山奥のトンネルに描かれた“儚げな少女のグラフィティ”に「日本のバンクシー」との声…「この作者、上手いですよ。落書きなのが惜しいくらい」とプロも絶賛
長らく正体不明とされていた芸術家・バンクシーの正体を特定した、というニュースが世界中を駆け巡っている。バンクシーは無許可で建物の壁などに落書きをし、顰蹙を買う一方で、作品が世界中のオークションで高額落札されるなど、アーティストとしての評価が高まっている。日本でも、昨年開館した鳥取県立美術館が、作品の取得に向けて動いていると報じられた。
そんななか、SNS上で、「いったい誰が描いたのか」「日本のバンクシーか」と盛り上がっている謎の落書きがある。それは、大阪府、奈良県内のトンネルや高架橋などで相次いで発見されている、帽子をかぶった少女が描かれた絵だ。コンクリートの壁などにスプレーで描かれる落書きの一種で、グラフィティと呼ばれる。なお、バンクシーが壁に描いた絵もグラフィティである。【取材・文=山内貴範】
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現地に見学に行く人が続出
もちろん、グラフィティであろうとなんであろうと、落書きはれっきとした犯罪である。グラフィティは街を汚すものとして問題視されることも多く、自宅や商店の壁に描かれたものは消すのも大変なので、頭を悩ませている人は少なくない。筆者も落書きを肯定しているわけではないが、この作者が描いたグラフィティは純粋に絵として見ると完成度が高く、とにかくかわいらしいのである。

グラフィティといえば、よくわからない文字などを描いたものが多い。そんななかで、萌え系のイラストのような絵柄でキャラクターが描かれたものは非常に珍しいため、特別な魅力がある。そのかわいらしさゆえ、SNSで発見の“報告”が相次ぐたびに現地へ見学に赴く人が続出しており、ちょっとした名所となっているわけだ。
筆者は今回、SNS上の情報を参考に、帽子をかぶった少女のグラフィティをいくつか巡ってみた。ほとんどの絵は大きなリボンが付いた帽子をかぶり、眉毛が垂れていて、口が“くの字”形でほほ笑んでいる。なかには、頬や目に色がついていたり、目の中に星のようなハイライトが入っている例もあったりと、微妙な差異が見られる。帽子が黒く塗られている絵もあった。
キャラクターの正体は
さて、一連のグラフィティの面影は、シューティングゲームを中心とした作品「東方Project」に登場する“古明地こいし”というキャラクターに似ていることから、同作のファンの間でも話題になっている。では、本当に描かれているのはこいしなのだろうか。「東方Project」に詳しく、作品の二次創作などを手掛けたことがあるイラストレーターに話を聞いた。
「そもそも、東方Projectのキャラは、シリーズによって衣装が突然変わったりするんですよ。そういった性質もあるうえ、このグラフィティのキャラは全体的にデフォルメされていますから、判定は難しいですね。
ただ、一部のグラフィティに関しては、瞳の色と髪の色からほぼこいしと考えてもいいものもあります。とはいえ、こいしの胸元にはリボンはないはず。主なモノクロのグラフィティを見ると、胸元のリボンのほかに、マントのようなものも描かれているのが気になります。
このマントは、初期の宇佐見蓮子(注:同じく東方Projectのキャラ)に近い気もします。蓮子は、帽子に大きなリボンが付いている点が、こいしと共通しています。こうした特徴から、このグラフィティは純粋なこいしではなく、“こいしと蓮子をミックスしたキャラ”と言えるかもしれませんね」
儚げな少女のグラフィティ
ネットで大いに話題になったのが、大阪府南部の林道のトンネルに描かれた少女の絵であった。これだけは他と作風が異なるうえ、顔だけではなく胴体まで描かれているのが特徴だ。木々に囲まれた人がほとんど通らない薄暗いトンネルの入口というロケーションが、少女の雰囲気に合っている。
その面影から、SNS上では“儚げな少女のグラフィティ”と呼ばれている。筆者は現地に行って見てきたが、可憐な少女の姿に見入ってしまったほど、非常に魅力的な絵である。2018年に撮影されたGoogleストリートビューでは、この絵を確認できない。現地で聞いた話では、どうやら2025年の後半頃に描かれたと推定される。
SNSの情報によれば、すぐ近くのトンネルが心霊スポットとして有名なのだという。この女の子も足がないため、「幽霊の少女を描いたのではないか」という見解もある。帽子の上に、天使の輪のような小さな楕円が描かれているのはそのためだろうか、などと考えてしまう。
「落書きなのが惜しい」
SNS上では、「どんな理由でも落書きはダメ」と批判する声もあるものの、「絵自体の完成度は高い」として、評価する人も比較的いるようだ。筆者の知人で、数々の雑誌で表紙などを描いている高名なイラストレーターに、純粋な絵としての感想を聞いた。
「いやあ、率直にかわいいし、上手いですね。スプレーに限ったことじゃないですが、下描きをしないで、一発描きをするのはかなり難しいのです。しかも、こういう落書きは周りの目を気にしながら一気に描かなければいけないわけでしょう。誰か人が来るんじゃないかなと、ドキドキしながら不安な気持ちで描いたら、普通なら線が震えてしまいます。
ところが、この絵は線が凄くきれいで迷いがありませんし、勢いがあります。作者がかなり絵を描くのに慣れていて、高い画力の持ち主であることは間違いありません。こんな壁面に巨大な絵を大胆に描ける人は、私たちのようなイラスト業界には少ないと思う。大きなキャンバスに絵を描いた経験がある、美大などの出身者ではないかと推測します」
このイラストレーターは「今のSNSの空気感だと、僕の名前を出すと“落書きを肯定するのか”と言われて炎上しそうなので、僕も匿名で…」と話しつつ、「この作者、上手いですよ。落書きなのが惜しいくらいですね」と語っていた。少なくとも、絵として見れば優れた作品であることは間違いないようだ。
作者はぜひ、編集部か記者まで連絡を
筆者はいくつかのグラフィティを見て回りながら、作者の素性を推理した。作者の住まいは、大阪府東部か南部と思われる。だが、1人なのだろうか。若干、作風が違うものも確認できることから、2名以上で描いている可能性もある。
謎が謎を呼ぶグラフィティだが、作者はぜひ「デイリー新潮」の編集部か、記者のXまでDMをしてほしい。匿名、秘密厳守のうえでインタビューをさせていただく可能性もあるので、ご一報いただければ幸いである。
何度も繰り返すようだが、落書きは犯罪だし、筆者もそうした行為を肯定はしない。しかし、キース・ヘリングやバンクシーのように落書きをきっかけに世界的なアーティストになった人物がいるのもまた、事実である。それゆえ、筆者はこの作者の絵を、落書きではない形でぜひ見てみたいと思っている。
今回、グラフィティを見て回って感じたことだが、大阪府内は落書きが多すぎる。トンネルをはじめ、高架橋、道路沿いの壁など、とにかく至るところに落書きがあるが、消された形跡がほとんどない。結局のところ、こうした落書きを放置しているせいで落書きが減らないのではないかと、筆者は考えてしまうのだが、どうだろうか。
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部
