在宅医療専門医がマイナ保険証を「強力に推す」理由…日本の在宅医療を加速させる、DXのスゴイしくみとは?
在宅医療の現場において、DX(デジタルトランスフォーメーション)は単なる「ITツールの導入」ではありません。それは、限られた医療リソースを最大化し、患者さんと向き合う時間を創出するための「攻めの戦略」だといえます。今回は、組織的なICT体制から、生成AIの可能性、そして議論の絶えないマイナ保険証がもたらす現場の真のメリットについてお話しします。医療法人あい友会理事長の野末睦医師が解説します。
ICTチームを組織し、作業効率化を徹底追求
DXを進める上で最大の壁となるのは、新しい技術をいかに現場に浸透させるかという点です。当グループでは、これを個人のスキルに頼るのではなく、組織的な仕組みとして解決するために「ICTチーム(Information and Communication Technology Team)」を組織しています。
本部の専任スタッフに加え、各クリニックには、システムエンジニア(SE)の資格を持つスタッフを配置しています。専門家が現場にいることで、トラブルへの迅速な対応はもちろん、新しい技術の導入もスムーズになります。
現在では、毎朝全クリニックをオンラインで繋いで会議を行うのは当たり前の光景となりました。事務長クラスにも技術に長けた人材が増えており、グループ全体で「デジタルを武器にする」文化が根付いています。
在宅医療の効率と質が、劇的に向上!?…生成AIに見る可能性
今、私が最も大きな関心を寄せ、勉強を重ねているテーマが「生成AI」の活用です。ChatGPTやGemini(ジェミニ)、MicrosoftのCopilotといったツールが次々と登場していますが、これらは在宅医療の効率と質を劇的に向上させる可能性を秘めています。
具体的には、以下の2点において導入を急いでいます。
●カルテ作成の効率化:診察内容の要約や記録の補助にAIを活用し、医師の事務負担を軽減する。
●膨大な文書作成の自動化:医療現場特有の複雑な書類作成をAIがサポートすることで、ミスの防止とスピードアップを図る。
AIを上手に使いこなすことは、在宅医療において「効率的かつ質の高い診療」を実現するための絶対条件になると確信しています。
マイナンバーへの統合は、医療ミスを防ぐための強固な基盤
DXの流れにおいて、マイナンバーカード(マイナ保険証)の普及は避けて通れないテーマです。世間では様々な議論がありますが、一医療人として、私はこの流れを断固支持しています。
その理由は、日本社会が長年抱えてきた「国民識別番号の分散」という非効率を解消できる唯一の手段だからです。
これまでは、住民基本台帳、年金、免許証、保険証と、一人の国民に対してバラバラの番号が振られてきました。その結果、漢字一文字のわずかな違い(「高」か「郄」かなど)で照合ができず、事務が止まってしまう。かつての「消えた年金問題」も、こうした縦割りの管理が生んだ弊害です。
こうしたアナログ的な不備でスピード感が失われることは、一刻を争う医療現場において大きな損失です。マイナンバーへの統合は、事務作業を劇的にシンプルにし、医療ミスを防ぐための強固な基盤となるのです。
「事務のための事務」からの解放こそ、現場が実感するメリット
マイナ保険証への移行は、在宅医療の現場に具体的な恩恵をもたらし始めています。最も顕著なのが、「保険証の更新確認作業」からの解放です。
例えば、後期高齢者医療制度では、毎年8月1日に保険証が一斉更新されます。これまでは、その時期になるとスタッフが全患者さんの家で新しい保険証が届いたかを確認し、写真を撮り、届いていなければ催促をお願いする……という、膨大な、そして極めて非効率な作業に追われていました。
マイナ保険証になれば、こうした更新手続きや確認作業自体が不要になります。
「事務のための事務」に使っていた時間を、本来の医療やケアの時間へと転換できる。
これこそが、私がDXを通じて実現したい医療の姿です。制度側の課題は一つずつ改善されるべきですが、この大きな流れを止めるべきではありません。より良い医療を届けるために、私たちはこれからも最新のテクノロジーを積極的に取り入れていきます。
野末 睦
医師
医療法人 あい友会 理事長
