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ひとり暮らしは気楽ですが、時には不安や孤独を感じることもあるでしょう。しかし、ひとり暮らし歴40年以上のエッセイスト・岸本葉子さんは、「心の強さとやわらかさを身につければ毎日ごきげんな私になれます」と前向きに語り、自らの体験に基づいた「たのしいひとり暮らしのコツ」を提案しています。今回は、そんな岸本さんの著書『ひとり時間のつくり方』から抜粋し、ご紹介します。

【書影】元気に、明るく生きていくための生活のレッスン。岸本葉子『ひとり時間のつくり方』

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陰口は負の言葉

人との関わり方でまずだいじにしたいのは、陰口を言わないことです。これが実に

「言うは易く行うは難し」。

人との間で嫌なことがあったとき、例えば誰かから思いもよらぬ対応をされたときなど、別の誰かに話したくなるものです。自分が抱いた気持ちや感情を肯定してほしい。「あなたは悪くない」と言ってほしい、さらには「あの人はいつもそうだから」。好ましくない出来事、それをもたらした人に対する否定的な言葉を、他の人につい求めてしまいます。

陰口は、言うときには一種の高揚感があります。自分が陰口を漏らした相手も、同じ人をよく思っていないとわかると、意気投合して話が盛り上がって。でも、一時の高揚感が過ぎると、後味の悪さが残ります。陰口は負の言葉です。言葉の持つ負のエネルギーが、結局自分のところに帰ってくるようで。

陰口をたしなめられるとき「あなたの信用に傷がつくから」などと言われますが、わたしには信用問題より、陰口を共にした人と別れてひとりになったとき、心のうちがどんよりと濁る、あの感じがこたえて、言ったことを後悔し「やはりやめよう」と思うのです。

陰口を言わない方法

陰口を言いたくなったらどうするか。何か別のことをしたり考えたりする。気持ちや感情は、次々と移り変わっていくものです。Aさんとの間で嫌なことがあり、それについてばかり考えていると、Aさんへの否定的な思いがどんどん募っていきますが、他のことに頭がいくと、案外忘れてしまったりします。陰口を言うまでに発展させないで、Aさんに対する気持ちをとりあえず棚上げし、放っておくのが、いちばん苦しくないし、賢い対処に思えます。

陰口を言わないのがいちばんと知りながら、Aさんとの共通の知人Bさんに会ったら、「この人ならわかってくれるはず」とつい気を許して、言いたくなるでしょう。そのときは言い方を工夫します。長々とはこぼさない。「Aさんは、わたしの言うことを全然受け止めてくれない、一緒に何かをするのは本当に嫌」。言いたいことはそうであっても、「Aさんと意思疎通するのは、結構難しい」くらいにとどめる。

隠れた主語を意識します。「難しい」と感じているのは「わたし」です。「Aさん」は意思疎通のできない人だと、断じているのではありません。同様に「Aさんは頑固だから」「Aさんは人の話を聞かないから」とも言わないようにします。Aさんの固定した属性のようには言わない。レッテルを貼ることをしないのです。

陰口を言わないに越したことはないけれど、完全には止められないなら、一方的に評価しない立場で言いましょう。勢いに任せて話さず、そうした立場をとる余裕を持って、できればユーモアを交えて語れたら、後味の悪さはかなり薄まると思います。

Point 「わたし」を主語にして、相手にレッテルを貼らない

愚痴をこぼしたいときは

陰口だけでなく愚痴も、こぼしたいときはあります。困った、参った、情けないという思いをしたとき。愚痴もまた、言い方を工夫しましょう。

わたしがこぼすときは、はじめと終わりを意識します。「1分だけ愚痴を言っていい?」と前置きし、何があってどうなってと話してきて「以上愚痴でした」と切り上げる。そして自分から話を変える。聞くほうは安心して、別の話に移れます。


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もうひとつ気をつけているのは、愚痴に人との比較をまぜないこと。特に話を聞いてくれる相手との比較をまぜない。Bさんに愚痴を聞いてもらっているとしたら、「Bさんなんかいいじゃない。それに比べてわたしは……」などと言うと、Bさんは口をつぐむしかなくなります。

人に話を聞いてもらいながら、マイナスの感情だけ渡してフォローもないのは、よくありません。親しき中にも礼儀ありです。

その場にいない人のことは話題にしない

陰口のところで、Aさんの例を出しました。意思疎通が難しいという話でした。その例でも「難しい」で終わらせず、その後にもうひとこと付け加えることができれば、なおよいと思います。「Aさんには、メールで伝えるほうが確かだなと思った」など、何かしらプラスのほうへつなげていけるひとことです。

そうした工夫のうまい知人がいます。知人と数人で、Cさんと同席していました。Cさんは正論の人ですが、あまりにストレートなため、苦手意識を持たれています。その日Cさんが言ったのは、あなた方のしようとしていることはわたしに関係がない、わたしは××部の人間だから××部の利益にならないことはしない、と。

Cさんが去った後も、圧倒されたわたしたちは、しばらく言葉が出ずにいました。硬く黙りこくった場で、知人はひとこと「いやー、Cさんがああ言ったときは、思わず背筋が伸びたよね」。さすが、とわたしは思いました。皆の思いを代弁しながら、陰口になる手前で寸止めし、雰囲気を和らげている。上級者の技ですが見習いたいです。

TPOも考えましょう。食事をしながらの愚痴は、わたしはNGだと思います。心を許したどうしが集まるからこそ、つい愚痴もこぼれるのでしょうが、せっかくの食事の味がわからなくなりますし、作ってくれた人にも気の毒です。周囲への配慮も必要です。隣のテーブルの愚痴を聞かされながら食事する身になってみましょう。

101歳で亡くなった家事評論家の吉沢久子さんは、つき合い上手で知られます。「その場にいない人のことは話題にしない」を鉄則にしていらっしゃいました。ご立派です。

陰口も愚痴も言いたくなるときは、人間だからあります。どうしてものときの工夫をいくつか紹介しましたが、基本的には「その場にいない人のことは話題にしない」のが、人づき合いにおいてはいちばん安全で、自分を含め誰の気持ちも濁さないですむのでしょう。

Point 言い方を工夫し、TPOにも気を配る

※本稿は、『ひとり時間のつくり方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。