松井 拓己 / サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

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同じ行動が評価されたり嫌がられたりする理由

丁寧な説明によって顧客の信頼をつかむ営業がいます。しかし同じ説明が、別の顧客には「くどい」と映ることがある。店頭で積極的な提案をしたスタッフがファンをつくる一方で、別の客には「放っておいてほしい」と思われてしまうこともある。

行動は変わっていません。なのに、評価はまったく違う。

この現象を経験不足やスキルの差で説明しようとすると、永遠に原因がつかめません。成果を分けているのは行動そのものではなく、相手がどんな“事前事前期待”を持っているのかの違いだからです。

企業は行動を磨いてきた。しかし事前期待は扱われてこなかった

ビジネスの世界では長い間、成果の向上は「行動の改善」で語られてきました。オペレーションを整える、マニュアルを精密化する、研修を行う。これは当然必要です。しかし、どれほど行動を洗練させても、成果が安定しない理由が一つだけあります。

行動は事前期待とセットで評価されるため、行動単体では“正解”にならないからです。

どれほど丁寧に説明しても、「手短に」という事前期待を持つ相手にとっては失点になる。逆に、多少粗くても「しっかり提案してほしい」という事前期待を持つ相手には評価される。成果は行動の絶対値ではなく、“事前期待に対する相対的な一致度”によって決まるのです。

ではなぜ、企業は事前期待に目を向けてこなかったのでしょうか。

事前期待は目に見えず、人によって違い、状況によって揺らぎます。扱いにくく、管理しにくく、可視化しにくい。これが「事前期待の構造」が長年ブラックボックスとして放置されてきた理由です。それを明らかにし、ビジネスに実装する

書籍『事前期待──リ・プロデュースからはじめる顧客価値の再現性と進化の設計図』

をもとに、「偶然と再現」をテーマに紐解くのが本シリーズです。

成果のバラつきは“個人差”ではなく“事前期待の違い”が生むもの

成果の揺らぎが大きいと、「あの人は経験が浅い」「スキルが足りない」と評価されがちです。しかし、多くの場合、その人が行っている行動は決して間違っていません。問題は、行動が間違っているのではなく、行動が“どの事前期待に対して”提供されているかが合っていないことにあります。

同じ営業でも、丁寧さを求める顧客と、結論だけ知りたい顧客とでは、必要とされるコミュニケーションはまったく違います。店頭でも、自分に合う商品をプロに選んでほしい人と、

ひとりで自由に選びたい人では、求める接客は大きく異なります。

行動の良し悪しは、行動そのものではなく、その行動が“どんな事前期待の文脈に置かれているか”によって変わる。この視点を持たない限り、成果の安定化は永遠に手に入りません。

成果は “事前期待 × 行動” の掛け算で決まる

成功は、行動だけの問題ではありません。行動がどれほど優れていても、事前期待から外れた瞬間に価値は失われます。逆に、行動が多少不完全でも、事前期待と一致していれば成果は出ます。

「事前期待× 行動」の掛け算で成果は決まります。

行動の出来が80点でも、事前期待との一致度が20%なら成果はほとんど生まれません。逆に行動の出来が60点でも、事前期待との一致度が90%なら成果は大きく跳ねます。この“事前期待の一致度”こそが、多くの企業が扱えていない領域です。

成長曲線が跳ね上がる人がやっていること

ビジネスパーソンの多くは、

「経験を積み、挑戦し、たまに成功し、失敗しながら学ぶ」

という直線的な成長をたどります。これに対して成果を出し続ける人は、成功した際に必ず“構造”を見にいきます。

なぜ成功したのか。

どんな事前期待が存在していたのか。

その事前期待に対して、どの行動がどのように作用したのか。

この構造理解によって、行動をただ増やすのではなく、「事前期待に合った行動を再現する」という成長曲線に切り替わる。するとある瞬間、成長は直線から曲線へ変わり、跳ね上がりを見せます。この跳ね上がりの正体が、事前期待を起点とした“成功の再現性”です。

第2回予告:成功を分解し、再現性を手にする「ARISEモデル」へ

次回は、成功を再現可能な状態に変換するためのフレームワークであるARISEモデルを紹介します。

A:Analysis(成功の分解)

R:Recognition(事前期待の構造を読み解く)

I:Implementation(再現の型をつくる)

S:Simulation(小さく試す)

E:Expansion(横展開する)

このモデルを使えば、成果の偶然性を排除し、行動ではなく“事前期待の構造”を軸にした再現性を手にすることができます。