(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢の親が生活費の一部を子どもからの仕送りに頼って暮らしている、そんなケースは決して珍しくありません。しかし、もし突然、「仕送り終了宣告」が子どもから突き付けられたら――? 今回はトータルマネーコンサルタント・CFPの新井智美氏が、仕送りに依存した老後が抱えるリスクと実際に起こり得る問題、そして子どもに過度な負担をかけずに生活を立て直すための考え方について解説します。

息子から突きつけられた「仕送り終了」の通告に激昂

正雄さん(74歳)は、現役時代は学校用品の注文なども受けながら、町で小さな文具雑貨店を営んできました。店舗兼住宅での商いでしたが、高齢になるにつれ店を続けるのが難しくなり、数年前に廃業を決断します。

店をたたんだのを機に、広すぎる店舗兼住宅を離れ、妻と二人で暮らすための賃貸住宅へ引っ越しました。身の丈に合った間取りで、老後は静かに暮らしていくつもりでした。しかし、その矢先に妻が亡くなり、現在はその部屋でひとり暮らしを続けています。

正雄さんの毎月の年金収入はおよそ10万円。老齢基礎年金と昔から加入していた個人年金保険からの年金給付のみです。多少の変動はありますが、家賃(6万5,000円)や光熱費(約1万円)、医療費(約1〜2万円)、食費(約1万5,000円〜2万円)を払うと、1万円かそれ以上の赤字になります。

妻の存命中は、彼女の年金と合わせることで生活は成り立っていましたが、妻を亡くすと、あっという間に生活が苦しくなりました。そんな正雄さんを助けてくれたのが、ひとり息子・健太さん(38歳)です。

健太さんは、毎月3万円を欠かさず送ってくれていました。この仕送りがあることで、日常の赤字分だけでなく、冠婚葬祭費や家電の買い替えといった突発的な支出にも、なんとか対応できていたのです。

ところが、ある日、健太さんから電話が。健太さんは開口一番、こう告げました。

「悪いけど、来月で仕送りを終わらせて欲しい」

その言葉を聞いた瞬間、正雄さんの頭の中は真っ白になりました。思わず感情が先走り、電話口で叫んでしまいます。

「お前は親が死んでもいいっていうのか!?」

しかし返ってきたのは、さらに厳しい言葉でした。

「もう限界なんだよ。これまで仕送りをするのに、どれだけ苦労してきたかわかってる? そんなことを言われるなら、親子の縁を切ってもいいと思ってるから」

仕送りを「もらえて当たり前の定期収入」と考えていた

正雄さんにはまったく貯蓄がないわけではありません。自営業者として小規模企業共済に加入しており、65歳を過ぎた時点で、約1,200万円の老齢給付金を受け取っていました。

しかし、その多くは、妻の葬儀費用、健太さんの結婚資金や住宅購入時の援助、日々の生活費の補塡などに充てられ、残っているのは約600万円。決して贅沢をしてきたつもりはありませんが、残りの人生を考えると心許ない金額です。

こうした状況で、健太さんからの仕送りは、正雄さんにとって「補助」ではなく生活を成り立たせる「定期収入」になっていました。

さらに正雄さんの中には、息子を大学まで行かせたという強い自負がありました。教育費のために、少しでも収入を増やそうと必死に働いてきた日々。その記憶が、いつしか「今度は、息子が自分を助ける番だ」という思いへと変わっていったのです。

仕送りする側の限界「子どもを守るか、父を助けるか」

一方の健太さんにも、仕送りを続けられない事情がありました。健太さんは会社員。妻と小学生・幼稚園の子ども2人を抱える4人家族で、世帯年収は約550万円、住宅ローンの返済は毎月約10万円にのぼります。

そこに子どもの教育費や習い事の費用、物価高の影響も重なり、家計に余裕は一切ありません。妻は子どもがまだ小さいからとパートをしていましたが、フルタイムで働くために仕事探しを始めたところでした。

「本当に、自分たちの家計だけでも精一杯の状況。『とても3万円も出せない』のが正直なところです。子どもを守るか、父を助けるか……親として、前者を取るしかありませんでした」とは、健太さんの言葉です。

法律上、子には親を扶養する義務があります。これは民法877条で定められています。ただし、ここで誤解してはいけないのは、「子ども自身の生活を脅かしてまで扶養する義務はない」ということです。

扶養の程度は、親の生活状況と子どもの経済力を総合的に見て判断されます。実際、仕送りを巡って家庭裁判所で話し合いになるケースもありますが、必ず一定額の支払いが命じられるわけではないのです。

健太さんの「親子の縁を切ってもいい」という言葉は、冷たく聞こえるかもしれません。しかし、それは追い詰められた末の悲鳴だったとも言えるでしょう。

「子どもに頼る」という前提を捨てる

現実問題として、健太さんはこれ以上仕送りをすれば、自身の家庭が立ち行かなくなる状況。一方で、正雄さんは貯蓄が途絶えれば、やはり危機的な状況に陥る可能性があります。

正雄さんがすべきことは、息子の仕送りに執着することではありません。自身の収入と貯蓄の範囲でいかにやりくりするかを考えること。そして、いざという時にはきちんと国や自治体の制度を利用することです。

正雄さんの貯蓄額がなくなり生活が立ち行かなくなった場合には、生活保護制度の利用を検討できます。申請時には扶養照会が行われますが、子どもに無理な負担を強制する制度ではありません。

自治体によっては、高齢者向けの家賃補助が用意されている場合もあり、住まいを見直すことで、支出を大きく下げられる可能性もあります。

親子関係を壊さないための、現実的で誠実な対処法

老後の生活は、本来、自分の年金と資産を軸に組み立てるべきもの。「子どもが助けてくれるはず」という前提で老後を考えてしまうのは危険です。子どもには子どもの生活があり、経済状況や家族構成も変化するからです。

正雄さんのように、赤字家計ではあるものの貯蓄はゼロではないという場合、今すぐに生活保護の対象になることはないでしょう。だからこそ、地域包括支援センターなどの公的窓口に足を運び、「本当に生活が行き詰まったとき、どのような支援が検討できるのか」を事前に相談し、打ち手を把握しておくことが重要だといえます。

高齢化が進む今後、同じ問題に直面する家庭は確実に増えていくでしょう。その際に大切なのは、「どうすれば自分の生活と親子関係の両方を壊さずに済むか」を冷静に考えることです。

国や自治体の制度を正しく知り、「助けてもらえるはず」という思い込みから一度距離を置いて現実を直視すること。それは親が自分の生活を守るためだけでなく、子どもに必要以上の重荷を背負わせず、親子関係を壊さないための、最も現実的で誠実な第一歩です。

新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP®