようを表現している言葉ではないでしょうか。
--どういう時に「認められていない」と感じるのでしょうか。
松田 取材で聞いたエピソードでは、行軍中靴擦れを起こしたとき、荷物を持ってくれた男子から「これだから女は」と言われた、という人がいました。あとは、作戦を考えるときに当たり前のように「お前は見張りでもしてて」と作戦立案に携われなかった人も。
それから、面と向かって、「女子は行軍中、LAMとか持てないんだから、もっと下手に出ろよ」と言われた、という人もいました。
--LAMというのは?
松田 対戦車用のロケット弾の一種で、「110mm個人携帯対戦車弾」の略称です。行軍の時はそれぞれの学生が十数キロある背のう(リュック)を背負い、4キロの小銃を携行します。そのうえで、6人程度の分隊に1つずつ、9キロの機関銃と13キロのLAMを渡され、持ち回りで運ばなくてはならないのです。
ただ、「女子学生だとLAMを持てない」というケースが発生しがちです。男子学生自身も楽とは言えない状況の中、「女子学生がいる分、負担が増えている」とイライラし出すと、上記のような発言が飛び出しがちでした。
体や精神を病む女子学生も…
--心が折れる女子学生もいるでしょうね。
松田 もちろん前提としては「人による」です。心を強く持つ女子学生も少なくありませんが、私は鬱々としていましたね。体は思ったより正直で、1学年の途中から約2年間は生理も止まりました。当時の日記を見るとかなり病んでいたと思います。
女子としての劣等感だけが原因ではなく、様々な要因があるのですが、退校する人、自己肯定感の低下に苛まれて鬱病を患う人、ひそかに自傷行為を繰り返す人もいました。
--同期で支え合う以外に、息抜きはないのでしょうか。恋愛禁止ではないですよね? 次の記事では防大の恋愛事情について聞かせてください。
〈《男9女1の寮生活》恋に落ちないワケがない…元「防大女子」に聞いた、エリート自衛官をめざす若者たちの「普通ではない恋愛事情」〉へ続く
(「文春オンライン」編集部)
